桜庭一樹読書日記

2013.09.05

まだ桜庭一樹読書日記 【第10回】(1/3)[2013年9月]

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気取った若者たち
【気取った若者たち】読んでる資料の一ページ。(桜庭撮影)

8月某日

 怒ってほしいわけじゃない。ただ、傷つけてほしい。
 私がシュンちゃんを傷つけるのは、私のこともうんと傷つけてほしいからだ。嫌いになってほしい。脅かしてほしい。わたしにとってのあなたがなんなのか、教えてほしい。
 私は、この気持ちをなんて呼ぶのか、知らない。


――『好きと嫌いのあいだにシャンプーを置く』


 実話を語ることは、ある意味で、もう一度それを体験することだから。

 無傷の人などいない。


――『ペーパーボーイ』


 さらに、世界の定番サンドイッチをこの“提供シーン”と“パン”からポジショニングし、表1.(23頁)で挙げた「パンと食材のバランス」と組み合わせてみる(右頁表2.を参照)。

 定番サンドイッチとは何か?
 なぜそれを知る必要があるのか?


――『サンドイッチの発想と組み立て』

 飲み会の前に、都庁まで運転免許の更新にやってきた。
 どうして飲み会の前なのかというと、人に会うから珍しく化粧をしてるので、ククク。ついでに免許の写真もこの顔で、と思ったからである。ペーパードライバーで、最後にハンドルに触ったのは百年前とかだから(って『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』みたい……)、無事故無違反の優良コースで講習を受ける。
 さすがにそのコースの人は真面目な人が多いのか、開始時間より三分ぐらい早く入ったのに、最後の一人で、講師に「どうしたの?」と不思議そうに聞かれる。ど、どうしたって、どうしたんだろう……?
 講習はつつがなく終わり、講師に「みなさん古い免許証も捨てないでください。見比べると、五年で白髪が増えたなぁとか、よい思い出になります。アルバムに貼ってはいかがでしょう?」とアドバイスされながら退室。
 時間が余ったので、セブンイレブンの百円のコーヒーを飲みながら、読みかけの『ペーパーボーイ』で時間をつぶす。さいきん映画版を見たのだけど、原作とはラストも雰囲気もちがうらしいので読んでるのだ。
 1969年フロリダ。地方新聞社の父親のもとに、マイアミの大手新聞社に勤める長男がもどってくる。地元で起こった殺人事件の記事を書くために……。地方特有のこの陰鬱な空気、不幸が日常であるような時間、そして当然の如く起こる、悲劇と喪失の予兆……。
 映画が面白ケッチャム風だとすると、こっちはハイセンスに暗い。好みだけど、わたしは原作が好きかも……。
 時間になったので、飲み屋に顔を出す。作家、編集者、ライター、書店員。本と食べ物の話をしつつ、とにかく食べる。
 本の話もしたけど(『好きと嫌いのあいだにシャンプーを置く』という恋愛小説が、軽めだけどちゃんと文学で、めちゃくちゃよくて、ここ2カ月、読んだ人を探して話題に出すのだけど、いまのところまだ会えない……。あと〈文藝〉に載ってた一宇たかみさんの「冷蔵庫の奥の形見」もよかった)、すぐ酔ってきて「山梨県ってなんで山梨って言うの?」(←書店員さん)「梨が名産だからだよ」(←作家)「葡萄でしょ!」(←ライターさん)「山がないからだ!」(←書店員さん)「じゃ、葡萄はどこで作ってるんのよ」(←編集さん)こんな会話のループになっていった。一人がしみじみ、

書店員さん「俺、売り場の若い子から、桜庭さんたちと飲んでてなにを話すんですか、やはり文学の話題ですか、とキラキラした目で聞かれて、うなずいちゃったんだけどさ……」
全員   「……」

 反省しながら帰ってきた。  しかし、帰りに自分のあいふぉんのメモ帳を見ると、作家さんお勧めの映画『ペチコート作戦』『パダヤッパ~いつでも俺はマジだぜ!~』、書店員さんお勧めの映画『宇宙人王さんとの遭遇』、ライターさんお勧めのYA本『さよならを待つふたりのために』が書いてあったので、泥酔しながらも本や映画の話をし、かつメモを取ったらしい。
 帰宅。小説を読むには酔いすぎているので、不気味なレシピ本『サンドイッチの発想と組み立て』を開いた。これは2500円もする、世界中のサンドイッチをパンと具とソースと食べるシーンで分析、解体、再構築する、理系の解剖の本みたいな、かつ変態チックな、奇怪な本だ。これに載ってしまうと、アジア編→日本の「やきそばパン」「コロッケパン」まで、気味の悪いレシピと思えて、最高だ。
 そうか、昔からレシピを読むのが好きなのは、きっと食を通じて他者の奇妙な性的志向ならぬ「食的志向」を追体験したいからなんだな……自分は本当に心の底から変態が好きなんだ……と思いつつ、酔いが回って、メンチカツパンの辺りで気絶するように寝た。




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