桜庭一樹読書日記

2013.07.05

まだ桜庭一樹読書日記 【第9回】(1/4)[2013年7月]

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ポー人形
【ポー人形】アメリカ取材旅行でみつけたポーの人形。……愛情が感じられない造りだっ。(桜庭撮影)

4月某日

 人の頭脳は四種類に分けられます。頭のいい人、頭の悪い人、頭の強い人、頭の弱い人。
 この中で絶対に小説を書くことができないのは「頭のいい人」です。ほかの三種類には書くことができ、一番向いているのは「頭の強い人」です。
 人には真、善、美、偽、悪、醜の六つの要素が備わっています。頭のいい人は、偽、悪、醜について考えていると、頭が痛くなってしまうのです。だから、眠ってしまうほかに、頭痛から解放される途はありません。(略)

 小説ではまず作品の材料を書き並べ、その奥底にあるものをつかみ出す方法の確立、つまり「虚」によって「実」を破るのが文学です。


――『車谷長吉の人生相談 人生の救い』

 夕方、K子女史から、「いま奥泉さんと打ち合わせの帰りなんですけど、伝言が」と連絡があった。

K子女史「ええと……。来週タップダンス教室に体験入学しにいくから、よかったら桜庭さんも行かないか、って……(当惑)」
わたし 「あぁ、タップね。行きますよ~。そうだ、K子さんもご一緒しましょうよ」
K子女史「……」
わたし 「もしもし?」
K子女史「えぇと、いったいどうしてタップダンスなんですか?」
わたし 「えっ? いや、どうしてって……習いたいですよねって。ほら、文学賞のパーティの2次会とかで、場がモッタリしてきたころに、あっちの席やこっちの席でやおら作家たちが立ちあがって、カタカタ踊りだしたらみんな楽しいからですよ」
K子女史「……」
わたし 「もしもし? もしもーし?」

 もともとは〈群像〉での鼎談の後で、そういうお話をしてたのだった。で、どうやら青山七恵さんお勧めのタップダンス教室があるとわかったらしい。よし、ひとつわたしもやってみようと思っていると、後日。5月末からの取材旅行の打ち合わせのために会ったK子女史が、打ち合わせの後、不審そう(?)な顔つきで、

K子女史「あの、タップダンス……?」
わたし 「うん。体を動かすと、仕事も捗りますしね」
K子女史「……」
わたし 「……って、こないだから、なんなんですかいったい? 妙に不思議がっちゃって」
K子女史「なんでって、いや……。タップダンスもですけど……。だって、奥泉光とは“知の巨人”じゃないですか。とんでもなくすっごい人ですよ? 日本最高峰の一人ですよ? 生半可な知識や思想では太刀打ちできないし、普通、緊張するものじゃないのかなぁと……。そんな気軽に、一緒に踊るなんて、桜庭さん。……アホのくせに!(←最後のは心の声)」
わたし 「えっ……。で、でも、ですよ(焦る)。人間ってものは、中途半端な知性があると、周りの人の知性のあるなしも悪い意味で気になっちゃうし不満を持っちゃうけど、巨人ともなると、誰がどんな感じでもそう気にならないものじゃないでしょうか。こう、そよ風の……ような……?」
K子女史「風のような?(アホ?)」
わたし 「……。あのさぁ! 奥泉さんのことをすごく尊敬してるっていうのは、よくわかりますけど。でも……。K子さんって、わたしのことをどう思ってるんですかっ?」
K子女史「……。フッ!(鼻息)」

 という会話に首をひねりながら(なんであんなにアホだと思いこまれているんだろう……? いつからだっけなぁ?)帰ってきた。
 帰宅して、知の巨人ならぬ、情の巨人(?)、車谷長吉さんが朝日新聞土曜版の連載をまとめた『車谷長吉の人生相談 人生の救い』を読みながら、お風呂に入ったり、ごはん作ったり、犬をかわいがったりした。

 世の多くの人は、自分の生はこの世に誕生した時に始まったもと考えていますが、実はそうではありません。生が破綻した時に、はじめて人生が始まるのです。(略)あなたは高校の教師だそうですが、好きになった女生徒と出来てしまえば、それでよいのです。

 私の血縁者には自殺者が五人います。うち四人は「虫のいい男」で、「楽をして、いい目を見たい」としか考えない人でした。

 私が結婚したのは四十八歳の秋でした。それまでは毎日毎晩、淋しく、夜は木目込み人形を抱いて寝ていました。陶器で出来ています。背の高さは五十センチほどです。アパートの独り暮らしでしたから、知人が訪ねて来ると、驚いていました。夏目漱石「三四郎」に出てくる美禰子という名前をつけていました。


 毒があって、当然と思いこんでいたことが一気に力任せにじゃなくてじくじくと時間をかけてひっくり返されていく感じで、面白い。読む深夜ラジオ、って感じだなぁ。
 途中に『O・ヘンリーミステリー傑作選』をはさみながら、夜中まで、すこしずつ少しずつ、にやにや、にやにや読んでいた。




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