桜庭一樹読書日記

2011.11.07

またまた桜庭一樹読書日記 【第16回】(1/3)[2011年11月]

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女の上がりは……
【女の上がりは……】薙刀F嬢の新作イラストをいただく。「女の上がりは銅像」というのは、本人の発言……らしい(未確認……)。せっかくなので新居の本棚の前で撮影。(桜庭撮影)

10月13日

「悪は善なしでは生きられないんだよ」

「あなた、すごくおもしろいんですのよ。その娘はいろんな人形たちとおしゃべりするんですけど、その陰には一人の男がいるわけでしょ。それがまた幻の男で、だれも姿を見たことがないんですよ。きっと気違いみたいにその娘を愛してるんでしょうね。(略)」


――『七つの人形の恋物語』


K島氏「ぼくのドSって、イギリスのドSだと思うんですよねぇ……(真顔)」
わたし「イギリス?」
F嬢 「イギリス?」

 飯田橋のイタリアンのお店である。
 引越のどたばたも片付いて、『傷痕』の単行本用の改稿作業もようやく終わって、いつになくのんびりしている。で、今日は三人でごはんである。
 お酒を選びながらフンフンと聞いていると、

K島氏「ジーヴス執事に似てるとは、前から言われてましたけど、さいきん、メリー・ポピンズにそっくりだとも言われたんですよ」
わたし「ホントだ、似てる……! 確かにK島さんのドSは開拓者のドSじゃないですものね。なるほど、イギリスかぁ」

 感心して、うなずく。ワインを頼みながら、チムチムチェリ……チムチムチェリ……私は~、煙突の~、掃除屋さん~、という歌とともに、コウモリ傘を広げて、本を抱えてフワリフワリと飛んでくるK島氏を思い浮かべる。
 違和感は、ない……。
 と、屋根に着地して、いそいそとコウモリ傘をたたみながら、K島氏がふと思いだしたように、

K島氏「イギリスと言えば、桜庭さん、昔、チャーチル元首相の本読んでませんでしたっけ? 『GOSICK』の資料とかで」
わたし「あぁ、『第二次世界大戦』ですかね。懐かしい~。あれ、面白かったなぁ! とつぜんセンチメンタルで、独特で」
K島氏「まぁ、ノーベル文学賞ですからねぇ」
わたし「えぇ。……は? なに!?」
F嬢 「しっ、知らずに読んでたんですかっ」

 し、知らなかった……。ほんとに……。
 ときどき、すごいことを知らないまま一冊読み終わっちゃって、しかもそのまま生き続けてることがある……。
 と、びっくりしながら帰ってきた。
 この夜は、お風呂で中崎タツヤのエッセイ『もたない男』を読んで、出てきてから、最近、再読ブーム中のポール・ギャリコを手に取った。昨夜は『スノーグース』で、今夜は『七つの人形の恋物語』だ。
 数日前、矢川澄子訳のギャリコをっ、と近所の本屋さんに探しに行ったら、1980年代から90年代に出た本ばかりなのに、書店員さんが「あぁ、ギャリコの単行本だったら、なくなるとまた補充されて棚ざしになってるから、今日もあると思いますよー。……ほら、あった!」「わっ、ホントだ!」と、意外とすぐにみつかった。
 所はパリ。セーヌ河に身投げしようとしていたみっともない痩せっぽちの少女ムーシュは、7体もの不思議な人形たちに話しかけられて、彼らの人形劇団とともに旅することになる。が、優しく個性豊かな人形たちを陰で操る人形遣いミシェルは、そうとうひどい男で、これでもかとムーシュを虐め倒すのだった……。
 少女の成長物語という少女小説っぽさと、苦しみから生まれた多重人格を統合するという心理小説っぽさと、非道な男がじつはヒロインを愛していて、愛の成就によって救済されるというロマンス小説が同時に入ってて、なんだか、この物語自体が多重人格みたいだ。確か小学校の高学年のころに読んで、「?」と、面白いけど解釈しづらかった理由は、それかな……。
 少女小説(少女が自分なりの指針を持って誇り高く生きるが、事件や人との関わりで変化もし、成長する。『赤毛のアン』とか)と、ロマンス小説(女が自分を肯定してくれる存在と出逢って救われる。『トワイライト』とか)は、ベクトルが違うものだ。それを同時にフンガッと成立させた、当時のギャリコの書き手としての腕力と、魅力の元でもあるあの正体不明の混沌、ときどき未整理で投げだされたままになるなにかを思いながら、酔ってるし……ばたっと寝た。



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