桜庭一樹読書日記
2010.03.05
また桜庭一樹読書日記 【第9回】(1/3)[2010年3月]
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「咼の刑」またの名を「凌遅の刑」という。囚人の指、腕、足の関節、さいごに頸をだんだん斧できってゆく古い支那の刑罰である。 ――『妖異金瓶梅』 | |
| 2月某日 〈週刊文春〉で『伏 -贋作・里見八犬伝-』が始まったときのこと。K島氏としゃべってたら、 K島氏「八犬伝といえば、作者の馬琴が探偵役を勤める時代小説『へんこつ』 と言われて、いま読んで影響を受けちゃったらいけないから、執筆が終わったら読もう、とメモメモした。 それで『へんこつ』は文庫版をみつけて買ったけど、風太郎版『八犬傳』 という話を、文春のH鳥氏(偉い人で、シュッとしたダンディである)にしていたら、 H鳥氏「『へんこつ』の単行本版は、挿絵もたくさんついた豪華版でしたよ。いまは入手困難だけど……」 と聞いた。 へぇー、とうなずきつつ、そういえば『赤朽葉』で直木賞を落ちたときの平岩先生の選評に「日本語を大事に」とあったのを急に思いだした。そうだった、そうだった! 勢いは殺さないようにしつつ、でも、日本語を大事に! で、その数日後。角川のK子女史から「うちで山田風太郎の復刊をするんだけど、好きなのがあったら推薦帯を書きませんか?」と連絡があった。とはいえ、『甲賀忍法帖』 K子「風太郎版八犬伝? じゃ、それお送りしますよー」 と言われた。 なんだ、K子さんが持ってたのかー、と思いつつ電話を切って、さらに数日後のこと。近所を歩いていて、いつものバラックみたいな古本屋の百円ワゴンを眺めていたら、なんと、上巻だけが忽然と現れた(先週はなかった!)。ウーン、でも、上巻だけじゃなぁ、いつもは上下巻でみつかるのに、なにかの呪いかな、と思って、そこでふと閃いた。 もしかして、K子さん、持ってたんじゃなくて、アマゾンで買ってくれようとしてるのでは……!? 先日、H内編集長が言ってた「それ、きっとアマゾンで買ってくれてるんだよ」って、まさにこれのことなんじゃ……。 と閃いたまま、K子女史に連絡すると、はたして、 K子「なにっ、上巻だけ、例のワゴンに現れたって? でかした!」 からかうと、電話の向こうから、いつになく真面目な大人声がかえってくる。 K子「なに、言ってんですか。なにを隠そう、風太郎版金瓶梅はですね、あの北村薫先生がおもしろかったっておっしゃってた本なんですよ」 と、いうわけで。 二月のある日。今日の分の執筆が終わって、喫茶店に行って、本屋も寄って、帰ってきて、さて本を読もうと床に座りこんだとき。目の前には風太郎版の八犬伝上巻(廣済堂文庫版)、下巻(朝日文庫版)、金瓶梅の三冊がドーンとあった。 八犬伝のほうは書きあげてから読むことにして、金瓶梅から手に取った。あれっ……。例の精力絶倫の主人公、西門慶(でも、昔、わたなべまさこ版の漫画でしか読んだことがなくてじつはよくワカラナイ)と八人の夫人、太鼓持ちの語り手が出てくるのだけど、紹介文に「日本推理小説史上に残る名作『赤い靴』」とあるように、なんと、連作ミステリだった!!(金瓶梅なのに! 中国四大奇書なのに!) カリスマ西門慶と、個性豊かな八人の夫人が住む豪奢な館を舞台に進む密室劇で、女が殺され、その犯人と、犯行方法、さらになによりおどろくべき動機がつぎつぎ明らかにされる。ちゃんとミステリだけど、謎が解けたあとに、人の心、欲望の恐ろしさといういちばんの謎がむきだしでゴローンと、切られた女のおみ足のように、投げだされる。 お、おもしろい……。 いいのかな……と不安に思いつつ、誰も見てないので、こっそり、本棚のミステリコーナーの凄くいいところ(しかもカーのとなり)にしまって、そしたらけっこういい時間になってたので、もう寝た。 |
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