8月某日 死によってしか報われない、愛がここにあるような気がする。禁じられた息子の体に触れることが、どれだけ彼女に、深い愛と絶望を与えることだろう。 「あなたはあなたの情熱で愛して。わたしはわたしの絶望で愛すわ」 心中したいほど愛してる。 ――『ママン愛人』 現代では「はしりもの」を、いちはやく献立に取り入れるのは料理屋でしょう。暦のうえでは五月になれば夏。料理屋ではさっそく「はしりもの」のかぼちゃが登場します。出盛りのときのようにたくさんではなくて、ほんの少し。しかもそれは、決しておいしくてはいけないのです。「青臭いかぼちゃやな」というのがいいのです。未成熟なかぼちゃを一口食べて「もうすぐ夏が来る」というのが楽しくて、嬉しいのです。日本の季節の楽しみ方って、深いですね。 ――『まねしたくなる土井家の家ごはん』 |
わたし「天皇崩御の日、なにしてた?」 銀座の飲み屋にて。 集英社の人事異動につき、単行本担当の熊頭女史が〈小説すばる〉に異動になり、新担当になった。〈小説すばる〉担当だった新人氏(去年入社してすぐ担当に)が外れて、今年の春に入ったばかりの新新人氏が単行本担当になった。 二人とも、聞くと、大御所の先生の担当が多い。新人さんにはベテランさんをつけるものなのかな……? 新新人氏は平成元年生まれなので、ということは、昭和天皇崩御のときはまだこの世にいない、という話題になる。編集長はそのとき大学生だったという。で、ふと気づいて、新人氏に、「その日なにしてた?」と聞くと、ウッと詰まった後、「泣いてました。だって一歳だったし」と答えた。そうか。泣いてたのか……。 この日も『好きと嫌いのあいだにシャンプーを置く』の話題を出した。集英社だったからか、酔ってるからか、一度、シャンプーとジャンプを普通に言い間違えた。あ、でも、好きと嫌いのあいだにジャンプがあったというのも、それだけで妙なストーリーを思いつきそうだな……。と、考えながら帰ってきた。 あいふぉんのメモ帳を見ると、記憶はないが、「『火垂るの墓』 帰宅。気になって買った佐藤亜有子さんの遺作『ママン愛人』 デビュー作『ボディ・レンタル』 息子の自死から立ち直れない夫婦。美しい妻は、息子とそっくりな青年をみつけて恋に落ちることで、「息子のいなくなった世界で生きていく」よりも「息子とともに自分も死ぬ」ことを望むように。老いた女の放つ“母子心中”の夢に、次第に青年も巻きこまれていって……。 読みながら、ある深い共感がある。自分が父親を相手に書こうとしたことを、この作家は息子を通して書こうとしているように思う。 読み終わって、さいきん、寝る前にもうちょっと、と思うと料理の本をめくることが多いので、今夜は『まねしたくなる土井家の家ごはん』 と、死(性愛)の後に生(食)の本を読んで、酔ってるしでなんかいろいろ混乱しつつ、でも眠いので寝た。 |
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