3月20日

バンダは死んでも、自由を求める民族の夢は死なないだろう。


――『ゲームの達人』

 〈アエラ〉vs〈週刊ポスト〉の日だった。“放射能がくる”というコピーつきの、B級ホラー映画のポスターみたいな〈アエラ〉の表紙(いかにも〈映画秘宝〉に載ってそうだ……)に、読者の抗議が殺到してるらしい。たしかに、被災地で自衛隊員が赤子を抱く写真と“日本を信じよう/わたしたちは必ず力強く蘇る”というコピーが踊る〈週刊ポスト〉と並んでコンビニの雑誌棚におかれてるので、見るたび「!」「?」「!」「?」となる。なんだこりゃ?
 その〈週刊ポスト〉に北野武のインタビューが載っていた。
“「二万人が死んだ一つの事件」じゃなくて、「一人が死んだ事件が二万件あった」”んだ、というところを読んで、急にストンと胸になにかが落っこちてくる。“今まさに苦しみの渦中にある人を笑いで励まそうなんてのは、戯れ言でしかない。”
 北野武は14日に予定されていたバラエティ番組の収録を中止して、映画『アウトレイジ』続編のクランクインも伸ばしたらしい。
 一方で、震災の報道に心を痛めたり、できることを探してフラフラになってて、自分がものすごく娯楽を欲してもいることに気づいてる。テレビ東京で毎日、お昼過ぎから春休み映画スペシャルをやっているので、『若草物語』『ゴーストバスターズ』『ユー・ガット・メール』をがっつり見てる。TSUTAYAが開いてたり、入ってみたら大塚愛の「さくらんぼ」がかかってたりすると、ほっとしてニヤニヤする。
 K浜氏が話してたように、印刷と輸送の両方の問題で、本や雑誌が読者の手に渡りづらくなってる。そんな中、〈週刊少年ジャンプ〉3月14日発売号がウェブ上に無料公開されたと聞いて、オォッと思う。
 三連休だったこの週末――。きばってた緊張の糸が切れたみたいで、周りでもK子女史がとつぜん発熱、K島氏ははげしい歯痛でダウン、わたしはなぜか丑三つ時に風呂で鼻血を噴出した。血だまりで「あー」「ウー」と、鼻を押さえてじたばたした。あと、急に怒りの発作に襲われてるという友達もいた。
 おっきい余震が続いていて、夜の十時過ぎとか明け方が多い気がする。すると起きて、揺れる蒼い暗闇にじーっと目を凝らす。
 10分くらいそうしてて、それから目を閉じて、瞼の裏に、復興するはずの明るい未来を夢見る。全力で漕いでそこに向かうイメージ。みんなで。なぜかチャリで。手製の羽がついてる。鳥人間? ……震えて、眠る。
 朝起きると、ツイッターのタイムラインにおっかない夢を見て目覚めた女の人がたくさんいる。
 この日、宅急便が日時指定できなくなっているので、急ぎの『ブルースカイ』新装版のゲラを取りに、若い編集さんが近所まできてくれた。ぎりぎりの時間になっちゃったので、うちを出て急いで歩いていたら、半分ぐらいの齢の男の子と肩がドンとぶつかった。都会では、ぶつかったり足踏んだりしてもお互いになにも言わないという法律がある(いや、それはうそ)けど、男の子が振りかえって「あっ、ごめっ!」と言った。わたしも同時になぜか振り向いてて「うんっ」とうなずいた。
 編集さんにゲラを渡してから、紀伊國屋書店を覗いたら、真っ暗だった。そうだ、節電のために六時閉店なんだった。がっかりー……。そういえば、いま会った編集さんも、映画の新作公開が延期になった連絡が編集部に幾つもきてると言ってたなぁ……。
 帰りに、ゲラを読みすぎて肩や腰ががっちがちなのでマッサージに寄ったら、空いていた。停電のせいで電車がいつも通りじゃないから(行きも帰りもすごいぎゅうぎゅうだって)、都心で働く人たちが早めに帰宅するのかな? 薄暗い店内で、都会特有の無関心めの無表情が今日はお互いに緩んでて、お店の人も客のわたしもニカーッと笑顔でうなずきあった。
 そういえば、ケーキ屋でもレストランでもこうだったな、と気づく。それに昨日も、飲み屋を出たところでおじさんの集団が一人を激しく胴上げしていて(栄転?)、つられてワーッと拍手だけ参加した。わたしたちを送って出てきた店の人も、「元気でいいじゃないか~」と言いながら自然と一同に混ざっていた。
 人と人の距離感が、田舎に帰ったときに感じるあれになってるみたい、まるでトウキョウビレッジじゃよ、と思いながら、ぷらぷらと帰ってきた。
 夜。買ったばかりの『若い小説家に宛てた手紙』(リョサ)と『ゲームの達人』(シェルダン)の両方を開いて……『ゲームの達人』にした。
 1883年、ダイヤモンドで一発当てるためにスコットランドから南アフリカに渡った男から始まった、白人富豪一族の愛憎入りまじる四代記。超訳されてるせいか、ソープオペラ風にどんどんストーリーが進んで、ドラマチックだけど生々しい感情が飛びこんでこないから、怖がらずに読める。ふっと、カリフォルニアの油田開発で一発当てた男とその息子を描いた『石油!』(アプトン・シンクレア)を思いだして、好きだったけどあのマグマは、ウーン、いまは……と、けちょん……と床を見る。
 こんなときになにを摂取したいかは人それぞれだけど、わたしの場合はどうも、対象と著者のあいだに時間や空間の距離があるものと、人間ではなくキャラクターが活躍する娯楽作らしい。
 しかし、とにかく……。
 出かけよう。人に会おう。それから、読もう。読もう。被災地じゃないこの場所で、蒼い闇に溺れないように!



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