ラウンジ
2010.01.06
東京創元社・文庫創刊50周年記念対談〈第2回:SF編 山本弘×大森望〉(3/3)[2010年1月]
●SFは「わからなくなった」か
大森 このあいだ、〈本の雑誌〉別冊の『SF本の雑誌』
そのとき思ったんだけど、ニューウェーヴ嫌いの人の反応は三種類あって、ひとつは北上さんのようにSFから離れる。もうひとつは山本さんで、おれの好きなものが正しいSFで、向こうがまちがってると主張する(笑)。第三の道は、まちがったSFを捨てて新しい独立国をつくる。これが梅原克文さん。
山本 日本では梅原さんの提唱した「サイファイ」という響きはかっこよくないよね。
大森 戦略ミスでしたね。好きなものじゃなくて嫌いなものにかっこ悪い名前を付ければよかった。「そんなブンガクかぶれはSFじゃない、スペフィクだ!」とか(笑)。
山本 北上さんは『アイの物語』を読んでくれたんですよ。「SFがわからない俺でもこれは読めたぞ」と。でもそれを言うと『アイの物語』の読者カードの四割ぐらいが女性で、しかもSFを知らなかったという人が読んでくれてる。
で、思ったのはね、相変わらず「SFは売れない」と言われるけど、嘘なんです。普通の人がちゃんと読んでくれる。下地は広がってるんですね。昔なら「難しい」と敬遠していた人が読んでくれている。それに今はタイムトラベルものやパラレルワールドものを普通の作家が書いてるし。
大森 ただし、宇宙ものを除く(笑)。
――宇宙ものと言えば、山本さんの八位が『タウ・ゼロ』です。
山本 『タウ・ゼロ』もいいですよね。どんどんスケールが大きくなっていく。ぼくはスケールのでっかい話に弱いんだよね。宇宙船がどんどん暴走していって。
――でもさっき控室で話したら、同じようにスケールのでっかい『時間封鎖』はそれほどでもないと。大森さんの十位ですが。
山本 『時間封鎖』は普通です。時間が一億分の一になるなんて『タウ・ゼロ』に比べればスケールがまだまだ(笑)。
大森 でも『タウ・ゼロ』は、翻訳が出る前に雑誌の紹介記事でさんざんもてはやされて、「次の宇宙が生まれるまで宇宙船が飛び続ける、究極のハードSFだ!」とか騒がれてたんだけど、読むとほんとにそれだけ。
山本 それはね。確かに紹介のほうが面白かったね(笑)。
大森 『時間封鎖』は小説としてずっとよくできてますよ。『タウ・ゼロ』って結局、警備員が偉そうな顔して「おまえらちゃんと言うこと聞け」って威張る話じゃないですか(笑)。
山本 じゃあ『タウ・ゼロ』外してください(笑)。かわりにハーバートの『鞭打たれる星』を入れてほしい(笑)。同じシリーズの『ドサディ実験星』は読んでないけど『鞭打たれる星』はめちゃくちゃ面白い。
大森 星がかわいいんですよ(笑)。萌えキャラ。
山本 そうそう、萌えキャラ(笑)。星が鞭打たれる(笑)。みんな笑ってるけど、ほんとなんだって。
●思い出と思い入れと
――次の、大森さんの『ラモックス』と『惑星カレスの魔女』ですが。
大森 『ラモックス』は、自分からこれが翻訳したいと手を上げて訳した最初のSFなんです。昔、福島正実訳で『宇宙怪獣ラモックス』という抄訳版が出ていて、子どもの頃、それが大好きだったんですよ。ハインラインってジュヴナイルは天才的にうまい。ぼくは『夏への扉』って積極的に嫌いなんですけど(笑)、ジュヴナイルは『ルナ・ゲートの彼方に』もそうですが実に素晴らしい。中でも『ラモックス』はいちばんかわいい話。年とってから読むと、子供の主人公たちの面倒をみて頑張る大人の話としても楽しめる。
――『惑星カレスの魔女』は、最初の新潮文庫版は大森さんが編集したんですよね。
大森 宮崎駿さんの絵をもらうのに苦労したんです。忙しいからムリだと一度断られたんですが、「絶対面白いからとにかく読んでください」という手紙とゲラを持って二馬力(個人スタジオ)に押しかけて。会っちゃうと断れない性格らしくて、まんまと引き受けてもらった(笑)。本ができたとき、原画を返却にうかがったら、宮崎さんが「あげるよ」と、その場でサインしてくれた。家宝ですね。創元版を出すときは、ぼくが持ってるその原画を貸し出したんです。これ、カバー袖に「大森望所蔵」と入れてほしかったな(笑)。
山本 『カレス』ってスペースオペラなんだけど、まさに今なら「萌え」で売れる話だよね。
大森 そう。ぜひジブリでアニメ化をと頼んだけど、それは聞いてくれなかった(笑)。
――山本さんの十位の『地球の静止する日』について。これはアンソロジーです。
山本 これも思い入れの強い作品が多い。表題作の原作のハリー・ベイツははっきりいって駄作だけど、スタージョンの「殺人ブルドーザー」はずっと読みたかった。それと、ウォード・ムーアの「ロト」は久しぶりに読んで、こんなに面白かったんだと。これもさっきの話じゃないけど、妻子ができた今、父親の視点で読むと味わい深い。それからハインラインの「月世界征服」と、その撮影裏話が最高に面白い。ウォルハイムの「擬態」もかっこいいよね。
●日本SFについて
――日本SFでは作品がひとつずつ。大森さんは眉村卓『司政官 全短編』。
大森 眉村さんは子供の頃からほぼ全作品をずっと読んでますが、一冊選ぶとなったらやっぱり《司政官》シリーズですね。はじめて大人の世界に触れたというか、組織について教えてくれた作品。『消滅の光輪』も傑作です。
――山本さんは野田昌宏『レモン月夜の宇宙船』ですね。大森さんもモアテンで挙げていますが。
山本 野田さんの世界は嘘と事実が巧妙に入り交じってますよね。どれもいい話ですよね。
大森 後半の『SFパノラマ館』からの再録エッセイが素晴らしい。「コレクター無惨!」とか、エッセイなのにそのタイトルがSF史に残っている貴重な作品がいくつも入ってて。
山本 「SFってなァ、結局のところ絵だねェ」という有名な台詞(せりふ)が初登場する「お墓に青い花を」とかね。この台詞を吐いた友人というのは本当に実在したんだろうか、と思いますね。ある程度までは事実なんだろうけど。
大森 エッセイがいつの間にか小説になる。草創期のテレビ業界にいたからこそで、これは本当に野田さんにしか書けない。タレントの女の子と一緒にロケ先の島に取り残されるとか、めったにないホントの話にちょっとずつウソを混ぜていくから、どこからフィクションになるのかわからない。
山本 ただそれは果たしてSFなのか、と思うんだけど。でも野田さんのSFへの愛があふれてるからOKなんだよね(笑)。語り口がいいですよね。「レモン月夜の宇宙船」に出てくる佐渡守(さどのかみ)、いま読んでもこの人の口調って洒落(しゃれ)てるんだよね。
――そろそろお時間ですが、最後に創元SF文庫についてお言葉を頂けますか。
大森 これは伊集院静さんが会の挨拶で言ってたんですが、作家は故郷の出版社を持つべきだと。大宣伝してくれる派手な会社とばかり仕事をしてると、売れなくなったときぱたっと本が出なくなる。いつでも帰っていける版元を大事にしなさい、と。それ聞いてなるほどと思って、じゃあ自分の故郷はどこだろうと考えてみると、たぶん創元じゃないか。SFファンとしても、SF翻訳者としても、創元SF文庫がぼくの故郷ですね。
でも、昔の金子三蔵さんのカバーとかがリニューアルで消えて、岩郷重力とかに侵食されているのが残念で(笑)(大森さんと岩郷さんは同郷で高校時代からの友人)。たまに里帰りしたら駅前が改装されて、「昔はこんなに洒落た街じゃなかったのに!」みたいな(笑)。
山本 困ったなあ。ぼくは何でもかんでも読みあさったので、ハヤカワ文庫と区別できないんですよ。ただ創元のほうがちょっと文芸っぽいと思ったかな。初期のハヤカワ文庫が冒険路線だったこともあるけど。
――それはお二人の挙げたリストの中に《火星シリーズ》がないからですよ。
山本 差別化できないんだよ本当に。
――じゃあゲラにするときまでに、ちゃんと考えて埋めてくださいね(笑)。本日はありがとうございました。
(2009年5月10日、八重洲ブックセンター8階ギャラリーにて)
■ 山本弘(やまもと・ひろし)
1956年京都府生まれ。78年「スタンピード!」で第1回奇想天外SF新人賞佳作に入選。87年、ゲーム創作集団「グループSNE」に参加。作家、ゲームデザイナーとしてデビュー。2003年発表の『神は沈黙せず』が第25回日本SF大賞候補に。06年の『アイの物語』は第28回吉川英治文学新人賞ほか複数の賞の候補に挙がるなど、日本SFの気鋭として注目を集める。『時の果てのフェブラリー』『シュレディンガーのチョコパフェ』『闇が落ちる前に、もう一度』『MM9』『地球移動計画』など著作多数。創作活動のほか、「と学会」会長を務めるなど、多岐にわたる分野で活躍する。
■ 大森望(おおもり・のぞみ)
1961年高知県生まれ。京都大学文学部卒。翻訳家、書評家。主な著書に『現代SF1500冊(乱闘編・回天編)』、『特盛!SF翻訳講座』、『狂乱西葛西日記20世紀remix』。編著に、書き下ろし日本SFアンソロジー《NOVA》シリーズ、《年刊日本SF傑作選》(日下三蔵との共編)。共著に『文学賞メッタ斬り!』シリーズ、主な訳書にウィリス『航路』、ベイリー『時間衝突』ほか多数。
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