ラウンジ
2010.01.06
東京創元社・文庫創刊50周年記念対談〈第2回:SF編 山本弘×大森望〉(2/3)[2010年1月]
●ベスト上位作をめぐって
――山本さんの第二位の『降伏の儀式』もそうですか。
山本 ゾウさん(ゾウ型宇宙人)がハンググライダーに乗って攻めてくるんだよ(笑)。SF作家を招集して異星人対策を講じさせるとか(笑)。でもやっぱり、クライマックスの大宇宙戦争で許しちゃうんだよね。そもそも時代設定が20世紀末なので、進歩したテクノロジーが使えないわけです。そこに登場するのが、オライオンという原爆で推進する宇宙船。計画は実際にあったんだけど大気圏内核実験が禁止されたもんでポシャっちゃった。それで異星人に対抗しようと宇宙戦艦を造って敵の大艦隊と交戦するんだよ。
大森 でも『降伏の儀式』は真剣さが足りない。ちょっと能天気すぎる。
山本 科学的にも軍事的にも、理論的にはものすごく真剣に書いてるんだけどね。
――大森さんのベストに戻りますと、『年刊SF傑作選』については最初にお話し頂いたんですが、三位に『分解された男』。
山本 ぼくはねえ、ピンとこなかったなあ。年とってから読んだのがまずかったかな。
大森 最近読んだんですか?
山本 いや、25歳のとき(笑)。『虎よ、虎よ!』
大森 ベスターと言えば『虎よ、虎よ!』ですけど、実は『分解された男』のほうが派手なんですよ。なにしろ超能力戦争ですからね。これは中学校時代に読んで、ものすごく興奮した。ディックとも近いところがある。ぼくの中ではむしろこっちのほうがワイドスクリーン・バロックのイメージですね。
――山本さんの三位の『銀河パトロール隊』はいかがですか。
山本 実は昔読んだときはピンとこなかったんだけど、小隅黎さんの新訳で読み直して、こんなに面白かったのかと思った。だって書かれたのは昭和12年ですよ。その時代に銀河系レベルのスケールで書いていたのかと。それと、今の目で見て、ちゃんと異星人が書かれてる。ただのスペースオペラだと、異星人はグロテスクな怪物か人間と同じ考え方をする生物ばかりだけど、スミスの異星人は異星人らしい。ちゃんとSFしてたんだ、と感心した。それと主人公のキニスンもスペースオペラのヒーローとしては知性派で、策略で相手を追い詰めるところがいい。
大森 《レンズマン》は巻を追ってのエスカレーションぶりがすごいですよね。『ドラゴンボール』と似てる(笑)。どんどんすごいものが出てきて最後は宇宙の命運が左右されてしまう。最初のいざこざがどうでもよくなってくる(笑)。
●ブラウンは基本
――大森さんの四位がブラッドベリ。山本さんがブラウン。心温まる路線ですね。
大森 ブラッドベリは『10月はたそがれの国』とどっちか悩んだんだけど、SFならやっぱり『ウは宇宙船のウ』。「霧笛」も「初期の終わり」も「太陽の金色(こんじき)のりんご」も、いちばん最初はこれで読みました。……あれ? 山本さんはブラッドベリはだめですか?
山本 いいのはわかるんだけど、個人的に趣味が合わない。
大森 『火星年代記』
山本 うーん(笑)。実はぼくの『アイの物語』
大森 ブラウンは基本ですからね(笑)。
――お二人とも同じ作品を選んだんですね。
大森 ふつう誰が選んでも『天使と宇宙船』でしょ(笑)。「ミミズ天使」がある以上。
山本 控室でもその話をしてたんです。「ミミズ天使」はファンタジーなのかSFなのか。
大森 そう。訊かれると非常に困る。ジャンルとしてはファンタジーで、構造としてはミステリ。科学はどこにもない(笑)。
山本 ないね(笑)。
大森 非常に不可思議な、あり得ない現象が次々に起こる。いったい何が起こっているのか、その理由を探す話。
山本 超常現象の謎を主人公が追うんだけど、最後に解けた謎が大バカ。読み終わったとき「こんな小説を書いてもいいんだ」と思った(笑)。
大森 日本人には、とくには子供にはわかりにくいはずのオチなのに、でもすごい衝撃を受けて。もう一生忘れられない(笑)。
山本 これには「回答」「帽子の手品」「ウァヴェリ地球を征服す」といった名作も入ってる。「不死鳥への手紙」は、さっきのハミルトンの話に通じるんだけど、人類の十数万年に及ぶ物語を手紙形式で語るというすごいスケールの話を短編でやってる。
大森 『ミステリーズ!』前号の北村薫さんと桜庭一樹さんの対談でもブラウンの名前は挙がってるし、50周年記念のフェアでは道尾秀介さんもブラウンの『まっ白な嘘』を推薦作に選んでる。創元といえばブラウン。ミステリ作家認定されそうな勢いなので、SF作家として守らないと(笑)。
山本 ミステリも書いてるんだから別にいいじゃん(笑)。
大森 ミステリ作家のブラウンとSF作家のブラウンはどっちが偉いか(笑)。花いちもんめしたとき、誰となら交換するか。
山本 不毛な議論だな(笑)。
大森 ミステリも面白くて、昔は全部読みました。『死にいたる火星人の扉』『3、1、2とノックせよ』『彼の名は死』。いちいちタイトルがかっこいい。
山本 実はね、扉をノックするシーンがあるとつい「三回、一回、二回」と(笑)、《サーラの冒険》で書いちゃった(笑)。《妖魔夜行》では「ウァヴェリ」にちなんで電波妖怪の「うわべり」というのを出したこともある(笑)。
●バラードかホーガンか
――六位、七位でカラーがくっきり分かれますね。大森さんが『沈んだ世界』、山本さんが『星を継ぐもの』。
大森 創元といえばバラードでしょう。
山本 創元といえばホーガンでしょう(笑)。だって読者投票で一位ですよ、『星を継ぐもの』。
大森 そんな、ついこのあいだ出たような本(笑)。
――ホーガンから50周年の祝辞をもらって驚いたんですけど、日本で出て30年になるんですね。そんなに経ったかと感慨深かったですよ。
大森 バラードは40年(笑)。
山本 そんな。もう五十歩百歩だよ(笑)。
大森 今となっては、確かに。どっちも英国作家だけど、その二人が五十歩百歩になってしまうというのは驚くべきことですね。
山本 SFとして面白いのはホーガンだよね? ぼくの評価は小説としての出来不出来じゃなくてSFとしてよく出来ているかどうかなので。わけのわからない謎を提出して、それを科学的に解き明かしていく手腕がとにかくすごい。
大森 いやいや、バラードだってSFとしてよく出来てますよ! とくに『沈んだ世界』は、ちゃんとアイデアもあって、山本さんが読んでも大丈夫なバラード流破滅SFです。
山本 なるほど(笑)。
大森 世界が水没して古代に戻る、『崖の上のポニョ』みたいな話(笑)。宮崎駿ってバラードの影響があるんじゃないかな。『ナウシカ』の腐海もかなりバラードっぽいし。
――山本さんはバラードはだめですか。
山本 『結晶世界』は世評が高いけど、でも、世界が滅びるというときにどうして女をめぐって撃ち合いをしなければいけないのか(笑)。納得がいかない。
大森 でも、ジャンルSFとは別のレベルで理屈が通ってたりする。実験的なことをとことん理詰めでやってるという意味では、SFの範疇(はんちゅう)で理解できると思うんですけど。
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