先日、ミステリ作家の太田忠司先生と偶然お会いしました。ももクロ主演のミュージカル「ドゥ・ユ・ワナ・ダンス?」上演中の、舞浜アンフィシアターのロビーで。ちょうど幕間休憩の短い時間だったので、そのときは挨拶だけでお別れしたのですが、後日twitterで「百田夏菜子について書きたい」と発言されていたのを発見。ぜひ読ませていただきたい! と、昨年8月の有安杏果編に続くエッセイ第二弾をお願いすることになりました。どうぞご一読ください。(編集部M)


「百田夏菜子という『運命』」
太田忠司  

 忘れられない言葉がある。

「百田夏菜子【註1】はキン肉マン【註2】なんです」

 南海キャンディーズの山里亮太【註3】の言葉だ。僕がももクロ【註4】のファンになって間もない頃にYouTubeで観た動画の中で、そう語っていた。
 ファンなら知っているとおり、百田夏菜子は所謂(いわゆる)「お馬鹿キャラ」だ。「五里霧中」を「ゴリキチュウ」と読み、「whale(クジラ)」の意味を訊かれていきなり「ワオー」と吠え(つまりホエール=吠えると勘違いした)、「ニュートンがリンゴで発見したのは何?」という問いに「ビタミンB」と自信たっぷりに答える。学校の勉強は本当にできなかったらしい。
 だが、ももクロでの彼女は違う。歌い、踊り、全力でパフォーマンスする。あの体のどこにこんなパワーが潜んでいるのかと思うほどの力強さで観客を揺り動かす。それは確かに、普段はダメヒーローと言われながら、いざというときには文字どおり超人的なパワーと勇気を見せつけるキン肉マンのイメージに重なる。
 この「百田夏菜子=キン肉マン」という印象は山ちゃんだけのものではないようで、ももクロのプロデューサーである川上アキラ【註5】が『キン肉マン』の作者ゆでたまごと対談したときも「キン肉マンは決めるところは決めるんですよね。そこがすごくカッコイイんです。百田も普段、ポーッと抜けた感じだけど、いざ本番のステージに立つと目付きが変わる。こちらのアドバイスが必要ないくらいの表情やパフォーマンスを出してくる」と両者の相似について語っている。
http://jgweb.jp/11501
(さらにいえば、百田夏菜子自身がキン肉マンのコスプレをしたこともある【註6】
 パフォーマンスだけではない。百田夏菜子の語る言葉は時にそれ以上の感動をもたらすことがある。一番有名なのは2014年に旧国立競技場で行われたコンサート【註7】の二日目、最後の挨拶で語った言葉だ。

「私たちは、天下を取りに来ました。でもそれは、アイドル界の天下でもなく、芸能界の天下でもありません。みんなに笑顔を届けるという部分で、天下を取りたい」

 笑顔の天下――僕はこの言葉をあの場所で直接聞いている。奇しくも僕にとって初めてのももクロのライブ参戦の日だった。55000人の観客のひとりとしてこの言葉を聞いたとき「もしこれが与えられた台詞でなく自分の中から出てきた言葉だったとしたら、すごいことだな」と思った。まだももクロについてそれほど詳しくなかったので、ライブの最後の言葉は全部自分たちで考えたことを語っているとは知らなかったのだ。しかも彼女はこの言葉をあらかじめ考えていたのではなく、あの場で咄嗟(とっさ)に口にしたらしい(「部分」という言葉遣いの微妙な違和感がそれを傍証しているね)。
 国立競技場でのライブは、日本においては最高峰のステイタスだろう。つまりこの日、ももクロは頂点に立った。観客動員数という目に見える形でのピークも迎えた(実際にはその後に行われた日産スタジアムでの桃神祭【註8】のほうが観客動員数では上なのだが)。
 ではこの先、何を目指すか。おそらくももクロのメンバーも、そして彼女たちを支えてきたスタッフも思いあぐねていたのではないだろうか。多くの場合、この先にあるのは衰退だ。頂点に立ったら、あとは下がるだけ。勢いは衰え、ももクロそのものの存続も危うくなる。アイドルの寿命は、それでなくても短い。二十歳前後となった彼女たちには、後が無くなりかけていた。
 しかしそんなとき、まさに頂点に立ったその日に、百田夏菜子が新たな目標を掲げてみせた。
 笑顔の天下。
 この言葉はその後、ももクロのメンバーからもスタッフからも語られることになる。数や量では測れない、しかし挑戦するに足る目標として。まさにその後のももクロの原動力となる言葉だ。
 そんな言葉を必要なときに的確に提示することができる、しかもそれを熟慮の結果ではなく咄嗟の思いつきで発する(発してしまう)百田夏菜子は、真にリーダーとしての資質を備えた人物なのだ。

 とは言うものの。
 百田夏菜子をただ「リーダー」というイメージに押し込めてしまうのにも、僕は疑問を感じてきた。
 彼女にはまだ何か、違うものがある。
 しかしそれが何なのか明確にできないままだった。
 それが不意に理解できたのは、つい先日のことだった。

 2018年9月24日から、舞浜アンフィシアターにおいて、ももクロの初めてのミュージカル「ドゥ・ユ・ワナ・ダンス?」【註9】の公演が始まった。
 大雑把なストーリーは、こうだ。

 高校でダンス部を結成しているカナコ、シオリ、アヤカ、レニの四人はダンス大会を翌日に控えたある日、買い物に来ていた渋谷で暴走車の事故に巻き込まれ、死んでしまう。
 四人は天使の采配によって転生することになるが、ひとりカナコだけは自分が死んでしまったことに納得せず、転生を拒否して、先に転生してしまった親友たちを探しに行く。
 転生を済ませた三人はそれぞれの新しい人生を歩んでいたが、みんな自分の現状に疑問を抱いてもいた。
 そこへ現れたカナコは三人に失われた前世の記憶を呼び起こさせ、再び一緒に踊ろうと誘う。夢とも現実ともつかない世界で四人はアイドルとしてデビューし、みんなを笑顔にするために歌い踊る。そして……。




 ももクロの楽曲を折り込んだステージは、シルビア・グラブ【註10】、妃海風【註11】というミュージカルのプロやアンサンブルの面々がももクロの歌を歌って踊ることで、普段のももクロのライブに似て非なるものとなった。あらためてももクロの楽曲の完成度と先鋭性も認識できたし、なによりももクロ四人の舞台役者としてのポテンシャルの高さにも驚かされた。
 本当のことを言うと初見では、脚本上の疑問や演出の方針にいささか疑問を持ち、観了後の印象は少々よろしくなかった。が、二度目に観たときは舞台が練れていたこともあったのだろうが、前もってこういうものだと理解して観たおかげで、より強くその世界に没入でき、とても感激した。
 そして理解した。これは百田夏菜子の舞台なのだと。
 ストーリーで紹介したとおり、ここでの彼女は主人公のひとりでありながら狂言回しでもある。彼女のイレギュラーな行動が時空や現実と夢の境を打ち壊し、一度死んで別々の人生を歩むことになった三人を再び集結させ、一緒にダンスをさせる。
 アイドルグループ「HEAVEN(ヘヴン)」として歌い踊っているとき、他のメンバーはアイドルらしく観客に向かってアピールし続けているのに対し、カナコだけはときおり自分がこうして踊っていられることの喜びに我慢できないでいるかのように感情を爆発させていた(僕は二度目の観劇は最前列でだったのだが、喜びを全身で表現している百田夏菜子のキラキラした表情を近距離で見て眼が眩む思いがして、涙を我慢できなくなった)。
 後にこの世界はカナコの願望が形になったものだということが明かされる。シオリもアヤカもレニも、その世界に誘い込まれたのだ。
 これも初見のときの印象だが、この舞台においてカナコはメフィストフェレスなのだなと思った。錬金術師ファウストに対して様々な誘惑を行い人生を狂わせようとする悪魔だ。彼女は問題を抱えながらも平穏な人生を歩もうとしていた三人を「前世では友達だった。一緒にダンスを踊っていた」と誘惑し、全然別の人生を歩ませようとする。
 しかし二度目の観劇の後、考えを改めた。メフィストフェレスは別の運命を歩ませようとするために誘惑した。しかしカナコは、彼女自身がひとつの運命として三人の前に現れたのだと。
 そして、このミュージカルの前にも百田夏菜子は、ふたつの作品で同じ立ち位置の役を演じていたことに思い至った。

 ひとつは2013年12月に二夜連続で放送されたNHKのドラマ「天使とジャンプ」【註12】だ。
 ここでもももクロ(当時はまだ有安杏果【註13】がメンバーにいた)は架空のアイドル「Twinkle5(トウィンクルファイブ)」を演じている。
 五人組アイドルTwinkle5は人気の低迷とリーダーが突然脱退したこともあって解散し、残された四人はそれぞれの生活に戻る。しかしそこに不思議な少女カナエが現れ、四人の忘れかけた夢を思い出させ、一緒にアイドルを再開しようと勧誘する。そしてカナエを入れた五人で、自主的にアイドル活動を再開する。
 このカナエ役が百田夏菜子だった。彼女の正体は天使で、Twinkle5の歌声に惹かれて地上に降りてきたという設定だった。
 アイドルを辞めた後、一般の生活に戻りながらも屈託を抱えていた四人がカナエの誘いによって再びアイドルを目指す。この設定は「ドゥ・ユ・ワナ・ダンス?」とかなり似ている。おそらくだが脚本を書いた鈴木聡【註14】「天使とジャンプ」を意識していたのだろうと思う(鈴木もももクロのファンであり、以前はももクロにハマったオヤジたちがももクロの曲を歌って踊る「おじクロ」【註15】という舞台の作・演出をしている)。
 だとしても、なぜ百田夏菜子にここまで同じ設定の役柄を演じさせたのか。

 もうひとつは平田オリザ【註16】の小説を原作とする映画『幕が上がる』【註17】(2015年)だ。
 ここでの百田夏菜子は高校演劇部部長の高橋さおりを演じている。部員たちから押しつけられるようにして部長になったものの自信が持てなかった彼女は、たまたま赴任してきた吉岡先生(黒木華【註18】)が「学生演劇の女王」と呼ばれる人物だったと知り、半ば強引に教えを請う。そして吉岡の指導の下で演劇部はめきめきと実力を上げ、全国高等学校演劇大会の全国大会出場を目指す。
 一見するとこの物語、駄目な学生たちが有能な教師の指導で立ち直るという学園ドラマの定石のように見える。しかし後半、その様相は一変する。さおりたちの奮闘を見ているうちに吉岡先生の心の中にあった演劇への情熱が復活し、ついに教師を辞めて諦めていた役者の道に戻ってしまうのだ。
 吉岡先生を目覚めさせたのは、さおりだった。吉岡に役者から演出家への転身を促され、その才能を開花させて演劇部の実力を引き上げていく彼女の姿に感化されてしまったのだ。
 吉岡先生だけではない。他校の名門演劇部で活躍していながら、とある事情で転校し演劇も辞めてしまった中西さん(有安杏果)も、さおりと行動を共にし、語り合う中で演劇への情熱を取り戻し仲間となる。他の三人、ユッコ(玉井詩織【註19】)、がるる(高城れに【註20】)、明美ちゃん(佐々木彩夏【註21】)も、さおりと対することで役者として目覚めていく。
 平田オリザの原作でも、ストーリーの基本は同じだ。だが映画ではさおりの存在がより強調され、彼女によって周囲の人間の運命が変えられていく様が描かれている。

 運命。
 そう、運命だ。三つの作品どれでも、百田夏菜子が演じるキャラクターが周囲の人間たちの運命を変えていく。
 そういう資質を備えた女性のことは、昔からこう呼ばれていた。
 Femme fatale(ファム・ファタール)
 つまり、運命の女。

 一般にファム・ファタールとは男の運命を変え、破滅させる魔性の女を指す。
 だがこれらの作品において百田夏菜子の影響を受けるのは周囲の女性だ。
 彼女たちはカナコの、カナエの、さおりの行動と言葉によって運命を変えられる。
 しかしそれはメフィストフェレスのように、彼女たちを地獄へと落とすものではない。逆にそれぞれの中にあった願望や夢や才能を目覚めさせ、より高い階層へと導く。
 百田夏菜子が変える運命とは、相手にとって自身を革新させるものだった。
 だが、なぜそうなるのか。「ドゥ・ユ・ワナ・ダンス?」「天使とジャンプ」はももクロのために脚本が書かれた。『幕が上がる』もももクロのために脚色された。その作品すべてで百田夏菜子がファム・ファタールとなるのはなぜなのか?
 それは百田夏菜子自身が、すべての人々の前に「運命」として立ち現れるからに他ならない。
 頂点に立ち、目標を見失いかねないももクロに「笑顔の天下」という進むべき道を示したように。

 前から疑問に思っていたことがあった。
「なぜ百田夏菜子はリーダーにされたのか」ということだ。
 ももクロの歴史について知っているひとには常識だが、結成当初、ももクロのリーダーは最年長の高城れにだった。しかし程なくリーダーの座は百田夏菜子に移されている。
 高城れにがリーダーに向いていなかったのは、理解できる。彼女はむしろ遊軍として自由にさせておくのが一番相応しい。
 しかし、ではなぜ百田夏菜子だったのか。
 インタビューなどで知る当時の彼女は前に出ることを好まない、どちらかというと引っ込み思案な少女だった。運動能力は抜群だったものの、ダンスも歌もけっして上手ではなかった。なのに彼女はリーダーに抜擢された。
 当初彼女は、自分はそういうタイプではないとリーダーになることをかなり強硬に拒んでいたらしい。それでも運営側が彼女を選んだ理由はなんだったのか?

 ここからは僕の妄想である。
 川上アキラは直感で、彼女の能力を見抜いていたのではないか。
 いや、もっと踏み込んで言おう。川上氏自身がすでに百田夏菜子と出会ったことを「運命」と認識していたのではないか。
 川上アキラという人物は捉えどころがない。ももクロ結成当時の話をしても「よく覚えていない」などと言って要点をはぐらかしてしまうことが多い。
 だから僕は邪推する。彼が百田夏菜子と出会った時点で、すでにももクロの運命は始まっていた。彼女がすべてを引っ張って進み出すことが決まっていたのではないか。
 もちろんそれは、百田夏菜子自身が意図したことではない。しかしそれこそが、彼女をファム・ファタールたらしめている所以(ゆえん)なのだ。

 そして運命はもちろん、百田夏菜子自身をも巻き込み、変えていく。
 これも有名な話だが、彼女はもともとスポーツ選手志望で、将来はバスケットボールか新体操の選手になりたかったそうだ。
 その新体操において必要な芸術性を身に着けるために入ったダンスの教室で、他の生徒たちが当たり前のように芸能事務所に入ろうとしているのを知って、彼女もあまり深く考えることもなく今の事務所に入ったという(NHK Eテレ「SWITCHインタビュー 達人達『百田夏菜子×原ゆたか』」【註22】より)。
 結果的に、運動神経は抜群だったもののダンスとか歌とか演技とかといった表現の技能についてはまったく自信がなかった彼女が、ここまでのスキルを身に着け第一線で活躍するようになった。それが運命でなくてなんだろう。
 ももクロのファンとなった者も、その運命の渦中にある。彼女たちを見て、その魅力を享受し、少しだけかもしれないけど自分を変えていく。そんな力がももクロにあり、百田夏菜子はその源泉なのだ。

(あ、こんなに熱く語ってますけど、僕はももクロでは玉井詩織推しなんで)





【註釈】※文責:東京創元社編集部M

【註1】百田夏菜子:ももた・かなこ。1994年生まれ。ももクロ結成時からのオリジナルメンバーで現リーダー(二代目)。メンバーカラーは赤。感動エピソードにもポンコツエピソードにも事欠かない愛されキャラ。ももクロでは不動のセンターとして大活躍するほか、ソロでの仕事も多く、2016年下半期のNHK連続テレビ小説「べっぴんさん」ではメインキャストに抜擢。11月には出身地・静岡を舞台にした単発ドラマ「プラスティック・スマイル」で初の単独主演を務める(NHK BSプレミアムで放送予定)。
【註2】キン肉マン:ゆでたまご作のプロレスマンガ『キン肉マン』の主人公。本名・キン肉スグル。人間を超えた身体能力を持つ「超人レスラー」だが、ふだんは気弱な臆病者。だが仲間のピンチなどここ一番では「火事場のクソ力」を発揮し、ヒーローにふさわしい大活躍を見せる。マンガは現在、集英社・Webプレイボーイで連載中。
【註3】山里亮太:やまさと・りょうた。お笑いコンビ・南海キャンディーズのツッコミ担当。通称・山ちゃん。自身のラジオ番組「山里亮太の不毛な議論」(TBSラジオ)でももクロを猛プッシュし、グループのブレイクにインフルエンサーとして貢献した。
【註4】ももクロ:4人組女性アイドルグループ・ももいろクローバーZ(ゼット)の通称。2008年「ももいろクローバー」として結成、2010年メジャーデビュー。2012年に紅白歌合戦初出場、2014年には女性グループ初となる国立競技場でのライブを実現するなど、数々の記録と記憶に残る活動をしてきた。結成10周年となる2018年は1月にメンバーの有安杏果が卒業したものの、5月には初の東京ドーム単独公演2days、8月には千葉マリンスタジアムでの2daysライブをいずれも成功させた。12月には日本全国47都道府県を二年かけて回るホールツアー「ジャパンツアー『青春』」を完結、さいたまスーパーアリーナでの大規模ライブ「ももいろクリスマス2018」を12月24日・25日の二日間にわたり開催する予定。
【註5】川上アキラ:かわかみ・あきら。芸能事務所スターダストプロモーション社員。ももいろクローバー結成時からの名物マネージャー(現在の肩書きはプロデューサー)。思いつきで奇抜な企画を実行に移し、無茶ぶりを強いるのでメンバーから苦情が出ることも多いが、根本的には絶大な信頼を得ている、チームももクロの大黒柱。
【註6】キン肉マンのコスプレ:アニメソングのライブとしては世界最大級のイベント「Animelo Summer Live 2013 -FLAG NINE-」でのこと。2013年、さいたまスーパーアリーナでの3days公演のうち、ももクロは8月23日のDAY1に出演。自分たちの出番のあとコスプレ姿で再登場、アニメの主題歌「キン肉マンGo Fight!」をオリジナル歌手の串田アキラと熱唱した。ちなみに百田以外の配役は玉井:テリーマン、佐々木:ウォーズマン、有安:ジェロニモ、高城:ラーメンマン。
【註7】国立競技場でのライブ:2014年3月15日、16日におこなわれた「ももクロ春の一大事2014 国立競技場大会 ~NEVER ENDING ADVENTURE 夢の向こうへ~」のこと。女性グループとしては史上初となる国立競技場でのライブは、二日間で11万人を動員。当時のメンバー5人での聖火台への点火で始まり、百田夏菜子の名スピーチに終わる、ももクロの歴史に残るエポックなライブである。
【註8】桃神祭:とうじんさい。ももクロ恒例となる夏の大箱ライブのうち、「日本の祭り(との共演)」をテーマに、2014年から2016年にかけておこなわれたもの。2014年と2016年は神奈川・日産スタジアム、2015年は静岡・エコパスタジアムで、いずれも二日間開催された。2014年の観客動員数は合計12万4621人(公式発表)で、現在に至るまでももクロライブの最高記録である。
【註9】「ドゥ・ユ・ワナ・ダンス?」:2018年9月24日から10月8日にかけて、千葉・舞浜アンフィシアターで全19公演がおこなわれた、ももクロ初のミュージカル。演出は本広克行、脚本は鈴木聡。既存のももクロ楽曲を劇中歌に使用してストーリーを組み立てる、ジュークボックス・スタイルの作品。書き下ろし挿入歌「天国のでたらめ」(作詞・作曲:志磨遼平)は10月12日に配信が開始され、10月29日に舞台のダイジェスト動画でもあるミュージックビデオが公開された。
【註10】シルビア・グラブ:女優、歌手。ボストン大学音楽部声楽科卒業後の1997年、芸能活動を本格的にスタート。ミュージカル・舞台を中心に活動している。gravityという音楽ユニットでも活動中。
【註11】妃海風:ひなみ・ふう。女優。2009年に宝塚歌劇団に入団、2015年に星組の娘役トップとなり、2016年に退団。以降はミュージカル・舞台を中心に活躍している。
【註12】「天使とジャンプ」:2013年12月23日、24日の二夜連続、NHK総合で放送されたクリスマスドラマ。脚本・今井雅子、演出・新田真三。ももクロ初の主演テレビドラマ。2014年5月に映像ソフトが発売。
【註13】有安杏果:ありやす・ももか。1995年生まれ。2009年7月にももクロへ加入、2018年1月に卒業。歌・ダンスにおけるストイックさと高い技倆でグループのパフォーマンス面をひっぱった「小さな巨人」。在籍時のメンバーカラーは緑。
【註14】鈴木聡:すずき・さとし。劇作家、演出家。劇団「ラッパ屋」主宰。早稲田大学在学中に演劇活動を開始。1999年下半期のNHK連続テレビ小説「あすか」の脚本を担当。2012年の舞台「おじクロ」でももクロファンから注目され、「ドゥ・ユ・ワナ・ダンス?」で初めてももクロとの仕事が実現する。
【註15】「おじクロ」:2012年11月、劇団ラッパ屋第39回公演として上演された演劇。脚本・鈴木聡。さまざまな問題を抱える町工場務めの中高年男性たちが紆余曲折の末に一念発起、ももクロの楽曲「行くぜっ!怪盗少女」をコピーして全力で踊るクライマックスを迎える。
【註16】平田オリザ:ひらた・おりざ。劇作家、演出家。劇団「青年座」主宰。現代口語演劇理論の提唱者。自身の小説『幕が上がる』の映画化に際しては、撮影に先立ちももクロに演劇ワークショップを体験させて演技力を向上させた。
【註17】『幕が上がる』:平田オリザの同名小説(講談社文庫)を原作とする実写映画。監督は「ドゥ・ユ・ワナ・ダンス?」演出と同じ本広克行、脚本は喜安浩平。撮影に当たり、ももクロはスケジュールを2か月間ほぼこの映画のためだけに費やした。第40回報知映画賞特別賞、第70回毎日映画コンクールTSUTAYA映画ファン賞などを受賞。
【註18】黒木華:くろき・はる。女優。1990年生まれ。高校・大学で学生演劇に没頭し、京都造形芸術大学在学中の2010年に舞台デビュー。2014年、『小さいおうち』の演技でベルリン国際映画祭最優秀女優賞(銀熊賞)を受賞、2016年には「重版出来!」でテレビドラマ初主演。
【註19】玉井詩織:たまい・しおり。1995年生まれ。ももクロ結成時からのオリジナルメンバー。メンバーカラーは黄色。楽器演奏やトーク司会など、どんな仕事でもそつなくこなす安定のスーパーサブにして、加山雄三じきじきにお墨つきをもらった「ももクロの若大将」。
【註20】高城れに:たかぎ・れに。1993年生まれ。ももクロ結成時からのオリジナルメンバーで初代リーダー。メンバーカラーは紫。テレビ出演時にひとりだけ奇抜な扮装をしたりオチ担当になったりと、一般的には色物のイメージが強いが、誰よりもグループに対する愛情が深い、菩薩のように広大無辺な心を持つ癒やしキャラ。
【註21】佐々木彩夏:ささき・あやか。1996年生まれ。2008年11月にももクロへ加入。メンバーカラーはピンク。愛称は「あーりん」「あーちゃん」。ファンから「佐々木プロ」と称されるほどアイドル活動に対する意識が高く、アイドルとしての圧も強い。近年はライブ演出や曲選びにも積極的で、その結晶ともいえるのがソロコンサート「AYAKA-NATION(アヤカネーション)」である。
【註22】原ゆたか:はら・ゆたか。児童文学作家、イラストレーター。1987年に第一作が刊行された児童書『かいけつゾロリ』シリーズ(ポプラ社)が小学生からの圧倒的な支持を受ける。アニメ映画『かいけつゾロリ ZZ(ダブルゼット)のひみつ』(2017)のヒロイン・ゾロリーヌの声優を百田夏菜子が担当したことで縁が生まれ、NHKの番組での共演が実現した。



ミステリなふたり あなたにお茶と音楽を
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太田忠司(おおた・ただし)
1959年愛知県生まれ。名古屋工業大学卒業。81年、「帰郷」が「星新一ショートショート・コンテスト」で優秀作に選ばれる。『僕の殺人』に始まる〈殺人三部作〉などで新本格の旗手として活躍。2004年発表の『黄金蝶ひとり』で第21回うつのみやこども賞受賞。〈少年探偵・狩野俊介〉〈探偵・藤森涼子〉〈ミステリなふたり〉など多くのシリーズ作品のほか、『奇談蒐集家』『星町の物語』『名古屋駅西 喫茶ユトリロ』など多数の著作がある。 東京創元社での最新作は『ミステリなふたり あなたにお茶と音楽を』