ラウンジ

2010.12.06

目録奴隷解放宣言!――編集部Sの愛と憎しみの総目録奮闘記――(1/2)[2010年12月]

お待たせしました!『東京創元社 文庫解説総目録』をお届けします!

編集部S

 

「長谷川晋一/『東京創元社 文庫解説総目録[資料編]』巻頭言」はこちら

mokuroku.jpg ○はじめに
ここにとある一文があります。「お待たせいたしました! 創元推理文庫創刊50周年記念出版『東京創元社 文庫解説総目録』をお届けします」。 これは、11月10日に12月刊行の本に挟み込む新刊案内のために書いた文章の冒頭です。まるですでに本が完成しているかのような文章ですが、これを書いたときは、「本当に12月に刊行できるのだろうか……」と心配で心配で仕方がありませんでした。とはいえなんとか刊行のめどがつき、新刊案内を差し替える必要がなくなってほっとしています。

前置きが長くなりました。私は東京創元社編集部のSと申します。翻訳ミステリの担当をしていますが、なぜか『東京創元社 文庫解説総目録』の編集を手伝うことになり、いつのまにやら中心になって編集を行い、そして最後には「目録奴隷頭」となり社内中から同情されるようになった者です。この文章は「総目録のおもしろエピソードを書いてね」といわれたのですが、「総目録残酷物語」にならないように気をつけて書いていきたいと思います。タイトルから何かしらをくみ取っていただければ幸いです。

○素敵なあらすじに溺れて
さて、思い起こせば去年のいまごろ……入社一年にも満たなかった私がやることになったのは、総目録の内容紹介文の打ち込みでした。総目録では、文庫創刊時の1959年4月から2010年3月までに刊行した本すべての内容紹介文を読むことができます。通常の解説目録がデジタル化されてからの内容紹介文はすでにテキストデータがあったのですが、昔のものはデータになっていなかったものも多いので、過去の目録の文章をデータにしなければならなかったのです。かくして、過去の目録を手に内容紹介文を慎重に入力していく地味な作業が始まったのでした。
ここで突拍子もない内容紹介文をいくつか発見して、目が点になることがありました。例えば……。

西ドイツとチェコの国境を挟んで、二人の典型的な前線指揮官がにらみあっていた。ベトナム戦争の英雄ノールズ大佐と、アフガニスタンで勇名をとどろかせたバラチェフ大佐。ペレストロイカ以後の東西緊張緩和という現実についてゆけない二人は、たがいに敵を求めてぶつかり合い、個人的な諍いを世界大戦勃発の危機に発展させてしまう。

個人的な諍いから世界大戦が勃発って!! いいのかよ! と思わずツッコミを入れてしまった印象深い文章です。これは創元ノヴェルズの『対決』(スティーヴン・ピータース)。その他にも、床に捨てられていたバナナの皮から始まる偶然の連鎖が、核ミサイル戦争を引き起こし世界を凄惨な地獄に変えてしまったという『地底のエリート』(創元SF文庫、K・H・シェール)など、なんじゃそりゃ!! と叫びたくなるようなものが結構ありました。あと編集部の先輩、桜庭一樹先生の読書日記でもお馴染みの薙刀F嬢と盛り上がってしまったのが、カーター・ディクスンの『殺人者と恐喝者』(創元推理文庫)です。ごくふつーのあらすじなのですが、最後の一文が「おなじみ、ヘンリ・メリヴェール卿登場の、ディクスン自信作。」なんですよ。「ディクスン自信作」、こう、なんだかじわじわとおもしろくなってくるキャッチフレーズではないかと……! いやディクスン名義の作品なのでなんら間違いではないのですが、こうも自信ありげに宣言されるとは……! この作業を通して、ツッコミのスキルが上がったような気がします。
目録の内容紹介文から読みたい本を探す読者の方もいると思いますので、これらのようにインパクトがあり、かつおもしろそうな内容紹介文を書く技術を身につけたいものです。

○突きあわせて、夏
それからまあ、いろいろあったのですがあまりよく覚えていないので、地獄の夏について書きたいと思います。そう、夏。思い出したくもない、夏。今年は酷暑でしたっけねぇ……(遠い目)。
会社のホームページに総目録のページがありまして、そこから内容見本をご覧いただけるのですが、総目録は目録部分と、著者名索引と作品名索引という三つで構成されています。この索引部分が曲者でして。なにしろ索引だけで550ページぐらいあるという、「ほんとに索引なの!?」というしろものなのです。いやもう、これって索引じゃないよね……と何度思ったことか。この著者名索引と作品名索引には長編のタイトルだけでなく、短編集・アンソロジー等の収録作品名まですべて載っています。これが意味するところは……つまり両者を突きあわせて、本当にすべての作品が、一字一句間違いなく、きちんと掲載されているかを調べなくてはならなかったのです!
ふう……思い出しただけで切なくなってきました。会社の一階に索引の校正紙を積み上げて立てこもります。そして私だけでは太刀打ちできない作業なので、アルバイトの方々に来てもらいました。普段は図書館司書をしているAさん、私のミステリ研究会時代の後輩Sくん、そして謎の助っ人Uさん。彼らがいなければ確実に総目録は刊行されなかったでしょう!! あなたたちの功績は今も私の心の中に刻まれておりまする!

さて、では突きあわせというのはどうやってやるのでしょうか? ちょっと実演(?)してみたいと思います。
私が著者名索引にある書名を読み上げ、残りの方々が、作品名索引にその書名がきちんと掲載されているかを調べます。

私「では次いきます。エラリー・クイーンの『エラリー・クイーンの事件簿2』、2は算用数字です。」
Aさん「ありました。」
私「では中身いきますー。(短編集の収録作品のことです)「〈生き残りクラブ〉の冒険」、生き残りはラスト・マンというルビが振ってあります。ラスト・マンはナカグロ(・←これのこと)ありです。クラブはカタカナです。」
Sくん「〈い〉の項にありました。」
私「〈ら〉の項にはありますか?」(←冒頭にルビがある場合は両方の項に書名を掲載します。)
Uさん「あります。あ、でもルビないです。」
私「なぬー! メモしておいて下さい!」

こんな感じです。書名を読み上げ、字があっているかを確認し、ルビの有無を調べ、所定の位置に入っているかを確かめるのです。これをえんえんと、えんえんとやっていたのです! 1日8時間、ひと月くらい? いやもう、最後の方には咽が枯れ、眼精疲労で頭痛が起き、しかしページをめくる速さは風のごとし! って感じでした。けれども、地獄はこれで終わらなかったのです……!(ゴクリ……)



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