ラウンジ

2018.01.31

コーセーシャという人々――校正課日乗の巻・その2――

湖の男
某月某日 新原稿が入稿されると、校正課に入稿仕様書が回ってくる。仕様書にはその本の判型や組み方、図版の有無などいろいろな情報が記載されている。
今日も編集部K・Kさん担当の作品の仕様書が回ってきた。校正を誰が担当するかの欄に目をやると、「社会」と!? 外部校正者さんにお願いします、との意味で「社外」と書きたかったのだろう。今月3点刊行のK・Kさんの多忙さがしのばれる。
後日T・K君も同じ書き間違いをしていた。みなさんお忙しいんですね。

某月某日 カタカナにそんなに苦手意識はないが、さすがに北欧の固有名詞はぱっと読めないことがある。
「一八六八年に数人の男が魚釣りをしに、スカフタルツンガからミルダルヨークルの北にあるフィヤトラバクスレイズ経由でガルデュルへ向かったときのことだ」
なんの問題もない普通の文だが、目慣れない地名がこれだけ並ぶとなんだか愉快な気持ちになってくる。(『湖の男』

某月某日 クロフツ作品のカバー校正。著者紹介に『クロイドン発12時30分』とあるのを見て、あれ、クリスティにも似たようなタイトルの作品があったな、と思う。『パディントン発4時50分』。発駅と出発時間をお間違えなく。

某月某日 『湖の男』帯の文言を校正。「白骨」「骸骨」どちらの語がよいか迷う。
『明鏡国語辞典』では「【白骨】風雨にさらされて白くなった骨」「【骸骨】死体の肉などが腐り落ち、骨だけになったもの」と。他の辞書も似たような説明だ。
「白骨は一部分でもいいけど、骸骨だと丸ごとって感じ?」「なーんとなく骸骨はヒト限定みたいな気がするな。牛の骸骨とは言いにくいもの」とか考えているところに、担当編集者K・Kさんが現われる。彼女の「白骨/骸骨」観を聞いてみると、「なーんか白骨のほうが終わった感があるよね」と。
結局、採用されたのは「白骨」、決め手は「終わった感」だったのだろうか。

ギデオン・マック牧師の数奇な生涯
某月某日 『ギデオン・マック牧師の数奇な生涯』の主人公の趣味は、クロスカントリー競走。この「クロスカントリー」を辞書でひいたところ、「断郊競走」と。クロス=断、カントリー=郊ということか。なるほど。

某月某日 本は重いが、本になる前のゲラはもっと重い&かさばる。400頁超のゲラ(B4判の紙200枚以上)を担当に返したところ、「持ってかえるのが大変だ~」とのたまうので、「ゲラをテレポーテーションできる超能力があったらいいね」と言ってみたが、いま一つうけませんでした。ま、宅配便でいいか。

某月某日 編集部T・K氏が『海王星市から来た男/縹渺譚』のゲラを持ってやってきて、「ねえねえ、ちょっといい? 教えて教えて!」と。
ためしに「ヤダ!」と言ってみるが、まったく気にせず踊り字のことを質問される。「意に介さず」とはこのことだと思う。

ピーター卿の事件簿
某月某日 『ピーター卿の事件簿』のゲラを見ていたら、糶という字が目に入った。
「カタルスの直筆原稿は、彼が長年、蔵書に加えるのを念願にしていたもので、糶を業者にまかせておくのが不安だったのだ」
「せり」と読み、競売・せり売りのこと。知らない字というものはまだまだあるものだ。

某月某日 校正課の新人Hさんがお伊勢参りに行き、「おかげ犬」の人形を連れて帰ってきた。江戸時代には、事情があって伊勢に行けない飼い主の代わりに犬がお参りにいったそうな。やや太めの柴犬?のような人形で、とぼけた表情をしていてなかなかかわいい。 社内ナンバーワン犬好きの編集部K・Kさんが来たので、きゃいきゃい言って喜ぶだろうと披露したところ、反応がいまひとつ。「犬が飼い主を置いてっちゃうの?」犬と飼い主が離れるということに納得がいかないらしい……。

okageinu.jpg

世界の終わりの天文台
某月某日 『世界の終わりの天文台』は北極圏と宇宙を舞台にしている。宇宙ステーションでの暮らしの描写について確認するのに、JAXAなどのサイトのQ&Aコーナーを参照していたら、「無重力でシャワーを浴びるのは危険」だという記述が。
水滴が飛び散って収拾がつかなくなるからかと思いきや、重力がないので顔にかかった水が流れ落ちるということがなく、顔から離れずに溺れてしまうからだそうだ。意外! そして想像すると恐い!

某月某日 製作部Mさんから内線があり、「『真実』今日出ます!」と言われたが、『内部の真実』『真実の10メートル手前』両方のゲラが動いているので混乱する。さて、真実はどこにあるのか?

超動く家にて
某月某日 『超動く家にて』のゲラを見ていた校正課の同僚Mさんから、餃子のルビについて相談を受ける。
『明鏡国語辞典』の見出し語としては「ギョーザ」とカタカナ、外来語扱いとなっている。『大辞林』は「ギョウザ」の見出し項目も立てて、語釈欄に「→ギョーザ」としている。 しかしひらがな表記もよく見かけるような気がする。地元のチェーン店の看板も「ぎょうざ」だ。『三省堂国語辞典』は「ギョウザ」を見出し語に立て、「〔『ぎょうざ』とも書く〕→ギョーザ」と。
焼売についても調べてみた。『明鏡』では「シューマイ」のみ、『大辞林』も見出しは「シューマイ」で語釈欄に「シャオマイ」の形も示し、『三省堂』も見出しは「シューマイ」だが語釈欄には「シウマイ」のかたちが。
なかなか奥が深い感じになってきたので、続きは次回に。


(校正課K)

(2018年1月31日)



ミステリ小説のウェブマガジン|Webミステリーズ! 東京創元社
バックナンバー