ラウンジ

2017.03.30

校正課だより 飯田橋・鳥見レポート 〈ハシビロガモぐるぐるの謎〉

「Webミスがデイリーになるので、なにか記事を書いてもらえませんか? 内容はなんでもいいんです。たとえば、お好きな鳥のこととか」
そう頼まれたとき、私はまさか本気で言っているわけではなかろうと思った。我が社は「ミステリ・SF・ファンタジー・ホラー」の専門出版社、鳥とは……あまり関係がない。Webミスの読者も、鳥に興味があるという人はそう多くはあるまい。

 とはいっても、私もバーダー(野鳥観察者のこと。バードウォッチャーという言葉はおおげさで気恥ずかしい)のはしくれ、ほかの人に鳥に興味を持ってもらえるチャンスがあるなら、それを逃す手はない。さいわい、会社の近くには昔の江戸城の外濠が残っており、意外にたくさんの野鳥を見ることができる。せっかくなので、身近で見られる鳥の観察レポートを書いて、都会で野鳥を見る楽しみをお伝えしたい。

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牛込濠(新見附橋から飯田橋駅方向を望む)


 JR中央線の飯田橋駅から市ケ谷駅の間には水をたたえた外濠があり、冬には鳥が北から渡ってくる。春は桜で有名なところだが、今はカモたちが泳いだり岸に上がって丸くなって休んでいたりする。

 中でも一番数が多いように見えるのは、ハシビロガモ(嘴広鴨・カモ目カモ科)だ。名前にある「嘴(はし)」とはくちばしのこと。その名のとおり、ほかの種類のカモと比べ、とても広いくちばしをもっている。英名はShoveler、くちばしをシャベルに見立てた名前らしい。

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ハシビロガモのオス


ハシビロガモのオスの頭は濃い緑色、光の当たり方によっては紫色にも見える。背は黒、胸は白くて脇腹は赤茶色だ。全長(くちばしから尾の先まで、まっすぐに伸ばした状態で測った長さ)は51センチ。

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ハシビロガモのメス


 ハシビロガモのメスのくちばしはオス同様に広いのだが、体の色はオスとはずいぶん違う。明るい褐色で、黒褐色の模様がある。(と図鑑などには書いてあるが、「褐色」とはよくわからない色だといつも思う)メスの全長は43センチ、オスよりけっこう小さいようだ。

 ところで、ハシビロガモたちをじっと観察していて不思議なことに気がついた。彼らは2羽で、あるいはもっとたくさんで、なぜか水面をぐるぐる回って泳いでいるのである。

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ハシビロガモぐるぐる(静止画だとわかりにくいが)


 求愛行動か? 集団お見合いか?と推理したが、調べてみるとそうではなかった。ハシビロガモは複数で円を描くように泳いで、渦巻きのような水流を起こし、水生小動物やプランクトン、水に落ちた草の種などを水面に浮き上がらせて食べていると考えられている、ということであった。このぐるぐるする採食方法は、ハシビロガモ特有のものらしい。

 そう思って見てみると、ただ円を描いて泳いでいるだけでなく、水中にくちばしを入れている。みんなでお食事中だったのか。

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ハシビロガモがぐるぐるしていた新見附濠


 今はまだたくさんいるハシビロガモも、冬鳥として飛来してきているので、春になればいなくなってしまう。もし近いうちに飯田橋界隈に来られることがあったら、外堀通りからでもJRの車内からでも、ぜひお濠をのぞきこんで、ぐるぐるしているカモたちを見ていただきたい。

(校正課M)

参考文献
『日本の野鳥590』平凡社
『野鳥の名前』山と渓谷社
『散歩で楽しむ野鳥の本』山と渓谷社
『新・水辺の鳥』(野鳥観察ハンディ図鑑)日本野鳥の会

(2017年3月30日)



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