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2017.07.11

文学賞の贈呈式を、のぞいてみる。 本格ミステリ大賞贈呈式レポート

出版業界にとって一大イベントである文学賞。華やかな舞台の常として、文学賞にも、あまり話にあがることのない裏側があります。先日はそのひとつとして、待機会をご紹介しました。(「賞が決まるまでの、ちょっとした裏話。 待機会レポート」
受賞作が決まるまでにちょっとした裏話があるように、決まってからも色々とあります。今回は、その色々のなかのひとつ、贈呈式をご紹介します。

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去る5月、第17回本格ミステリ大賞の受賞作が決まりました。第17回本格ミステリ大賞の小説部門は竹本健治さんの『涙香迷宮』(講談社)、評論・研究部門は喜国雅彦さんと国樹由香さんの『本格力 本棚探偵のミステリ・ブックガイド』(講談社)が受賞しました。改めて、おめでとうございます。ということで、前回の第70回日本推理作家協会賞から変わって、今回は第17回本格ミステリ大賞の贈呈式にお邪魔しました。
本格ミステリ大賞贈呈式の会場は、日本出版クラブ会館。出版業界に身を置く人々にとっては馴染みが深く、祝賀会だけでなく研修や講演会でもお世話になることの多い場所です。神楽坂の脇をはいり、地蔵坂をのぼった先にあります。

贈呈式の日程や場所は、あらかじめ招待状やFAX、メールなどで知らされます。この日の贈呈式は17時半開演とのことで、5分前には会場に到着しましたが、玄関でさっそく書評家の大森望さんと遭遇しました。
こういう風に、会場に着く前に知り合いの作家さん、書評家さんや編集者の方にばったり会うことも珍しくありません。ちょうど前日は第30回三島由紀夫賞・山本周五郎賞と第43回川端康成文学賞の贈呈式(贈呈式が二週続いたり二日連続していたり、不思議と時期が重なることもあります)。昨日の二次会の様子を伺いながら、荷物をクロークに預けて受付を済ませます。

そもそも文学賞の贈呈式には、どんなひとがくるのでしょうか。受賞者と選考委員、主催の出版社の方々は当然として、受賞者が招待したご家族ならびにご友人、そのほかに取材記者、各出版社の編集者などなど。作家、書評家の方々で受賞者のお知り合いであるとか、または書評家さんは新人賞の下読みに携わっているとか、ご縁のある方がお祝いにいらっしゃいます。文学賞の贈呈式といっても、かならずしも作家さんばかりというわけではないのです。
……と、ここまで普通の文学賞の贈呈式について簡単に説明しましたが、それでは本格ミステリ大賞がどうかというと、かなり違っていて、作家さんと書評家さんが大半を占めます。本格ミステリ作家クラブが主催ということもありますが、あらかじめ決められた選考委員がいるのではなく、会員みずから投票によって受賞作が決定しているので、お祝いに行こうという方も多いのかもしれません。

書評家の杉江松恋さんによる司会進行のもと、贈呈式は始まりました。まずは、事務局長の東川篤哉さんが選考経過を説明します。続いて会長の法月綸太郎さんから受賞者へトロフィーの贈呈(トランプの「ハートのクイーン」をあしらった、京極夏彦さんデザインの特別製です)、前回の受賞者による花束の贈呈と式は進んでいきます。贈呈が終わると各受賞者が登壇して受賞のことばをお話しします。

IMG_2983.jpg 竹本健治さんの『涙香迷宮』は「いろは歌」(仮名四十八字を重複させず七五調に仕立てた歌)が重要なモチーフになっている作品。スピーチでは、受賞のことばを「いろは歌」で披露されて喝采を呼びました。
(参考URL:https://twitter.com/takemootoo/status/879687706372055040
更に、その「いろは歌」のパネルを作成して、当日は作中に残されている謎に関する解答を竹本さんに耳打ちして正解した方にプレゼントするなど、作品に違わぬ遊び心に満ちた立ち居振る舞いでした。
続いて『本格力 本棚探偵のミステリ・ブックガイド』で受賞された喜国雅彦さんが受賞のことばをスピーチされます。海外古典ミステリを自分なりに読みなおして、いま読んでも本当に面白い作品は何か、これからミステリを読もうと思っているひとの参考になればと思って、と執筆に至ったきっかけをお話しされました。一方で、自分の漫画がこの本に収められていることに「本当にいいのでしょうか」とおっしゃる国樹由香さん。すかさず、喜国さんがマイクを替わって、国樹さんの漫画のおかげで普段活字の本を読まないような自分の友人も手に取って読んでくれた、と一緒に受賞できたことを嬉しそうに語っていらっしゃいました。おふたりの仲睦まじさが窺える受賞のことばでした。

そうして乾杯を終えると、会場のあちこちで歓談が始まります。
受賞作の話題から始まり、最近になって読んだ本の話や近況など、話の種も様々です。ここぞとばかり仕事の話をする方もすくなくありません。
盛会のうちに、会長の法月綸太郎さんが中締めのご挨拶。今回の贈呈式を以て法月さんは4年の任期を終えます。この4年を振り返り、そして新会長となる東川篤哉さんに励ましの言葉を贈ります。それを受けて壇上にあがった東川さんは、『涙香迷宮』の謎を解けたと自信満々で竹本さんのところに行ったものの外したらしく、笑いを取りつつ今後の抱負などを語られていました。

本会が終わっても終わりではありません。場所を変えて二次会、三次会とお祝いの会は続きます。もちろん二次会以降からお祝いに駆け付ける方もいらっしゃいます。

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候補作品の選定から選考会(または待機会)、受賞作の決定、公表、そして贈呈式――こうして、様々なひとが携わったひとつの賞に区切りがつき、ようやくひと息つけるのです。しかし、当然これで終わりではありません。文学賞は来年、再来年も続きます。賞の対象となる新作は、続々と発表されているのです。来年はいったい、どんな作品が賞の栄冠に輝くのでしょうか。いまから楽しみです。

(2017年7月11日)



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