ラウンジ

2007.12.05

酔読三昧 【第21回】萩原香[2007年12月]

山本弘『MM9(エムエムナイン)』は
怪獣災害に立ち向かう「気象庁特異生物対策部」
略して「気特対」の物語。
ぱっと見はトンデモ系だが、
本格SFの骨格を合わせ持っている連作集だ。


萩原 香 kaori HAGIWARA

 

 というわけで、またもや師走になってしまった。今年も1年間ご愛読いただきありがとうございます。誰も読んでない? ちょいとそこの兄さん読んでっておくれよ、毒にも薬にもなりゃせんから絶対安全だよ。

 それはともかく、うぷ、また朝まで呑んでしまった忘年会シーズンだもの連チャンで、うぷぷぅ、まだ酔ってる迎え酒だよ人生はお~いビールくれい。なにぃないぃ? ないなら買ってこいってば買ってきておくれよ~あ、すいませんすいません自分で行きます自立せねばいかんのだジェンダーフリー。

 しかし迎え酒をやったら酔っ払ってしまった。いい気分なので仕事したくない。

 久しぶりにヘヴィ・メタルの新譜でも聴くかね。Avenged Sevenfold『Avenged Sevenfold』は相変わらず威勢がいいねえ。Soilwork『Sworn To A Great Divide』も泣きのデス・ボイスが健在ではないか。そういえばLordiは4月に初来日してたんだなあ、メンバー全員怪物メイクでキッチュな印象だけど楽曲はポップ。

 ところで怪物と怪獣それぞれの定義はご存知か? ある人に言わせると、怪物=あまり大きくない、怪獣=巨大、となるらしい。なるほどねえ。『フランケンシュタイン』のボリス・カーロフは怪物でゴジラは怪獣ということか。

 いま観れば『ゴジラ』(1954)は稚拙だろうな。『キング・コング』(1933)のようなダイナメーションが駆使されているわけでもなく、着ぐるみだし口をあければ乱杭歯だし特撮は手作りの味わいだし。にもかかわらず、暗鬱なモノクロの銀幕の向こうで咆吼する初代ゴジラの佇まいには異様な存在感があった。

 原水爆の、あるいは天災の脅威にも擬せられるこの怪獣はまさしく荒ぶる神。超越的ななにものかの象徴、人間の善悪とは無縁の異物。だからか、なぜか畏怖と憧憬を禁じ得ない。

 ハリウッド製『GODZILLA/ゴジラ』(1998)がダメなのは、CGでどれほどリアルに描かれようとも所詮あれはでかい恐竜でしかないからだ。ただのナマモノではないか。まあ監督が、あの空疎で能天気な超大作『インデペンデンス・デイ』(1996)のローランド・エメリッヒだもんなしょーがない。

 いっそ何もかもおしゃかにしてくれすっきりするぞ焼け野原。権威権力ヒエラルキー丸ごとリセットされりゃあみんな裸一貫。敗戦の、東京大空襲の記憶がまだ色濃いあの時代に、観客はまさかそんなつもりで観ていたわけもなかろうが、ゴジラが街を城を国会議事堂を破壊、蹂躙するたび心ひそかにマゾヒスティックな快哉を叫んでしまう。日々の鬱屈がいっとき解消されるかのよう。病気かね。

 それはそうとゴジラはなんで日本にばっかり上陸するのだ。ゴビ砂漠に現われたという話は寡聞にして知らない。壊すものがないか。『ウルトラQ』『ウルトラマン』の怪獣どももいそいそと我が国にやって来る。こりゃあ地震や台風と同じ自然災害みたいなもんだな。

 というわけで山本弘の『MM9(エムエムナイン)』では、怪獣災害に備えて「気象庁特異生物対策部」が設置されている。「怪獣出現の兆候を監視し、発生を事前に予測。その性質を分析し、怪獣撃滅の対策を立てる」これが略して「気特対」の任務なのだが、怪獣警報が外れたりするとマスコミから叩かれたりもする。宮仕えの悲しさだ。

 と、ぱっと見はトンデモ系だが、この連作集は本格SFの骨格を合わせ持っている。そもそも巨大怪獣が地上を闊歩するとは質量保存則に反する。ここで作者が提示するのは「多重人間定理」だ。「怪獣とは3000年前に起きたパラダイム・シフトの名残であり、人間の属するビッグバン宇宙とは異なる宇宙起源を持つため、通常の物理法則が適用できないのだ」と。

 まあ難しいことはさておき、ウルトラマン抜きで科学特捜隊が活躍する小説と思えばよろしい。ちなみにMMとは「モンスター・マグニチュード」の略で災害規模の単位。たとえば体長60メートル、体積(水重量換算)330トンの怪獣なら、その災害の脅威度はMM6と評価される。

 で、なんと第2話「危険! 少女逃亡中」には身長20メートル、体重100トンの10歳くらいの女の子が出現するのだ。これはMM5。ただこの少女がほんとに怪獣なのか、それとも何かの実験で巨大化した人間なのか判然としない。人間だったら殺すわけにはいかんのではないか。少女怪獣(?)に「ヒメ」と名づけた「気特対」の対応は混乱を極めてゆく。

 で、ヒメの謎は最終第5話「出現! 黙示録大怪獣」で明らかに。ここではついに、八岐大蛇(ヤマタノオロチ)みたいな大怪獣が眠りから醒めてしまうのだ。体長140メートル、体重5000トン、観測史上最大級のMM9とくる。ヒメとの馴れ初めや如何に。それは読んでのお楽しみだ。

 ほかにも海棲怪獣、飛行怪獣、植物怪獣とぞろぞろ出てきて『ウルトラQ』を思い出させる。懐かしいなあ。オンエアされるたびに登場する怪獣たちを必死にスケッチしたもんなあ。ガラモンなんてお気に入りだったなあケムール人て不気味だよなあカネゴンは守銭奴であった。

 あ、うちの亀は巨大化したらガメラになるんだろうか。せっかく育ててやった恩義も忘れてわたしを襲ったりしないだろうな。ガメラは子供の味方だから襲わないよな。いや大人は関係ないから真っ先に襲うだろうな。井の頭公園の池に捨ててやろうかな。

 さてと、今日も忘年会だ楽しいな二日酔いが怖いなではまた来年。

(2007年12月)

萩原 香(はぎわら・かおり)
イラストレーター、エッセイスト。文庫の巻末解説もときどき執筆。酔っぱらったような筆はこびで、昔から根強いファンを獲得している。ただし少数。その他、特記すべきことなし。

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