ラウンジ
2007.01.05
酔読三昧 【第11回】萩原香[2007年1月]
ひねもすのたり酒が呑めればそれでよし。
そしてへヴィメタ三昧。
萩原 香 kaori HAGIWARA
これを読んでくださっている皆さま。新年明けましておめでとうございます。本年も駄文によろしくお付き合いのほどをお願い申しあげますまだまだ続くのかね。
しかし師走は怒濤のような忘年会シーズンであった。肝脳アルコールまみれ。とはいえトイレに駆けこむようなことはしない。せっかく胃の腑におさめたものをお返しするなぞ勿体ないではないか。そのかわり居眠りしてテープルに頭を打ちつけたりはする。カーン! いい音がして目が覚めてまた呑みなおし。右を見ても左を見ても酔っ払いばかり。世界がもしアル中100人の村だったら。
で、お正月。うって変わって静かなものだ。仕事がなくてヒマだな誰からもお呼びがかからない「いま、会いにゆきます」来んでよろし世界の中心で愛も叫ぶなよな。凧揚げもしない羽根つきもやらん歌留多ってなんだ初詣もめんどくさいし餅もおせちもいらん。お年玉はほしい。自分で自分にやろうかな。5000円。だんなもうひと声。せめて消費税込み5250円。
なんと寂しい人生であろうことか。涙そうそう。なに、ただちょっと長めの連休ではないか。ひねもすのたり酒が呑めればそれでよし。そしてへヴィメタ三昧。ADAGIOの『SANCTUS IGNIS』はネオクラの絶品だ。なおかつ読書三昧。桜庭一樹『赤朽葉家の伝説』は作者の天分がフルスロットルで弾ける。
これは戦後日本の通史を背景に、「祖母、母、わたし」と三代にわたる女性それぞれの断代史を描いた渾身の大作である。ライトノベルではないしミステリでもない。「赤朽葉万葉が空を飛ぶ男を見たのは、十歳になったある夏のことだった」――この冒頭の1行で、ガルシア・マルケスの『百年の孤独』が頭に浮かんだ。
懐かしいなあラテン・アメリカ文学にははまったなあ。アレホ・カルペンティエル『失われた足跡』は、アマゾン奥地への旅と時間を遡る旅とがシンクロした濃厚な作品だった。ホセ・ドノソ『夜のみだらな鳥』は、アイデンティティの変容を描いて極彩色の世界が息づまるようだった。フリオ・コルタサル『石蹴り遊び』は、小説をパーツごとにばらばらにして別な順番でも読めるという前衛だった。 ところでスペイン語圏ラテン・アメリカ文学の濫觴は、ミゲル・デ・セルバンテスの『ドン・キホーテ』である。発表は400年も前なのにメタフィクション。前編は狂気乱舞奇行の騎士道物語のパロディ。後編では「前編」がベストセラーになっていることを知ったドン・キホーテが正気に戻ってゆく。現世は夢、夜の夢こそ真。夢から醒める悲劇。読み通すのに1週間かかった。
忙しいかたにはダイジェスト版『丸かじりドン・キホーテ』がお薦め。数時間で読めてめっぽう面白い。著者は中丸明。みゃーみゃー(すいません)名古屋弁を駆使した『ハプスブルク一千年』『絵画で読む聖書』は抱腹絶倒だ。ちなみに『好色 義経記』は判官贔屓に逆ねじを喰らわせていやらしいぞ。
そういえば『ドン・キホーテ』を読みつつジグソーパズルをやったっけ。読書に疲れたら気分転換、と思ったがあにはからんや。こちらも完成まで1週間かかった。なにしろピースがみんな同じ形、あのM・C・エッシャーのヤモリだかイモリだかの絵柄なのだ。よくやったよ。しみじみ苦吟した。なにが気分転換なもんかもうやらん。
話を『赤朽葉家の伝説』に戻す。
舞台は中国山脈の麓、鳥取のとある村落。赤朽葉家は製鉄を生業とする一族であり、古代よりこの地に隠然たる支配を及ぼしてきた。語り手の「わたし」は、ひとりの幼女が村に置き去りにされたくだりから物語を説き起こす。漂白の部族“山の民”であり、文字を読むことも書くことも叶わぬその娘は予知能力を持ち、長じて赤朽葉家に輿入れをする。それが「わたし」の祖母、万葉である(第1部1953~1975)。
万葉の娘は毛毬(けまり)、剛の女だ。なぜか醜い男ばかりを愛し、その男勝りの腕っ節の強さで暴走族を率いて中国地方を制覇。“卒業”するや売れっ子少女漫画家に転身して命のすべてを燃やし尽くす(第2部1979~1998)。
万葉から毛毬へ、土俗(神話)の時代から人工(幻影)の時代へ。赤朽葉一族とそれを取り巻く異形の人々の、わけても2人を要に織りなされる女性たちの「宿業」の絵巻は「わたし」の時代に至るや転調を迎える(第3部2000~未来)。
毛毬の娘、「わたし」は瞳子(とうこ)という。一族の歴史の終結点か血の呪縛から解き放たれたか、憑きものが落ちたかのように平凡な娘だ。ここで小説はややミステリ色を帯びる。「わしはむかし、人を一人、殺したんよ」
万葉いまわの際の言葉に彼女は衝き動かされ、被害者探しを始め、それはそのまま祖母と母の人生を辿りなおす旅ともなり、やがて冒頭の「空を飛んだ男」にまつわる真実に逢着。かくして赤朽葉一族の歴史の円環は閉じられ、瞳子が生きるのは終わりなき日常の「現代」となる……
満貫全席のような作品だ(食べたことないのに)。満腹である。腹ごなしに映画でも観ようかな。お、ジョン・カーペンターの名作『ザ・フォッグ』(1979)のリメイク版
(2005)がレンタルされておるではないか。しかしハリウッドもリメイクやら続編続々篇ばかりだ沈滞気味だ邦画に興行成績抜かれるわけだと言いつつも観てしまった。ついでに『着信アリFinal』
(2006)も借りてしまった。
リメイク『ザ・フォッグ』は観んでよろしいただのC級。じわじわ真綿で締めあげるようなBGM、ひたひた潮が満ちるような「静」のサスペンスが醍醐味のカーペンターとは雲泥の差であった。『着信アリFinal』
のほうがまだマシ。こりゃ携帯を使ったバトル・ロワイヤルだな。主役はあの堀北真希。『野ブタ。をプロデュース』
の暗さはよかった。『鉄板少女アカネ!!』
の明るさは似合わなかった。
ううむ。ホラーはやっぱり韓流だなあ。『箪笥』(2003)は切なく怖いなあ。いわゆる幽霊屋敷ものと見せかけた大どんでん返しに唸るが、ハリウッド・ホラーにもジャパニーズ・ホラーにもない女性の「宿業」が濃密に漂うあたり、どこか『赤朽葉家の伝説』に通ずるものがある。
桜庭一樹の描く女性は強くて切ない。そして男は消耗品。だったら私は廃品かい。まあよいわARCH ENEMYの『DOOMSDAY MACHINE』でも聴くかな。いいねえメロデスドコドコドコドコ~♪お~い酒がないぞ~!!はい自分で買ってきます。
■ 萩原 香(はぎわら・かおり)
イラストレーター、エッセイスト。文庫の巻末解説もときどき執筆。酔っぱらったような筆はこびで、昔から根強いファンを獲得している。ただし少数。その他、今年も特記すべきことなし。
- バックナンバー
- マイクル・フリン『異星人の郷』の直筆サイン本を抽選で販売![申込締切9月30日]
- 【読者プレゼント】ジェイムズ・P・ホーガン『星を継ぐもの』サイン本を3名様にプレゼント【9月4日応募受付締切】
- 決定! twitterユーザーが選ぶ〈東京創元社 夏の100冊 2011〉(その1)
- twitterユーザーが選ぶ〈東京創元社 夏の100冊 2011〉応募要項
- 【読者プレゼント】豪華ファンジン、ロバート・J・ソウヤー『見上げてごらん。』のサイン入り本を3名様にプレゼント!
- 「あなたの復刊してほしい創元推理文庫2011」応募要項
- 【読者プレゼント】北原尚彦先生の蔵書から特選古書、ロバート・メイヤー『悩みのスーパーヒーロー』を1名様に![2011年2月]
- 魔夜峰央〈May探偵プリコロ〉好評連載中!
- 【読者プレゼント】朝松健の10年1月新刊『弧の増殖』(エンターブレイン刊)を3名さまに!
- 【読者プレゼント】特製文庫本(同人誌)『キャプテン・フューチャー フューチャーメン出動せよ!』を3名さまに!
- 目録奴隷解放宣言!――編集部Sの愛と憎しみの総目録奮闘記――(1/2)[2010年12月]
- 【読者プレゼント】BD(バンドデシネ)ブーム到来?! 話題の新刊『イビクス』『氷河期』『天空のビバンドム』のいずれか1冊を各2名様に![2010年12月]
- 【読者プレゼント】みちのく怪談の世界へ、ようこそ──。 『みちのく怪談名作選vol.1』(荒蝦夷(あらえみし)刊)を3名様にプレゼント!
- 【読者プレゼント】北原尚彦先生の蔵書中から、特選古書『展覧会の絵』を1名様に![2010年12月]
- 長谷川晋一/『東京創元社 文庫解説総目録[資料編]』巻頭言
- 『折れた竜骨』刊行記念 米澤穂信インタビュー(1/2)[2010年11月]
- 東京創元社・文庫創刊50周年記念対談〈第4回:ホラー編 宮部みゆき×風間賢二〉(1/3)[2010年11月]
- 【読者プレゼント】北原尚彦先生の蔵書の中から、特選古書を1名様に![第5弾]
- J:COM×AXNミステリーからの挑戦状、「二重密室から脱出せよ」に参加してきました
- 【読者プレゼント】北原尚彦先生の蔵書の中から、特選古書を1名様に![第4弾]
- 全囲碁好き垂涎! イ・チャンホ『イ・チャンホのハメ手対策』サイン本を、5名様にプレゼント(7月31日応募〆切!)
- twitterユーザーが選ぶ〈東京創元社 夏の100冊〉2010年版決定!(その1)
- 【読者プレゼント】北原尚彦先生の蔵書の中から、特選古書を1名様に![第3弾]
- twitterユーザーが選ぶ〈東京創元社 夏の100冊〉応募要項
- 【読者プレゼント】人気声優が演じる『タルト・タタンの夢』朗読劇第3回公演チケットを5組10名様にプレゼント!
- PS2ゲーム『ペルソナ4』体験レポート[全文]
- 【読者プレゼント】「こわくて、なつかしい」 『山田野理夫 東北怪談全集』(荒蝦夷(あらえみし)刊)を3名様にプレゼント!
- 【読者プレゼント】豪華ファンジン、チャールズ・ストロス『雪玉に地獄で勝算はあるか?』のサイン入り本を3名様にプレゼント!
- PS2ゲーム『ペルソナ4』体験レポート[部分]
- 【読者プレゼント】北原尚彦先生の蔵書の中から、特選古書を1名様に![第2弾]
- 【読者プレゼント】人気声優が演じる『タルト・タタンの夢』朗読劇第2回公演チケットを5組10名様にプレゼント!
- 【読者プレゼント】深水黎一郎『五声のリチェルカーレ』、著者サイン本を5名様に!
- 【読者プレゼント】ぞっとするけど、あたたかい。 『杉村顕道怪談全集 彩雨亭鬼談』(荒蝦夷(あらえみし)刊)を3名様にプレゼント!
- ボードゲーム『Cluedo(クルード)』体験レポート[全文]&『Cluedo』を2名様にプレゼント!
- 【読者プレゼント】朗読劇「タルト・タタンの夢」出演者インタビュー&著者・出演者サイン入り単行本を3名様にプレゼント!
- 【読者プレゼント】畠中恵先生の江戸ミステリをコミカライズ 『八百万(やおよろず)』コミックスを5名様に!(提供:フレックスコミックス)
- ボードゲーム『Cluedo(クルード)』体験レポート[部分]&『Cluedo』を2名様にプレゼント!
- 【読者プレゼント】ジャック・ルーボーさんのサイン入り『麗しのオルタンス』を10名様に!
- 東京創元社・文庫創刊50周年記念対談〈第3回:ファンタジー編 井辻朱美×金原瑞人〉(1/3)[2010年2月]
- 人気声優が演じる『タルト・タタンの夢』朗読劇チケットを5組10名様にプレゼント!
- 『リアル脱出ゲーム』体験レポート&企画者インタビュー[全文]
- 【読者プレゼント】台湾語版ドイル『冒険史』と台湾の日推専門誌『謎詭』4号をそれぞれ1名様にプレゼント!
- 東京創元社・文庫創刊50周年記念対談〈第2回:SF編 山本弘×大森望〉(1/3)[2010年1月]
- 『リアル脱出ゲーム』企画者インタビュー[部分]&『廃倉庫からの脱出』チケットプレゼント(提供:OTOTOY)
- 創元推理文庫創刊50周年記念対談〈第1回:ミステリ編 北村薫×桜庭一樹〉(1/3)[2009年12月]
- ●出版社が運営する文芸系ウェブマガジン・リンク集
- 『堀井雄二ミステリー三部作』インタビュー[全文]
- 【読者プレゼント】北原尚彦先生の蔵書の中から、特選古書を1名様にプレゼント!
- 『堀井雄二ミステリー三部作』インタビュー[部分]
- 【読者プレゼント】アラン・ムーア『フロム・ヘル』(みすず書房提供)を2名様にプレゼント!
- 【読者プレゼント】高野文子さんのオリジナルてぬぐい付き。月刊マンガ誌〈COMICリュウ〉11月号(徳間書店提供)を3名様にプレゼント!
- 『クイズマジックアカデミー』インタビュー[全文]&DSソフト『クイズマジックアカデミーDS』プレゼント!
- 星雲賞受賞、R・C・ウィルスン『時間封鎖』のサイン本を3名さまにプレゼント!
- 『クイズマジックアカデミー』インタビューにいたるまで&DSソフト『クイズマジックアカデミーDS』プレゼント!
- 『逆転検事』制作チームインタビュー[全文]&DSソフト『逆転検事』プレゼント!
- 『逆転検事』制作チームインタビュー[部分]&DSソフト『逆転検事』プレゼント!
- 『赤朽葉家の伝説』をモチーフにしたワイン〈赤朽葉葡萄酒〉(桜庭一樹先生サイン入り)を2名様にプレゼント!
- 北原尚彦さんのサイン入り最新刊『古本買いまくり漫遊記』(本の雑誌社提供)を3名様にプレゼント!
- 『ROMAN ALBUM 銀河英雄伝説 コンプリートガイド』(徳間書店アニメージュ編集部提供)を3名様にプレゼント!
- ●〈Webミステリーズ!〉について
- 容疑者タケウチの返信【書下ろしエッセイ】 竹内真[2008年10月]
- 酔読三昧 【第23回】萩原香[2008年5月]
- 酔読三昧 【第22回】萩原香[2008年1月]
- 酔読三昧 【第21回】萩原香[2007年12月]
- 酔読三昧 【第20回】萩原香[2007年11月]
- 酔読三昧 【第19回】萩原香[2007年10月]
- 酔読三昧 【第18回】萩原香[2007年9月]
- 酔読三昧 【第17回】萩原香[2007年7月]
- 対談 桜庭一樹・道尾秀介「祝・日本推理作家協会賞・本格ミステリ大賞受賞」(1/4)
- 酔読三昧 【第16回】萩原香[2007年6月]
- 酔読三昧 【第15回】萩原香[2007年5月]
- 酔読三昧 【第14回】萩原香[2007年4月]
- 酔読三昧 【第13回】萩原香[2007年3月]
- 酔読三昧 【第12回】萩原香[2007年2月]
- 酔読三昧 【第11回】萩原香[2007年1月]
- 酔読三昧 【第10回】萩原香[2006年12月]
- 読書室|蒼井上鷹「ラストコール」[2006年12月]
- 酔読三昧 【第9回】萩原香[2006年11月]
- 創元ライブラリ版『中井英夫全集』全12巻・全目次[2006年11月]
- 本多正一『中井英夫全集』完結にあたって[2006年11月]
- 酔読三昧 【第8回】萩原香[2006年10月]
- 酔読三昧 【第7回】萩原香[2006年9月]
- 美術室|後藤啓介[2006年9月]
- 酔読三昧 【第6回】萩原香[2006年8月]
- 美術室|中川悠京[2006年8月]
- 酔読三昧 【第5回】萩原香[2006年7月]
- 美術室|森山由海[2006年7月]
- 読書室|坂木司「ぶつり」[2006年7月]
- 酔読三昧 【第4回】萩原香[2006年6月]
- 酔読三昧 【第3回】萩原香[2006年5月]
- 酔読三昧 【第2回】萩原香[2006年4月]
- 酔読三昧 【第1回】萩原香[2006年3月]