ラウンジ

2006.07.05

酔読三昧 【第5回】萩原香[2006年7月]

酔っ払ってメガネをなくしてしまった。
で、SF映画が好きだ(というか映画が好きだ)。


萩原 香 kaori HAGIWARA

 

 酔っ払ってメガネをなくしてしまった。どなたか拾われたらご一報ください薄謝進呈いたしますメガネは顔の一部です。なんか顔がすーすーして気色悪いな。これで何度めだろう。メガネ屋さんの上得意ではないか。

 しかし腹の立つ。メガネはどこへ消えた臭いチーズは苦手だな。腹立ちまぎれにビールを一杯いや二杯三杯四杯。こうなったらメガネのツルをこめかみに埋めこんじまおうかな。メガネは顔の一部です。そうすりゃ死んでも落ちない。サイボーグだなSFだ。

 で、SF映画が好きだ(というか映画が好きだ)。小説のほうはほとんど門外漢だが、中子真治の『超SF映画』まで買ったもんなあ。出たのはもう四半世紀前。ジョルジュ・メリエスの『海底探検』(1897)を嚆矢として、『スター・ウォーズ/帝国の逆襲』(1980)に至る900本ものSF映画を総覧した大著であった。

 やはりSFはアートだなヴィジュアルだな。ロジックはさりながらイメージの喚起力が命だな。イラストレーターだったら異形のスペースシップを描くクリス・フォスかな。幻想的なタッチならブラッド・ホーランドとかジョン・ショーエンヘールかな。絵が見られないから何を言っても得だな。

 ところで『サイレント・ランニング』(1972)は5本の指に入る名作だと思っている。環境破壊に覆われた地球をあとに、わずか残った緑の自然をドームに格納した宇宙船がさまようお話。主役のブルース・ダーン(ときどきエリオット・グールドと間違える)は狂信的なエコロジスト(?)みたいで、こいつが暴走したあげく破局が訪れる。

 とにかく地味でネクラな映画。しまいには乗組員の死に絶えた宇宙船でロボットが一体だけ生き残る(と思う)。これが将棋の駒に脚を2本くっつけたようなやつで、よちよち歩きながら黙々と草花に水をやる姿が、とにかく泣かせる。『スター・ウォーズ』(1977)のR2D2の原型がこれだ、そうだ。ロボットの悲劇を描いた映画でもある。

 エンディングにかぶさるのはジョーン・バエズ(フォークの女王だと)の歌だ。ヒッピーとかフラワーチルドレンとか反戦とかメッセージ臭の漂う映画だが、こういうのを観ると一瞬居ずまいを正したくなるところが怖いな。自然を守るには人類が消えてなくなるのがいちばん。思わず酔いが冷めそうだ。ビール追加ね。

 あと『地球の静止する日』(1951)も古式ゆかしい名作だな。賢い宇宙人が、戦争ばかりやってるお馬鹿な人類を善導しにやってくる話。宇宙人役のマイケル・レニーって、のっぺりしたリチャード・ギアか端正なレナード・ニモイか。やはりのっぺりした成形一体型ボディのロボットも出てくる。『禁断の惑星』(1956)のロビーのほうがはるかに有名か。

 ディーン・クーンツの『12月の扉』)は、人体実験にさらされた少女の周辺で奇怪な連続殺人が起こるモダンホラーである。すでにお読みの方は『禁断の惑星』をご覧じろ。映画は観ている方はこの小説をご一読あれ。どちらも観たし読んだ方は言わずもがな。ええい、これ以上書けないのがもどかしいではないか。ビールはもうないのかい。

 モーフィングごっこを続けると、カート・ラッセルは蟹江敬三(さん)を外国人ぽくしたみたいだな(どっちに失礼だ)。『ニューヨーク1997』(1981)の隻眼のタフガイ、スネーク役にはハマった。それよりもなによりも『ソルジャー』(1998)での感情を抹消された〈宇宙の戦士〉役が感動ものであった。

 彼が主演した『遊星からの物体X』(1982)はもはやカルトだが、原作はジョン・W・キャンベル・ジュニアの「影が行く」。汝の隣人はほんとに人間?という恐怖の蔓延を描いて、フィリップ・K・ディック、ディーン・クーンツ他『影が行く――ホラーSF傑作選』に収録されている。早川書房の「ベストSF2000――海外篇」第2位になった名アンソロジーだ。

 それはそうと『遊星からの物体X』の監督ジョン・カーペンターの奥さん(だった?)、アドリエンヌ・バーボーは怖い顔をした女優さんだ。『ザ・フォッグ』(1980)は怖いがバーボーさんも怖かった。『サスペリア』(1977)のアリダ・ヴァリの怖さに勝るとも劣らない。『第三の男』(1949)のころはきりりと美し……あ、大変失礼いたしました。お冷やいただけますか。

 さて原作といえば『地球の静止する日』にもある。ハリイ・ベイツの「主人への告別」で、レイ・ブラッドベリ、シオドア・スタージョン他『地球の静止する日――SF映画原作傑作選』に収められている。特にこちらはSF映画の珍しい原作ばかり。B級巨大昆虫パニックものの快作『ミミック』(1997)にも原作があるとは知らなんだ。ドナルド・A・ウォルハイム「擬態」。これまた汝の隣人はほんとに人間?という不安が凝縮されている。

 タイトルが似てるのでうっかり映画館に足を運んでしまったのが『レリック』(1996)だ。こっちは「金返せ」の出来。あれ? こっちが先の公開か。ということは『レリック』観て、タイトルが似てるのでうっかり映画館に足を運んでしまったのが『ミミック』かい。どっちでもいいや。だけどタイトルのモーフィングはやめておくれよ。

 しかし裸眼はきつい。近視に老眼に乱視の三重苦。新しいメガネはまだ来ない。本も読めやしない。へヴイメタルの新譜、ラクーナ・コイルの『カーマコード』も聴けやしない。関係ないな。

 というわけで今回は、お題に反して映画の話ばかりになってしまった。

 お詫びにそろそろバーボンをダブルのストレート、チェイサー付きで。

(2006年7月)

萩原 香(はぎわら・かおり)
イラストレーター、エッセイスト。文庫の巻末解説もときどき執筆。酔っぱらったような筆はこびで、昔から根強いファンを獲得している。ただし少数。その他、特記すべきことなし。

バックナンバー