ラウンジ

2010.11.05

東京創元社・文庫創刊50周年記念対談〈第4回:ホラー編 宮部みゆき×風間賢二〉(1/3)[2010年11月]

この対談は、〈ミステリーズ!〉vol.37(2009年10月号)に掲載されたものです。(編集部)

記念対談ホラー編 (対談中のひとこま。左:宮部みゆき先生、右:風間賢二先生)

■宮部みゆき先生のベスト6【東京創元社編】(順不同)
『怪奇小説傑作集』(全5巻)アルジャナン・ブラックウッド他(創元推理文庫F)
『マッド・サイエンティスト』S・D・シフ編(創元SF文庫)
『M・R・ジェイムズ傑作集』(旧版)M・R・ジェイムズ(創元推理文庫F)
『小人たちがこわいので』ジョン・ブラックバーン(創元推理文庫)
『死者の書』ジョナサン・キャロル(創元推理文庫F)
『ねじの回転』ヘンリー・ジェイムズ(創元推理文庫F)
番外:『影が行く ホラーSF傑作選』中村融編(創元SF文庫)、『ガストン・ルルーの恐怖夜話』ガストン・ルルー(創元推理文庫F)、『恐怖の愉しみ』平井呈一編(創元推理文庫F)も捨てがたいです。

■風間賢二先生のベスト5【東京創元社編】(順不同)
『怪奇小説傑作集』(全5巻)アルジャナン・ブラックウッド他(創元推理文庫F)
『ラヴクラフト全集』(全7巻+別巻上下)H・P・ラヴクラフト(創元推理文庫F)
『10月はたそがれの国』レイ・ブラッドベリ(創元SF文庫)
『丘の屋敷』シャーリイ・ジャクスン(創元推理文庫F)
『影が行く ホラーSF傑作選』中村融編(創元SF文庫)


●東京創元社のホラー・ベスト
宮部 今日はよろしくお願いします。楽しみにして参りました。
風間 こちらこそ、よろしくお願いします。
宮部 私がベスト5に選んだ本が、風間さんと結構かぶっていたのは嬉しかったです。でもやっぱり基本図書はかぶりますよね。
風間 そうですね。でも、他のセレクションは、あえて宮部さんとはズラすようにしました。対談に広がりが出るように(笑)。
宮部 風間さんは、いちばん最初に「これって怪奇小説だ」とか「恐怖小説だ」と目覚めた作品は何だったんですか?
風間 『怪奇小説傑作集』です。これは本当に基本図書です。この本と出会ったころ僕はバリバリの仏文学生で、実は四巻目の編者が澁澤龍彦さんだったのがきっかけなんです。当時のぼくは澁澤マニアでしたから。それで全五巻のうち、まずはフランス編を読んだんです。怪奇幻想というよりも異端文学の流れで手を出したんですね。「これが文学の裏街道か」って喜んで。
宮部 私は中学生のときに読んだんですけど、四巻目はいちばん渋く感じられた巻でした。
風間 僕は、本格的に小説を読みはじめたのは大学にはいってからなんですよ。それまではマンガ一辺倒。で、仏文ですから、いきなり文学青年になった。いわゆるエンターテインメント小説は全然知らなかった。だからフランス編を読んで、他の国はどうなんだろうと思って英米編にいったら、「フランスより全然面白いじゃん」と(笑)。
――挙げていただいたアンソロジーや短編集の収録作で、お好きな作品をお聞かせ願えますか。『怪奇小説傑作集』の中では何が一番でしょう?
宮部 私は「ポドロ島」(L・P・ハートリイ)ですね。それと「パンの大神」(アーサー・マッケン)。オーソドックスですが。
風間 今でこそ、「パンの大神」は英国十九世紀末エログロ・デカダンス小説の最高峰だと思うけど、当時は、この手の怪奇幻想ものに免疫がなかったので、やはり「猿の手」(W・W・ジェイコブズ)に単純に衝撃を受けましたね。
 ほかのアンソロジーだと、創元SF文庫ですけど『影が行く』『マッド・サイエンティスト』もすごく好きだな。最高です。
宮部 『マッド・サイエンティスト』では、有名な「サルドニクス」(レイ・ラッセル)を、これで初めて読んだんです。それまであちこちで紹介されてたんですけど、アンソロジーのあとがきなどで「あまりにも有名なので入れない」とか書かれてて(笑)。入れてよ、私読んでないんだから(笑)。まさに古典ですよね。
風間 その本から一編選ぶとすると迷いますね。玉石混淆どころか玉しかない。しかも、どの作品も傾向が全然違う。でも、『マッド・サイエンティスト』という表題の内容を簡潔に表しているのは、「ハルリドンヒル博士の英雄的行為」(ヴィリエ・ド・リラダン)ですね。いま目の前にある個人を否定しても、未来の人類を救うためにとんでもない罪を犯す医者の物語。
 宮部さんの『マッド・サイエンティスト』に対抗して、僕が選んだ『影が行く』では、やっぱり表題作ですね。映画『遊星よりの物体X』の原作。あるいは、「探検隊帰る」(フィリップ・K・ディック)。その手のアメリカ50年代のパラノイア症候群ぶりが出ている作品が好きだな。
宮部 私は「ボールターのカナリア」(キース・ロバーツ)です。ちょっと地味な小品ですけど。あとクラーク・アシュトン・スミスの「ヨー・ヴォムビスの地下墓地」も古典的で好きです。あ、やっぱり一番は「ごきげん目盛り」(アルフレッド・ベスター)ですね。
――宮部さんがブラックバーンを選ばれたのは意外でした。
宮部 ジョン・ブラックバーン好きなんですよー(笑)。『小人たちがこわいので』が大好きなんです。新刊時に読んだんですけど、最後に邪神が蘇(よみがえ)ってしまうシーンが怖くて。何をするわけじゃないんですよ、ただね、口が動くじゃないですか。そこがもうほんとに怖くて。
風間 今からするとモダンホラーのはしりですね。ジャンルミックスだし。だってナチの残党とスパイと邪神ですからね(笑)。そういう広がりようって、モダンホラーだよね。そのモダンホラーの最初期の短編集としてあげたのが、『10月はたそがれの国』。これで僕はブラッドベリにはまりました。「みずうみ」とか「びっくり箱」とかいいですね。
宮部 「みずうみ」は、海水浴場で連れの女性は帰ろう帰ろうというのに、男性が海に行ってしまうという話ですね。海が女の魔性の象徴になっている。
 キャロルは最初に訳された『死者の書』のパンチの強さで完璧にはまってしまって。一時期は追っかけて読んでいました。大半は忘れちゃってるんですけど(笑)。「どういうことなのよ?」という謎ときの要素もあって、ホラーも好きだしミステリも好きという私のような読者にはぴったりだと思いますね。
風間 『丘の屋敷』は、モダンホラーの本格的な幕開けという位置づけで挙げました。ロバート・ブロックの『サイコ』と並んでコンテンポラリー・ホラーを語るうえではずせない。
――宮部さんの『ねじの回転』は?
宮部 『ねじの回転』は怖いですよね。傑作だと思う。説教師の幽霊が頭をかかえて座ってるとか。階段の踊り場ですれ違うとか。これは映画も怖い!
――対して、風間さんは『ラヴクラフト全集』
風間 宮部さんの『M・R・ジェイムズ』『ねじの回転』に対する意味で。ジェイムズやブラックウッドやマッケンといった20世紀初頭のイギリスの巨匠に対抗して、「アメリカにはラヴクラフトがいるぞ」と。でもやっぱり、レイ・ブラッドベリと同じで、若いときに読みだすとはまる類のもので、一度はかかるハシカなんだよね(笑)、ラヴクラフトもブラッドベリも。いかにもアメリカ的なバケモノ小説、かつ気宇壮大なホラ話です(笑)。
宮部 実は私はラヴクラフトは意外と遅かったんです。「インスマウスの影」に関しては、つい四、五年前まで読んでなかった。「ピックマンのモデル」「ダンウィッチの怪」は読んでたんですが、魚人間だと聞いて、私こんなに怖いものが好きでクリーチャーも大好きなんですけど、魚頭だけはダメなんです(笑)。それでもう、これは一生読まないぞ、と思ってたんですよ(笑)。でも読んでみたら、確かにこれは名作だな、と(笑)。
風間 半魚人もダメですか?
宮部 ダメです(笑)。でも映画の『大アマゾンの半魚人』みたいなのは、あれはいいんです(笑)。形が人間なので。でも頭が魚というのがダメ(笑)。
風間 たしかに。女性の人魚はエロチックでいいけど、それを逆にした、つまり下半身が女性で上半身が魚の絵をマルグリットが描いていますが、グロです(笑)。
 で、創元以外のベストとして挙げたものの話をちょっとしておくと、僕にとってのホラー開眼の書『怪奇小説傑作集』との類似アンソロジーということでハヤカワ文庫の『幻想と怪奇』(全三冊)を手に取ったわけですよ。そしたらブラッドベリもそうだけど、シェクリーやマシスンやボーモントやディックなど、アメリカのジャンル作家がいっぱい入っていて、僕の感性にはこっちのほうがさらに面白かった。そして気づけば、角川文庫版の『怪奇と幻想』(全三冊)もハヤカワ文庫のそれと同じ年に出ていた。
宮部 私も、ハヤカワ文庫のも角川文庫のも、ほとんど同じ時期に買って読みました。
風間 どっちも面白くて夢中になったけど、最初に読んだほうがハヤカワ文庫だったので挙げたんです。しかもハヤカワのほうがアメリカ的で、しかも異色作家ものに近い。
宮部 そうですね、《異色作家短篇集》とよく似た雰囲気がありますね。
風間 だから僕はどっちかっていうと、イギリスの雰囲気派・朦朧派よりも、アメリカの大仰で派手なパルプ・ホラー的な作品のほうがウマがあうと思った。そのへんが僕としてはモダンホラーにのめりこんでいくことになったんだね。『怪奇小説傑作集』は“わびさび”で、ハヤカワの『幻想と怪奇』はいかにもアメリカ的な大味でソースやケチャップぶっかけた、みたいな(笑)。味濃くしないと食えねえ、って感じ(笑)。
宮部 まさにテレビの「ミステリ・ゾーン」「アウター・リミッツ」みたいな、あの感じですよね。アイデア勝負。「ウルトラQ」で育った私はそのまま行けちゃったんですよ(笑)。『怪奇小説傑作集』は、もうちょっと格調高い、というか。両方、もちろん好きなんですが。
風間 角川版とハヤカワ版の両方に入ってるんだけど、オーガスト・ダーレスの「淋しい場所」。これ、大傑作。
宮部 私、大っ好きです。大っ好き(笑)。
風間 少年が怖い怖いと思ってるものが実態化して。
宮部 そう、それがその場に残っちゃう。
風間 でも本当のこと言うと、創元の中で一番好きなのは、ゴシック・ファンタジーの金字塔『ゴーメンガースト』三部作(マーヴィン・ピーク)なんですよ。前回の井辻さんと金原さんの対談でベストに挙がっていたから、今回はパスしましたが。
宮部 ああ、いいなあ、こういう話は(笑)。何時間でも話せちゃう。



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