短編ミステリ読みかえ史

2018.10.01

短編ミステリ読みかえ史 【第115回】(1/2) 小森収

 シオドア・スタージョンのミステリの短編や、ミステリに近しい短編を、もう少し拾っておくことにしましょう。
「強盗アラカルト」は、日本語版EQMMに掲載されたものですが、探偵小説のお伽噺と紹介されていました。主人公の娘が、オーナーの留守中のレストランを任されているところに来た客が、財布を忘れたと言い出します。折りしも、その界隈では強盗事件が多発していて、警官がすぐにやって来る。娘の機智が明らかにした真相と犯人は、ありきたりなものでしたが、そうした事件そのものもともかく、警察の温さ頼りなさが、20年代、30年代のかつてのアメリカ風でした。
「伯母さんを殺す方法」は、題名からも分かるとおり、陰険な暴君の伯母と甥の話――ある意味で、よくある話――ですが、スタージョンは、伯母さんの側から小説を組み立てました。彼女の目から見た甥は、気に入らないことだらけですが、それでも、日常生活で甥に頼っています。というのも、自分の鼻先で情を通じていた若い女中をあっさり首にしたのはいいものの、ある夜、階段でなにかに躓いた彼女は、車椅子に座ったきりになったのでした。それから11年。なんとも、不器用な方法で、甥は彼女が毎日聞いているラジオの故障をでっちあげ、新しいラジオと取り替えます。彼女はそれを自分を殺すための手段と見抜きますが……。主人公の性格が示すとおりの、ひねくれたクライムストーリイでした。
 うって変わって「死者はダイヤルを回さない」は、怪しげな動きで警察に自分をマークさせては、その裏をかいて、逆に誤認逮捕で警察に煮え湯を呑ませるという常習犯と、主人公の刑事の対決です。脅迫を受けたと訴える女性の保護に向かった主人公は、件の悪党と出くわしますが、そこで女性にかけた電話のおかげで、彼女が殺されたときの男のアリバイを成立させてしまったのでした。主人公は、通俗ハードボイルド的なタフガイ警官で、その言動は、ストーリイ展開同様、いささか荒っぽくも平凡で、ハウダニット(錯覚トリック)との組み合わせが、これまた、ありきたり(しばしばあるのです)でした。
 こうした、ミステリ作品は、凡庸なものですが、どれもスタージョンの生前に訳されたもので、ありていに言えば作品の選択を誤ったということでしょう。むしろ、クライムストーリイに、スタージョン流のファンタジーをからませた「特殊技能」「心臓」といった作品の方が面白く、前者は超能力者の子どもというスタージョン得意の一席ながら、いささか脱力もののサゲが愉快でしたし、後者は主人公のオールド・ミスのタイピストという、一種のクリシェですらある設定を、巧みに使った小品でした。
 没後に翻訳されたものでは、ハインラインのアイデア提供を受けたという「ニュースの時間です」が、怪作でした。ラジオ、テレビ、新聞のニュースを欠かさず、その間は家族の言うことにも上の空という男が、ある日、突然、自分の財産を整理して失踪してしまう。この小説の白眉は、新聞から文字が抜け落ちていくという卓抜な描写で、主人公の狂った世界を描いたところで、その後の精神科医が彼を追跡する展開と結末は、アイデアが生のままむき出しになっていて惜しい気がします。「ヘリックス・ザ・キャット」「君微笑めば」は、ヒトが人間以外の存在と出会ったときの奇怪な企みを描いたファンタジーでした。どちらも、いささか状況設定に理が立ちすぎていて、「ニュースの時間です」の持つショックがありません。結局、スタージョンの作品の優劣を隔てるのは、そういうショックの有無であるように思われます。


ミステリ小説のウェブマガジン|Webミステリーズ! 東京創元社
バックナンバー