短編ミステリ読みかえ史

2018.05.01

短編ミステリ読みかえ史 【第110回】(1/2) 小森収

 早川書房の異色作家短篇集については、これまでにも、何度か触れてきました。第一期のラインナップが、ダール、エリン、フィニイ、ボーモント、ブラッドベリ、コリアです。ダールはスリックマガジンの作家ですが、早くにMWA賞を受賞し、コリアの後継作家と目されていました。先輩のコリアも、ニューヨーカーなどで活躍し、ファンタジーからクライムストーリイまでこなす、芸域の広い作家でした。このふたりのイギリス生まれの作家の対抗馬たりうるアメリカ人作家として、(スリックマガジンではなく)EQMMに登場したのがエリンでした。日本において、この三人に共通するのは、主にミステリの読者・編集者が見つけ、ミステリの一種として紹介してきたという点です。しかし、他の三人は少々事情が異なります。まず、フィニイは早川ファンタジイの第一弾として『盗まれた街』が選ばれ、『レベル3』もノスタルジックなファンタジーとして評価されました。ボーモントは、このラインナップの中では新人の部類ですが、ブラッドベリに次ぐSF出身のスリックマガジン作家でした。そして、ブラッドベリは『火星年代記』の邦訳がすでに出ていた、押しも押されもしないSF作家なのでした。
 早川ファンタジイ(のちにSFシリーズに移行します)やSFマガジンの創刊が、都筑道夫と福島正実のふたりの手でなされ、より積極的であったのが、SFが専門の福島正実ではなく、都筑道夫の方だったことは、両者が書き残しています。すでに日本でのSF出版は、先行する失敗例があり、それがために、慎重に戦略を練ったことは『未踏の時代』『推理作家の出来るまで』などに記されています。科学小説色を脱し、日本語版EQMMが開拓した、翻訳ミステリの多様性に慣れた読者を巻き込むことを想定する。そのために、あえてファンタジイと名乗り、『盗まれた街』『火星人ゴーホーム』といった作品から始める。そうした戦略を併せて考えると、異色作家短篇集第一期の他の三人は、SFの側から見ても、中心からははずれた異色作家といえます。
 異色作家短篇集の第二期のラインナップは、フレドリック・ブラウン、ロバート・ブロック、ジェイムズ・サーバー、リチャード・マティスン、ロバート・シェクリイ、マルセル・エイメです。よりSF色を強めています。ブロックは、のちにホラー作家の貌を鮮明にしていきます。マティスンにも、そうした傾向はありますが、ブロックよりも職人的であると同時に、腕前も上でした。フレドリック・ブラウンとロバート・シェクリイは、現在でもSF作家と呼ぶことに異を唱える人はいないでしょう。ブラウンと世界SF全集で巻を分け合ったのが、シオドア・スタージョンで、異色作家短篇集第三期のトップバッターを勤めました。ついでに書いておけば、第三期のラインナップは、以下、ダフネ・デュ・モーリア、レイ・ラッセル、ジョルジュ・ランジュラン、シャーリイ・ジャクスン、そしてアンソロジーです。
 余談ですが、異色作家短篇集は誰の企画だったのかというのは、実ははっきりしないところがあって、当時の早川書房には都筑道夫、福島正実、小泉太郎(生島治郎)、常盤新平といて、どうも、各人が寄り集まってやっていたように見えるのです。都筑道夫は第一期の刊行途中で退社しますが、『メランコリイの妙薬』は、本来都筑訳で出るはずだったもののようです。『キス・キス』の翻訳を開高健のところに持っていったのは生島治郎だと、本人が生前書き残していますし、しかし、第一巻のラインナップを見ると、都筑・福島が無関係とは思えない。第二期にサーバーが入ったのは、常盤新平の英断によるものと、訳者あとがきにありますし、第三期のジャクスンの担当は福島正実だったという深町眞理子の証言があります。太田博(各務三郎)は、異色作家短篇集、とりわけブラッドベリに魅せられて、こんな本を作りたいと早川書房を目指したと言います。大ざっぱに言って、太田博以前の編集者たちの総力によって、このシリーズは作られたと言っていいでしょう。
 さて、異色作家短篇集、早川ファンタジイを経て、SFマガジンが創刊され、海外SFが定期的に紹介される足がかりが出来ました。それに連動する形で、日本人作家も活躍し、SFは一気に読者層を拡大していきました。だいたい私たちくらいの年代からですが、翻訳ミステリファンを経ずに、直接SF――翻訳であれ日本人作家のものであれ――の読者となる層も出てきました。それは日本の読者層の中に、SFが浸透していく過程でもありました。しかし、それらSFのある部分は、ミステリの読者にもアピールするものであり、また、ミステリマガジンが積極的に紹介を担った作家をも含んでいました。これから、しばらく、隣接ジャンルとしてのSF短編を、ミステリの側から眺めていくことにしましょう。


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