短編ミステリ読みかえ史

2014.08.05

短編ミステリ読みかえ史 【第65回】(1/2)  小森収


 では、また、EQMMコンテスト入選作を読む作業を続けていくことにしましょう。コンテストも終盤に入ってきました。
 第9回コンテストの第2席に、ゼナ・ヘンダースンの名がみえる(未訳)のは、少し驚きです。著名なSF作家ですが、繊細でサスペンス味のある短編を、旧・奇想天外でいくつか読んで、好感を持っていたものの、EQMMコンテストにまで応募していたとは、知りませんでした。ドロシー・ソールズベリー・デイヴィスの「子供ごころ」は、父娘といってもいいほど年齢の離れたカップルが結婚を目前にしていて、娘の父親(母親は死んでいる)も、口さがない御近所も、その結婚をいかがわしいものと見ています。そして、娘の父親が殺される。動機があるのは、娘とその婚約者のふたりきり。老婚約者が犯人と、誰もが疑っている。おまけに、当夜、娘夫婦が不在のおりに、彼の孫らしき子どもの泣き声が聞かれていて(つまり、彼はあやしていない)、その間の犯行と考えられています。この作家には珍しく、捜査官を主人公にしたディテクションの小説です。手がかりによる論理というよりは、人間性から判断して犯人とするには無理があるという形で、この齢の離れたカップルのどちらも、犯人とは考えづらいと、読者に思わせます。ただし、解決はつくものの、やはりディテクションの小説は苦手なようで、もう少しすっきりした形で、小説を終わらせていればと思わせます。
 フィリップ・マクドナルドの「ずぶ濡れの男」はシンプルなサスペンス小説で、以前に触れました。しかし、やはり、この回の第2席はMWA賞を獲ったスタンリイ・エリンの「パーティの夜」につきるでしょう。それまで、リアリスティックなクライムストーリイを書いてきたエリンが、同じ筆致でありながら、幻想的な結末をもった、一種の怪奇小説を書いてみせた。この作品で作家として一回り大きくなったのは確かです。この作品は、邦訳されたエリンの最初の作品(日本語版EQMM創刊号)でもあり、日本でも知名度の高い部類でしょう。翌年「決断の時」でEQMMコンテストを制し、さらに、その翌年「ブレッシントン計画」で、再度MWA賞をさらったことは、前にも書きました。エリンの最盛期と言っても過言ではないでしょう。そして、それは、いまにして思うと、EQMMの最盛期であったのかもしれません。
 第10回コンテストのオナーロールにはネドラ・タイアの名前も見えます。「ポウ廟の殺人」は、ポー由縁の地で、ポーの姿形をした死体が見つかるという発端ですが、さすがに、犯行の無理が目立ちます。無理といえば、アラン・E・ナースの「白いマスクの男」もそうで、手術室に侵入して毒薬の注射をする犯行方法という、思いつき一本で書いたことが明白です。また、第9回の第2席に入った、フィリス・ベントリーのミス・フィップスもの「証言の環」も、証言の連鎖反応が探偵を解決に導くという思いつきが、あまりに露骨です。このあたりのディテクションの小説を読むと、謎解きミステリが衰勢となっていった理由が了解できるのです。謎を投げかける魅力や、推理の面白さといった、地味だけれど肝心な部分をないがしろにして、こうすれば犯行が出来るという、ハウダニットの解法の思いつきだけで書いてしまう。都筑道夫が『黄色い部屋はいかに改装されたか?』で指摘した点は、日本にのみ当てはまることではありませんでした。




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