短編ミステリ読みかえ史
2010.07.05
短編ミステリ読みかえ史 【第16回】(1/2) 小森収
ロアルド・ダールの第一短編集『飛行士たちの話』
さまざまなところで紹介されている有名な事実ですが、ダールが作家になったのは、偶然のことでした。第二次大戦中のワシントンに大使館付きの空軍武官補として滞在していたダールのところへ、C・S・フォレスターが戦闘機乗りの取材に行ったところ、自分の体験を手記にして渡したものが、ほとんどそのままの形で作品として掲載されたのです。掲載誌はサタデー・イヴニング・ポストでした。それをきっかけに、飛行士たちの話を様々な雑誌に発表します。『飛行士たちの話』(『昨日は美しかった』)としてまとめられた、それらの短編が、ノンフィクションとか体験手記として括られるものかというと、それは疑問です。「アフリカの物語」のように、あるパイロットの残した手記という体裁を持ちながらも、その枠組みの中で、のちのダールを思わせるクライムストーリイを書いてみせたりしています。「番犬にご注意」は、戦闘機乗りが陥った異常なシチュエーションを切り取って描いた、集中一の作品ですが、そこから発想を広げた映画「36時間」
続く第二短編集『あなたに似た人』は「さりげなく書店の窓に飾られたにもかかわらず、世の絶賛をあびた」とエラリー・クイーンが書いたように、ダールの評価を決定的にしました。「味」「おとなしい凶器」「南から来た男」と冒頭から並んでいて、これに胸を躍らせない人がいたら、短編小説とは無縁だと考えて間違いないでしょう。とりわけ「南から来た男」は、ダールの最高傑作と誰もが認める短編で、発想、展開、人物造形、話のオチ、いずれも間然するところなく、しかも、それらが一体となって相互に作品世界の形成に寄与するという、一種のはなれわざ。この一編を書いて、あとの作家人生はおまけだったのではないかと、思わせるほどの傑作です。
『あなたに似た人』は、当時、まだ、必ずしも一編の短編に出す賞ではなかった、1953年度のMWA賞短編賞を得ます。そして6年後の1960年、前年ニューヨーカーに掲載された「女主人」で再度受賞し、それを巻頭に据えた『キス・キス』
ミステリ、SF、ファンタジー、ホラーの月刊Webマガジン|Webミステリーズ!
- バックナンバー
- 短編ミステリ読みかえ史 【第33回】(1/2) 小森収
- 短編ミステリ読みかえ史 【第32回】(1/2) 小森収
- 短編ミステリ読みかえ史 【第31回】(1/2) 小森収
- 短編ミステリ読みかえ史 【第30回】(1/2) 小森収
- 短編ミステリ読みかえ史 【第29回】(1/2) 小森収
- 短編ミステリ読みかえ史 【第28回】(1/2) 小森収
- 短編ミステリ読みかえ史 【第27回】(1/2) 小森収
- 短編ミステリ読みかえ史 【第26回】(1/2) 小森収
- 短編ミステリ読みかえ史 【第25回】(1/2) 小森収
- 短編ミステリ読みかえ史 【第24回】(1/2) 小森収
- 短編ミステリ読みかえ史 【第23回】(1/2) 小森収
- 短編ミステリ読みかえ史 【第22回】(1/2) 小森収
- 短編ミステリ読みかえ史 【第21回】 小森収
- 短編ミステリ読みかえ史 【第20回】(1/2) 小森収
- 短編ミステリ読みかえ史 【第19回】(1/2) 小森収
- 短編ミステリ読みかえ史 【第18回】(1/2) 小森収
- 短編ミステリ読みかえ史 【第17回】(1/2) 小森収
- 短編ミステリ読みかえ史 【第16回】(1/2) 小森収
- 短編ミステリ読みかえ史 【第15回】(1/2) 小森収
- 短編ミステリ読みかえ史 【第14回】(1/2) 小森収
- 短編ミステリ読みかえ史 【第13回】(1/2) 小森収
- 短編ミステリ読みかえ史 【第12回】(1/2) 小森収
- 短編ミステリ読みかえ史 【第11回】(1/2) 小森収
- 短編ミステリ読みかえ史 【第10回】(1/2) 小森収
- 短編ミステリ読みかえ史 【第9回】(1/2) 小森収
- 短編ミステリ読みかえ史 【第8回】(1/2) 小森収
- 短編ミステリ読みかえ史 【第7回】(1/2) 小森収
- 短編ミステリ読みかえ史 【第6回】(1/2) 小森収
- 短編ミステリ読みかえ史 【第5回】(1/2) 小森収
- 短編ミステリ読みかえ史 【第4回】(1/2) 小森収
- 短編ミステリ読みかえ史 【第3回】(1/2) 小森収
- 短編ミステリ読みかえ史 【第2回】(1/2) 小森収
- 短編ミステリ読みかえ史 【第1回】(1/2) 小森収