国内ミステリ出張室

2018.07.10

松嶋智左『虚の聖域 梓凪子の調査報告書』、中山七里『連続殺人鬼カエル男ふたたび』…「ミステリーズ!89号」(2018年6月号)書評 宇田川拓也[国内ミステリ]その2

 元警察官――しかも日本初の女性白バイ隊員という著者経歴がひと際目を引く、松嶋智左『虚(うつろ)の聖域 梓凪子(あずさなぎこ)の調査報告書』(講談社 1700円+税)は、第10回 島田荘司選ばらのまち福山ミステリー文学新人賞受賞作だ。

 警察官の職を辞し、いまは興信所で調査員を務める梓凪子は、犬猿の仲である姉の未央子から、中学生の息子――輝也の死の真相を調べるよう葬儀の席で依頼される。しかし、すでに警察は自殺と判断しており、学校は探偵にとってもっとも調べるのが難しい場所だ。とても手には負えないと依頼を断ろうとする凪子だったが、未央子との大喧嘩(おおげんか)の末に調査を引き受けてしまう。するとほどなく、凪子は凶器を持った男たちから襲撃され、この件には根深い裏があることを確信する……。

 ここまで読んだ方のほとんどが、当欄で採り上げるには本格ミステリ要素がいささか不足気味では?――と感じたに違いない。タフな女性探偵が学校という“聖域”の暗部に迫る内容は、確かにジャンルとしては「ハードボイルド」というべき内容だ。

 とはいえ、百貨店の屋上から身を投げた輝也にまつわる謎、真犯人に挑む凪子の起死回生の妙手、そして本作一番の売りであるダークな最後の一行など、直球の本格ミステリに取り組んだとしても存分に発揮されるに違いないセンスがいくつも感じられ、なんとも目が離せない。凪子の物語がシリーズ化されるのかは、いまのところ定かでないが、いつか、よりタフで、より本格ミステリ濃度の高い、女性ハードボイルドの代表作をものしてくれることを切に願っている。

 きっと、「あの“カエル男”が帰ってきた!」と手を叩く読者もいるに違いない、中山七里『連続殺人鬼カエル男ふたたび』(宝島社 1500円+税)は、その突き抜けた悪意と犯行の猟奇性からファンの間でも偏愛者の多い、問題作『連続殺人鬼カエル男』の続編だ。

 全裸死体の口にフックを掛けてマンションの13階から吊るすといった残虐な手口と稚拙(ちせつ)な文章による犯行声明で、世間を震撼させた“カエル男”の事件から10カ月。事件を担当した精神科医が自宅ごと爆殺され、またもあの子供が書いたような犯行声明が!? 応援要請を受け、ふたたび“カエル男”を追い掛けることになった埼玉県警の渡瀬&古手川コンビだったが、捜査を嘲笑(あざわら)うようにつぎつぎと犠牲者が……。

 どの被害者も前作に負けない「よくもまあ」と天を仰ぎたくなるような酷い殺され方でゾッとするが(とくに「破砕する」のゴア描写に呆然)、今回も刑法第39条をテーマとして引き継ぐなど社会派要素を組み込むことで、作品がキワモノに堕(だ)することを絶妙に防いでいる。また“どんでん返しの帝王”ならではの大胆不敵なサプライズと衝撃的な結末はもちろん、別シリーズの人気キャラが重要な役回りを務めるといった読者サービスも心憎く盛り込まれており、エンタテインメントとしての抜かりのなさに改めて感嘆せずにはいられない。

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■宇田川拓也(うたがわ・たくや)
書店員。1975年千葉県生まれ。和光大学卒。ときわ書房本店、文芸書、文庫、ノベルス担当。本の雑誌「ミステリー春夏冬中」ほか、書評や文庫解説を執筆。

(2018年7月10日)



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