松本英哉『幻想リアルな少女が舞う』(光文社 1800円+税)は、島田荘司選第8回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞優秀作『僕のアバターが斬殺(や)ったのか』でデビューした新鋭の2作目だ。

 その非凡なルックスで篠宮高校のアイドルだった住吉帆乃香が、廃墟の洋館で遺体となって発見されてから一ヶ月。一年生の由良涼は、クラスメイトの佐々木ゆずから相談を持ち掛けられる。自殺したとされる住吉と事件当日にゲームアプリ『ランコルバ』をプレイしていたという人物からメールが届き、そこには住吉の死が自殺ではなく、その真相を調べるよう書かれていたのだという。ゆずの代わりに調査を開始した由良だったが、他校の女子生徒――朝霧那夕との出会いが思わぬ展開を招く……。

 デビュー作同様、アバターや仮想世界を扱い、分類的には「サイバーミステリ」になると思うが、廃墟の洋館、密室、暗号など、道具立ては思いのほか古典的だ。登場する美少女や由良の“ある秘密”を活かしてキャラクター小説の方向に筆を走らせることもできそうだが、最後まで地に足の着いた本格ミステリを目指しているところに誠実な印象を受けた。また、こうした架空のゲームやシステムを用いた作品の場合、それらが単に作者にとって都合のいい使われ方をされていると興醒(きょうざ)めだが、ある仕掛けのためだけでなく、作品に込められたメッセージをより強く読み手に響かせる役割を果たしているのもいい。どんなにテクノロジーが進化しても、最後にひとの心を動かすのは、やはりひとなのだと教えてくれる。

“架空のゲーム”といえば、円居挽(まどいばん)『語り屋カタリの推理講戯』(講談社タイガ 690円+税)でプレイヤーたちが挑むのは、視聴者が見守る命懸けの推理ゲームだ。

 運営側が用意する様々なタイプの謎を解き明かすごとに「WHEN」「WHERE」「WHO」「WHAT」「WHY」「HOW」を獲得し、「5W1H」を揃えるために頭脳戦を繰り広げるデスゲームに、ある目的のために参加した少女ノゾムは、そこでカタリという青年と出会う。まだ一問も回答できていないノゾムに、カタリは「謎のお裾分けをする」という名目で設問に立ち会い、謎解きのレクチャーを始める……。

 ゲームの背景や世界観について詳しい説明はなく、いきなりゲーム空間に放り出されたように幕が上がるが、なにが起こるかわからない緊張感にたちまち引き込まれる。

「5W1H」それぞれに触れていく6つのエピソードは、どれも趣向が凝らされていて、推理合戦を得意とする著者ならではの持ち味と遊戯性がキリリと引き締まった連作集になっている。実験的な面白さを期待するマニアにはいささかライトに感じられるかもしれないが、より本格ミステリに親しみたい――といった読者には格好の基礎教養テキストとなるはずだ。この一冊で物語は一応ひとつの区切りを迎えてはいるが、もしもネクストステージがあるとしたら、その戦いは格段にハードな内容になるであろう。ノゾムとカタリのその後、そして壮絶な頭脳戦が読める日を鶴首(かくしゅ)して待ちたい。

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■宇田川拓也(うたがわ・たくや)
書店員。1975年千葉県生まれ。和光大学卒。ときわ書房本店、文芸書、文庫、ノベルス担当。本の雑誌「ミステリー春夏冬中」ほか、書評や文庫解説を執筆。

(2018年5月18日)



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