国内ミステリ出張室

2018.05.17

白井智之『少女を殺す100の方法』、井上悠宇『誰も死なないミステリーを君に』…「ミステリーズ!88号」(2018年4月号)書評 宇田川拓也[国内ミステリ]その1

 デビュー作『人間の顔は食べづらい』から、グロテスクで毒気のあるユーモアを利かせた世界観に、高度なロジックを構築する特異な作風を貫いてきた白井智之。『少女を殺す100の方法』(光文社 1700円+税)は著者初となる作品集で、思わず目を疑うタイトルは、収録された5つの作品で毎回おおよそ20人ほどの少女が死ぬことから付けられている。

 鍵の掛かった教室内で生徒20人が殺されていた凄惨な事件の真相が、意外な人物によって解き明かされ、“犯人”をも愕然(がくぜん)とさせる「少女教室」。ある条件が満たされると回転する巨大なミキサーに落とされた絶体絶命の少女たちが、決死のサバイバルと犯人探しを繰り広げる「少女ミキサー」。どちらも著者らしい異形の本格ミステリとして期待を裏切らないが、続く「『少女』殺人事件」では、アイドル志望の少女たちの死を巡る犯人当て小説を通じて「ノックスの十戒」を意地悪く茶化してみせ、こうした話も書けるのかと驚かされる。しかし、さらに驚かされるのが、後半の2編だ。

 消息を絶ったある男が娘に宛てて遺(のこ)したビデオレターの凄惨極まりない内容が詳(つまび)らかに描かれる「少女ビデオ 公開版」。なぜか8月16日の朝になると少女たちが降り注ぐ集落を舞台にした「少女が町に降ってくる」。どちらも倫理や人道など絵空事だと嘲笑わんばかりの目を蔽(おお)う描写や残酷な展開が多分に含まれているが、今回はこれまで著者が得意としてきた結末のシニカルなテイストを封印。

 非情な世界ですっかり歪(ゆが)んでしまっても抱かずにはいられなかった不器用な情愛、どんなに虐(しいた)げられ貶(おとし)められても生きてやろうと奮い立つ強靭(きょうじん)な生命力がそれぞれのラストで輝きを放ち、まさか白井作品でこんな気持ちにさせられるとは――と予想外の高揚を覚えてしまった。まるで汚泥(おでい)の奥底から小さな光を取り出してみせるような平山夢明作品を想起させるこの新たな方向性が一冊限りなのか、今後も引き継がれるのか、現時点では定かでないが、白井智之が本作でよりいっそう目が離せない存在になったことは間違いない。

“目が離せない”といえば、井上悠宇『誰も死なないミステリーを君に』(ハヤカワ文庫JA 620円+税)も負けてない。

 遠見志緒は、相手を見れば近々寿命以外で死ぬ運命にあるかがわかる“特異な体質”の持ち主。いっぽう佐藤は、志緒が見た死の予兆を現実にしないために手を貸していた。ある日のこと、志緒は、佐藤の出身高校の卒業生四人に死期が迫っていることに気がつく。佐藤はこの死を回避するため、四人を瀬戸内海の無人島“鴎縁島(おうえんじま)”に招き、“安全なクローズド・サークル”を作る。志緒と佐藤はこれで四人を護(まも)ることができる――と思いきや、そこにかつて傘を持って旧校舎から飛び降りた男子生徒の一件が絡んできて……。

 ミステリテイストのライトな異能力サスペンスと思いつつ読み始めたが、なかなかどうして本作は紛れもない本格ミステリで感心した。志緒の能力があれば、誰かが殺される前に救うことも、誰かを殺そうとしている者も救うこともできる――そう信じる志緒と佐藤が目指す、ミステリとしてはとてもつまらないけれど、登場人物全員が救われる“誰も死なないミステリー”。

 その実現のために練り上げた策と、その策を裏切る展開、さらにそれを覆(くつがえ)す論証の描き方はじつに丁寧(ていねい)で、伏線の張り方と回収の手際、台詞(せりふ)やキーワードのセンスにも好感を覚えた。犯人ではなく、探偵側がクローズド・サークルを作ろうとするのも面白い。終盤で示される、ひとを想う優しさがもたらす可能性、その可能性を疑わないまっすぐな気持ちには思わず胸を熱くさせられた。著者は2011年にスニーカー大賞の優秀賞受賞をきっかけにデビュー。今後、本格ミステリ作家としてのさらなる活躍に期待が募る。

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■宇田川拓也(うたがわ・たくや)
書店員。1975年千葉県生まれ。和光大学卒。ときわ書房本店、文芸書、文庫、ノベルス担当。本の雑誌「ミステリー春夏冬中」ほか、書評や文庫解説を執筆。

(2018年5月17日)



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