国内ミステリ出張室

2018.03.15

蒼井碧『オーパーツ 死を招く至宝』、青柳碧人ほか『新鮮 THE どんでん返し』…「ミステリーズ!87号」(2018年2月号)書評 宇田川拓也[国内ミステリ]その1

 2017年の国内ミステリシーンは、第27回鮎川哲也賞を受賞した、今村昌弘のデビュー作『屍人荘(しじんそう)の殺人』(東京創元社)の圧勝であった。新本格30周年のメモリアルイヤーに、こうしてまた本格ミステリーの新たな風を感じられるとはじつに喜ばしい限りだが、今年もさらなる新風となり得る活きのいいデビュー作が登場した。

 第16回を迎えた『このミステリーがすごい!』大賞にて、歴代最年少(1992年1月生まれ)での大賞受賞となった蒼井碧(ぺき)『オーパーツ 死を招く至宝』(宝島社 1380円+税)は、タイトルのとおり、その時代の技術や知識では到底作り出すことができないはずの謎めいた古代遺物――オーパーツ(out-of-placeartifacts)を扱った連作型の長編だ。

 伝説の十三個の水晶髑髏(どくろ)が揃う収蔵庫兼研究所『髑髏邸』で起こった不可能犯罪。インカ帝国以前に作られたという黄金のスペースシャトル像の行方と密室殺人。古代人が恐竜と共存していたと思わせる“恐竜土偶”と防犯カメラに映らない姿なき犯人。双子だけが招かれた巨石庭園の鑑賞会で発生した放火殺人と天変地異。これら四つの謎めいた事件に、外見が瓜ふたつの分身コンビ――苦学生の鳳水月(おおとりすいげつ)と自称“オーパーツ鑑定士”の古城深夜(こじょうしんや)が挑む。

 奔放(ほんぽう)な人物設定や水月と古城の掛け合いも軽やかで愉(たの)しいが、やはり注目は各エピソードで「すべてのPARTSは揃った」の決め台詞(ぜりふ)のあとに解き明かされる、大胆不敵に繰り出される多彩な仕掛けの数々だ。オーパーツが絡む必然性をしっかりと盛り込み、いま改めてこんなにもシンプルな物理トリックを編み出して読ませてしまう第1章から、著者の本格ミステリー愛がひしひしと伝わってきて、つい頬が緩んでしまう。前例のある仕掛けにアレンジを加えて活かす才もなかなかで、地震もないのに一夜にして庭園の巨石群が倒れてしまうド派手な最終章の豪腕ぶりも痛快だ。エピローグで明らかになる連作ならではの演出も凝っており、「なるほどいわれてみれば!」と気持ちよく盲点を突かれてしまった。どうやら分身コンビのさらなる活躍も期待できそうなので、その日を鶴首(かくしゅ)して待ちたい。

 綾辻行人、有栖川有栖をはじめとする人気作家たちが選び出した“どんでん返し”の効いた自作短編を集めたアンソロジー『自薦 THE どんでん返し』は、たちまち重版となる大好評を博し、大崎梢、加納朋子といった女性作家を中心とした第二弾『自薦 THE どんでん返し2』も刊行された。第3弾となる『新鮮 THE どんでん返し』(双葉文庫 602円+税)は少々趣向が変わり、いま注目の書き手6人による全編単行本未収録の新作が揃った、まさに“新鮮”さが売りのアンソロジーである。

 おとぎ話「浦島太郎」が見事な特殊設定本格ミステリーに昇華した、青柳碧人(あいと)「密室竜宮城」。出所後もネット上で“鬼畜”と疎(うと)まれる前科者に予想外の展開が待ち受ける、天祢(あまね)涼「居場所」。全編会話のみの構成と技巧が光る、大山誠一郎「事件をめぐる三つの対話」。新婚旅行先のシンガポールで二組のカップルの愛憎が交錯する、岡崎琢磨「夜半のちぎり」。曲芸的とでも称したくなる異形(いぎょう)の企みに驚嘆するしかない、似鳥鶏(にたどりけい)「筋肉事件/四人目の」。これぞ“どんでん返し”!というべき快作、水生大海(ひろみ)「使い勝手のいい女」

 六人六様の意外性や驚きを手軽にまとめて味わえる大変お得な1冊であると同時に、もし本稿をお読みの方のなかにミステリー作家志望の方がいたなら、格好のお手本としてご一読を強くオススメしたい。個人的には、天祢作品の巧みな物語運びと胸震わせるラストにもっとも強く惹かれた。

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■宇田川拓也(うたがわ・たくや)
書店員。1975年千葉県生まれ。和光大学卒。ときわ書房本店、文芸書、文庫、ノベルス担当。本の雑誌「ミステリー春夏冬中」ほか、書評や文庫解説を執筆。

(2018年3月15日)



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