国内ミステリ出張室

2017.09.20

山本巧次『開化鐵道探偵』、麻見和史『奈落の偶像警視庁捜査一課十一係』…「ミステリーズ!84号」(2017年8月号)書評 宇田川拓也[国内ミステリ]その2

 明治12年の新橋(しんばし)駅駅長室から物語の幕が上がる、山本巧次『開化鐵道(てつどう)探偵』(東京創元社 1600円+税)は、《ミステリ・フロンティア》レーベル初となる、歴史小説の要素を含む本格鉄道ミステリー。

 鉄道局は京都と大津(おおつ)を結ぶ鉄道建設にあたり、日本初の山岳鉄道隧道(すいどう)となる逢坂山(おうさかやま)トンネルを日本人だけで掘削しようと計画を進める。しかし、その工事を妨害するかのような不審な事件が相次いで起きてしまう。事態を重く見るも警察を信用しない局長の井上勝は、元八丁堀同心――草壁賢吾に白羽の矢を立て、一連の事件を調査するよう説得。後日、草壁たちは技手見習いの小野寺とともに逢坂山トンネルへと向かうが、そこで京都へと走る車両から乗客が転落する事故があり、亡くなったのは鉄道工事関係者だったと知らされる……。

 明治期の空気を丁寧(ていねい)に醸(かも)し出し、折り目正しく組み立てられた本格ミステリーとしての魅力。日本に鉄道が開通してわずか7年という黎明(れいめい)期ならではの、国の発展を見据え、鉄道の普及に燃える人間たちを活写した鉄道小説としての熱量。これらふたつが無理なく合わさり、かつてない鉄道ミステリーの力作となっている。ちなみに著者は、現在も鉄道会社に勤務する現役の鉄道マン。きっとこれからも、新たな鉄道ミステリーを生み出してくれるに違いない。

 最後は、木村文乃主演で連続ドラマ化もされた人気シリーズ最新作、麻見和史『奈落の偶像 警視庁捜査一課十一係』(講談社ノベルス 900円+税)。

 銀座(ぎんざ)のブティックで、男性の異様な遺体が発見される。殺してからショーウインドーに飾るがごとく吊るすという、どこか江戸川乱歩作品のような猟奇性を感じさせる今回の殺人事件。現場からは黒いアルミホイルと蓄光テープの切れ端が採取され、被害者は舞台劇などの演出家と判明する。女性刑事――如月(きさらぎ)塔子をはじめ、警視庁捜査一課十一係の面々は捜査を開始するが、銀座6丁目のビアホールのそばで不審な袋が見つかる。なかからはICレコーダーに吹き込まれた悲痛な声が繰り返し流れ、顔を殴打されたと思(おぼ)しき男性の写真の裏には、犯人のメッセージが……。

 シリーズも9作目となり、十一係メンバーそれぞれの個性がより際立った捜査小説としての成熟が窺(うかが)え、余計な不安を抱くことなくたちまち物語に引き込まれる。銀座という華々しい街のどこに犯人は潜んでいるのか? 「読者への挑戦状」こそ挟まれてはいないが、ヒントはフェアに示され、劇場型犯罪の変奏ともいうべき犯人の目的を推理することができるので、ぜひ挑戦を。また、タイトルに象徴されるテーマと真相の巧(たく)みな結びつけも大きな読みどころだ。

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■宇田川拓也(うたがわ・たくや)
書店員。1975年千葉県生まれ。和光大学卒。ときわ書房本店、文芸書、文庫、ノベルス担当。本の雑誌「ミステリー春夏冬中」ほか、書評や文庫解説を執筆。

(2017年9月20日)



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