国内ミステリ出張室

2017.01.19

『ミステリーズ!80号』(2016年12月号)書評 宇田川拓也[国内ミステリ]その2

“ふたつの筋を交互に展開”するといえば、白井智之『おやすみ人面瘡(じんめんそう)』(KADOKAWA 1,600円+税)も忘れてはならない。アンモラルな特殊設定を活(い)かした異形のパズラーを紡ぎ出す若き鬼才の最新作は、体に“脳瘤(のうりゅう)”と称される人面瘡が浮かび上がる奇病が蔓延(まんえん)した日本が舞台。奇病に罹(かか)った女の子ばかりを集めたファッションヘルスで働くカブと後輩のジンタが女の買い取りを依頼されるパートと、女子中学生のサラのクラスにやってきた新担任の鬼畜の貌(かお)が次第に明らかになるパートが描かれる前半は、手の込んだ助走と思っていただきたい。墓地の管理施設で殺人事件が発生する後半から、物語は本格ミステリー度全開で猛然と加速し始める。前半で世界観をみっちり描き込み、 後半からパズラーに変貌する流れは、前作『東京結合人間』と重なるが、思わず顔をしかめるようなあれこれまでもが伏線としてみるみる回収されていく、仰(の)け反(ぞ)るような推理は、「よくもこんなことを思いつくものだ」と開いた口が塞がらない衝撃度。最後の最後まで油断がならない幕の閉じ方も秀逸だ。『人間の顔は食べづらい』でのデビュー以降、着実に進化を遂げている著者から目が離せない。
 
 ちなみに、私が勤める本屋では、書き下ろしショートショート「おいしいほうれん草」を購入特典として配布。大好評でした。

 ラストは、『死体を買う男』から25年を経て、歌野晶午がふたたび江戸川乱歩作品のトリビュートに挑んだ短編集『Dの殺人事件、 まことに恐ろしきは』(KADOKAWA 1,500円+税)。

 収録された作品のタイトルを見ていくと、表題作のほかに、「椅子? 人間!」 「スマホと旅する男」、「「お勢登場」を読んだ男」、「赤い部屋はいかにリフォームされたか?」、「陰獣幻戯」、「人でなしの恋からはじまる物語」と、いずれもニヤリとしてしまうものばかり。スマホやSNSをはじめ、最新のテクノロジーが重要な役割を果たしており、人間の狂気や狡猾(こうかつ)さもバージョンアップした、 懐古趣味に留まらない刺激的なリニューアルが施されている。古典のどの部分を活かし、どう現代的なアレンジを加えていったのかをひとつひとつ確認するごとに、歌野晶午という希代の本格ミステリー作家の感性と技巧に唸(うな)らされるばかりだが、意外性やサプライズの面でも2010年代のミステリーとして充分なレベルに高められている。なかでも表題作で「D坂の殺人事件」をなぞった最後に、もうひと押し捻(ひね)ってみせるあたりなど見事というしかない。ほかにも(収録作を見れば一目瞭然(いちもくりょうぜん)だが)乱歩以外の作家のトリビュートになっている点も要注目。じつに多彩な読みどころを備えた一冊になっている。

 乱歩作品に触れたことのある読者が大いに愉しめるのは当然として、もし本作を読んでから乱歩作品に触れる読者がいたなら、ぜひとも感想を聞いてみたいものだ。

(2017年1月19日)



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