国内ミステリ出張室

2017.09.07

万城目学『パーマネント神喜劇』、辻村深月『かがみの孤城』…「ミステリーズ!84号」(2017年8月号)書評 瀧井朝世[文芸全般]その1

 縁結びの神様と人間たちのドタバタ劇と聞けば、ああ、なんか既視感のある話だなと思う。著者が万城目学(まきめまなぶ)と聞けば、あ、ならば面白そうだな、と予感する。そんな上からの偉そうな期待など吹っ飛ばしてしまう深さを持っているのが新作『パーマネント神喜劇』(新潮社 1800円+税)だ。

 第1話「はじめの一歩」では、何事も段取り重視の生真面目(きまじめ)青年が恋人との仲の危機に直面した瞬間時間が止まり、目の前に奇妙な二人組が現れる。奇抜な柄のシャツに吊りバンドをした太った四十男は縁結びの神様で、スーツ姿に髪は横分け、眼鏡(めがね)をかけた三十路(みそじ)男はそのオブザーバーだという。この神様がしてくれたのは恋仲を取り持つことではなく、彼の「まず、はじめに」という口癖をなくすこと。現実世界に戻った彼は、翌日から生活リズムを乱していく。そして恋人との関係も……。さて。

 そんな人間サイドから進行するパートと、神様の一人語りのパートで物語は進行する。神様界にも上下関係があったり昇級試験があったりと、なんともユニークな世界が見えてくるが、この神様、どうも読者に向かって語っているわけではない。では、誰に向かってこんな話を? それが明かされた瞬間、思わずニヤリ。2話以降も、単に縁結びの神様が活躍するパターンの話ではなく、どれもひねりが効いている。昇進や異動を気にするサラリーマン風の神様は滑稽(こっけい)ではあるが、時折自分の役割についての矜持(きょうじ)と、人々に対する深い愛情を見せてくれるところにふと心つかまれる。最終話では災害が起き、静かに祈る人々と、人々のことを思う神様の健気さにジワリ。思えば著者はいつも、超常的なものを描く時、人類の上に絶対的に君臨するものというよりも、人々の営みに寄り添う、すぐ隣にいるものとして描く。本作はそんな存在への親しみと愛おしさが、ぐぐっと高まる一作だ。

 辻村深月の『かがみの孤城』(ポプラ社 1800円+税)でも、不思議な現象が起きる。

 学校に行けなくなってしまった中学一年生のこころ。家にこもって過ごしているある日、部屋の鏡が光りだす。思わず潜ってみると、その先は城のような建物の中だった。そこに集められたのは中学生7人。狼の面を被った少女の説明によると、平日の9時から5時まで、彼らは現実と城を自由に行き来してよいという。期限は来年の3月まで。それまでに隠された鍵を見つけて願いの部屋を開けた者ひとりだけ、望みを叶えることができるという。

 中学生が7人集まれば、人間関係が円滑に育(はぐく)まれるわけではない。ただ、小さなコミュニティを通して、こころの精神は鍛えられ、現実を正面から見つめる勇気も蓄えられていく。

 初期の頃から青春ミステリーを描いてきた著者だけに、少年少女の心の機微の描き方が的確で、「ああ、こういう時にこう感じるのはこうだからか」と改めて発見すること多し。と同時に、今の著者だから書けるのだと思わせるのが、現実世界の大人たちの多様さだ。彼らも迷い、間違う生き物であり、子どもの気持ちをすべて理解できている訳ではないが、必ずしも大人は子どもの敵ではない。そういう大人と子どもが歩み寄っていく過程が丁寧(ていねい)に描かれている。

 もちろん伏線の回収も見事。途中である部分の真相は予測ついたが「本当にそうだとしたらどうなるんだ!」という興味でなおさら引きこまれ、終盤には予測もつかなった真相が明かされて驚いた。ラストは大泣き。子どもの気持ちも大人の気持ちも掬(すく)い取る青春ダークファンタジー。

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■瀧井朝世(たきい・あさよ)
フリーライター。1970 年東京都出身。慶應義塾大学卒。朝日新聞「売れてる本」、本の話WEB「作家と90分」、WEB本の雑誌「作家の読書道」ほか、作家インタビューや書評などを担当。

(2017年9月7日)



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