国内ミステリ出張室

2017.05.17

青羽悠『星に願いを、そして手を。』、柴崎友香 『かわうそ堀怪談見習い』、森絵都『出会いなおし』…「ミステリーズ!82号」(2017年4月号)書評 瀧井朝世[文芸全般]その2

 一方、第29回小説すばる新人賞は史上最年少、16歳の少年が受賞したことで話題になった。青羽(あおば)悠『星に願いを、そして手を。』(集英社 1600円+税)は、幼なじみの男女4人が登場する。

 10代の頃、町の科学館に集まって一緒に夏休みの宿題に取り組んでいた4人組が、24歳になった今、館長の葬儀のために久々に顔を合わせる。公務員になった祐人、宇宙研究の夢を追って大学院に進んだ理奈、家業の電器店を継いだ春樹、科学館に職を得た薫。祐人と理奈はかつてつきあっており、理奈は夢を諦めた祐人を許せずにいる。彼らの今と過去を軸に、館長の世代や現在の10代の物語を交錯させ、さまざまな角度から夢を追うこと、叶えること、諦めることについての物語を浮かび上がらせる。高校2年生の著者が、自分がまだ知らない社会人になった大人の心情を丁寧(ていねい)に、独(ひと)りよがりにならずに描き出している点や、まるでまだ若い自分を励ますかのように、人生を肯定的にとらえる姿勢も好感度大。このまま書き続けていったら、この2000年生まれの作家はどんな世界を描き出してくれるのだろう、と楽しみになる。

 柴崎友香の『かわうそ堀怪談見習い』(KADOKAWA 1500円+税)の主人公は、作家になる夢を叶えた後で方向転換を図(はか)ろうとしている。「恋愛小説家」と呼ばれることに違和感を持った「わたし」は、東京を離れて大阪のかわうそ堀に転居、新しい作風を探して怪談を書こうと思いつく。とはいえ霊感もネタもないため、取材を試みることに。人魂(ひとだま)が見えると言っていた中学時代の同級生に連絡を取り、霊感のある人間や幽霊が出るという噂(うわさ)のある商会を訪ねるなど経験を積んでいく。彼女が収集した怪談を挟みつつ、その生活が綴(つづ)られていく。消える読みかけの本、奇妙な留守番電話、黒い人影等々、自分の日常にも起こりそうな、ちょっとだけ不思議な体験が語られていく。時にユーモラス、時に幻想的。が、少しずつこの「わたし」の身にも、過去に何かあったことが分かってきて、シンとした怖さに包まれていく。そして……。

 これまでも土地とその歴史、建物、時間、人の記憶といったモチーフを扱ってきた著者と怪談の相性の良さに気づかされる一作。

 10年計画で「オール讀物」で定期的に短篇を掲載してきた森絵都。企画スタートは短篇集で直木賞を獲った直後で、動機は「もっと短篇がうまくなりたいと思ったから」というからその向上心には恐れ入る。このたび10年を達成。掲載された作品は定期的にまとめられ刊行されてきたが、企画最後の短篇集となるのが 『出会いなおし』(文藝春秋 1400円+税)だ。これまでの作品集もそう思ったが、やっぱりうまい。ずば抜けて。

 表題作はイラストレーターの主人公が個展を開いている風景から始まる。そこにやってきたのは、久々の再会となる一人の編集者。7年以上も顔を合わせていなかったとはいえ、その服の傾向の大きな変化が目にとまる。と同時に、脳裏によみがえるのは、初めて会った時のこと、しばらくして彼が異動した後で再会した時のこと……。人生模様を変化させていく他者との触れ合いを表すタイトルにしみじみ。デパ地下で買った総菜をめぐる一人の女性の逡巡と奮闘を克明に描く「カブとセロリの塩昆布サラダ」もニヤニヤしながら読める一篇。が、移動する車の中から見える光景から始まり、時空を超えて思いもよらない人類と文明の変遷(へんせん)まで思いを巡らせることになる「テールライト」など、超現実的な話も。どれも短篇ならではの濃密さと大胆さで、強烈な余韻(よいん)を残す。企画は達成したが、まだまだ短篇も書き続けてほしくなる。

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■瀧井朝世(たきい・あさよ)
フリーライター。1970 年東京都出身。慶應義塾大学卒。朝日新聞「売れてる本」、本の話WEB「作家と90分」、WEB本の雑誌「作家の読書道」ほか、作家インタビューや書評などを担当。

(2017年5月17日)



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