本格ミステリ漫画ゼミ

2016.01.22

本格ミステリ漫画ゼミ 【第16講】 福井健太 (2/2)

探偵犬シャードック.jpg  2011年から翌年まで『週刊少年マガジン』(講談社)に連載された『探偵犬シャードック』(原作=安童夕馬/作画=佐藤友生)では、シャーロック・ホームズの魂を宿した小型雑種犬シャードックが奮闘する。シャードックを引き取った高校生・輪島尊(わじまたける)は、自分だけが彼と話せることを知り、ワトスン役を務めることになる。シャードックは(時代錯誤の勘違いを重ねるにせよ)名探偵だが、尊も利発なキャラクターであり、5巻の後半からは警察官として活躍する。基本的に倒叙スタイルが採られており、サブタイトルには『刑事コロンボ』の題名をもじったものが多い。第一部として7冊が上梓されたが、第二部は未定。佐藤は14年から(第12講で触れた『明智警部の事件簿』を連載中である。

 中島豊『芸術捜査班!!!』は11年から13年まで『少年サンデー超』『少年サンデーS』(小学館)に掲載された。単行本は全4巻。3人の高校生──ミステリマニアの少女・露払幌(つゆはらいほろ)、絵にしか興味のない変人・想之丈描(おもいのたけえがく)、警視総監の息子にして名探偵・理詰捜索(りづめそうさく)のトリオが主人公だ。謎解きは概してシンプルだが、物理トリックへの拘り、絵を描くことで真相を見抜く演出などは興味深い。怪盗・黒傘との決着が付かない点は気になるものの、意欲作であることは確かだろう。

 人造少女が外科技術を施す『フランケン・ふらん』、不思議な力を得た三重苦の少女が怪事に遭う『ヘレンesp』などで知られるホラー作家・木々津克久は、12年から14年まで『週刊少年チャンピオン』(秋田書店)に『名探偵マーニー』を発表した。単行本は全11巻。女子高生探偵マーニー(本名は真音(まりおん))が日当5000円で依頼を受け、インターネットや口コミで情報を集め、持ち前の推理力と行動力で真相を暴く──というシリーズだ。犯罪捜査と学内のトラブル処理が中心だが、因縁の敵である劇場型犯罪者メカニックとの対決も長きにわたって描かれた。マーニーと知人たちの交流、派閥化された学内などの設定は、この著者らしい奇妙なユーモアに溢れている。

 13年から15年まで『ビッグコミックオリジナル』に連載された『月(ルナ)は囁く』(原作=宮崎克/作画=青木朋)(上下巻)では、心理学の天才少女と刑事のコンビが活躍する。警視庁捜査一課刑事・藤村陽一は、父の再婚相手の連れ子・華月霞(ファ・ユエシア/通称ルナ)と同居を始める。飛び級で大学院を卒業し、非常勤講師として来日したルナは「人の容貌・骨格などから性質や運命まで判断する」観相の達人だった。ルナは観察力と心理学を駆使し、犯罪や日常の謎を解明する。表情から本心を見透かすプロを軸として、読者の裏をかくプロットを紡いだ佳作である。第2話「月とドッペルゲンガー」の事件と「物証と心証が矛盾したら心証のほうを信じる」という台詞は、ヘレン・マクロイの諸作を想起させるものだ。

 特異な少女探偵として、13年から14年まで『月刊少年ライバル』(講談社)に連載された『動物探偵まどかの推理日誌』(原作=宮崎克/漫画=左藤圭右)のヒロイン・阿仁まどかの名前も挙げておこう。女子高生にして動物園の園長である彼女は、猿山の毛繕いに参加し、虎を乗り物にする野性的な(獣の臭いがする)キャラクター。動物嫌いの刑事・八木の相談を受けたまどかは、動物の知識を介して難事件を解決する。後半でギャグが暴走するあたりは好みが分かれそうだ。

 最後にもう一冊。15年に『少年マガジンR』(講談社)で始まった義元ゆういち『夢喰い探偵 宇都宮アイリの帰還』は、ミステリマニアの少年と少女を描く青春ミステリだ。書店主の孫である小学生の「僕」こと国谷一力は、雑誌を届ける病院で長期入院中の少女アイリに出逢い、一緒に名探偵になろうと約束する。やがて高校二年生になった国谷は、転校してきた宇都宮アイリに再会し、彼女の助手を強要される。後遺症の発作で頭が冴える設定はあるものの、インパクトに頼らないプロットは"律儀なミステリ"への敬意を感じさせる。正統派のミステリ漫画として注目したい。


福井健太(ふくい・けんた)
1972年京都府生まれ。早稲田大学第一文学部卒。書評家・ライター。『ミステリマガジン』『SFマガジン』などで小説とコミックのレビューを担当している。2013年に『本格ミステリ鑑賞術』で第13回本格ミステリ大賞(評論・研究部門)を受賞。


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