本格ミステリ漫画ゼミ

2016.05.25

本格ミステリ漫画ゼミ 【第20講】 福井健太 (1/2)

ルールに則った知的バトルは
本格ミステリ精神の結晶でもある

「思考ゲームとしてのミステリ漫画」




銀と金.jpg  ルールを伴う頭脳戦を軸にしたエンタテインメントは、コアな本格ミステリに極めて近いものだ。探偵や犯罪などの装置がなくとも、理知的なゲーム空間を築くことはできる。アグレッシヴな本格ミステリの感性が(変革性ゆえに)伝統的な様式を壊すこともあるだろう。本講ではそんな例を見ていきたい。

 福本伸行は1958年神奈川県生まれ。80年に『よろしく純情大将』でデビュー。98年に『賭博黙示録カイジ』で第22回講談社漫画賞(一般部門)を受賞した。福本が92年から96年まで『アクションピザッツ』(双葉社)に連載した『銀と金』(全11巻/新装版は全10巻)は、豊富なアイデアが詰まったピカレスクの名作である。裏社会のフィクサー・平井銀二は、競馬場で出逢った若者・森田鉄雄を後継者に育てるべく、殺人鬼の監視や特殊麻雀を命じる。札束が飛び交うギャンブル譚も刺激的だが、名家の一族が殺し合う"神威家篇"はとりわけ秀逸だ。

 福本のミステリセンスは『無頼伝 涯』の脱出劇や『賭博覇王伝 零』の暗号解読に加えて、麻雀漫画『アカギ 闇に降り立った天才』(竹書房/既刊31巻)にも窺える。ヤクザの代打ちと対峙した雀士・赤木しげるは、40話で不可解な行動をした後、47話で相手の捨て牌を予言する。半年以上にわたって"思考パターン解析"の伏線を重ねた構成は、周到な本格ミステリの手続きそのものだ。しかし"最もミステリらしい話"は、かわぐちかいじ(作画)との合作かもしれない。99年に『ヤングマガジンアッパーズ』(講談社)に掲載された『生存 LifE』(全3巻/新装版は全2巻)は、余命半年の男が娘を殺した犯人を探す時効サスペンス。2001年に同誌に発表された『告白 CONFESSION』は、雪山の小屋で演じられる二人の男の心理劇だ。

 1999年から2005年まで『月刊少年ガンガン』(エニックス→スクウェアエニックス)に描かれた『スパイラル~推理の絆~』(原作=城平京/作画=水野英多/全15巻)は、知的ゲームの枠を広げた例として興味深い。城平京は1974年奈良県生まれ。第8回鮎川哲也賞最終候補作『名探偵に薔薇を』で98年にデビュー。2012年に『虚構推理 鋼人七瀬』で第12回本格ミステリ大賞を受賞。『スパイラル~推理の絆~』の小説版(全4巻)も手掛けている。

 知力に秀でた高校生・鳴海歩と新聞部部長の結崎ひよのが、宿命を負った子供達"ブレードチルドレン"との対決を経て、歩の兄である神の如き存在・鳴海清隆の思惑に辿り着く──本作はそんな物語だ。腹の探り合いを積み重ね、苦いストーリーを紡いだ手法はいかにも城平らしい。"事実の如何に拘わらず、信じる者の存在が影響力を持つ"というテーゼも『虚構推理』を思わせる。01年から08年まで『月刊ガンガンWING』『月刊少年ガンガン』(スクウェアエニックス)に連載された『スパイラル・アライヴ』(原作=城平京/作画=水野英多/全5巻)は、本篇の数年前を背景にしたスピンオフである。

DEATH NOTE.jpg  頭脳戦コミックと聞いて、真っ先に『DEATH NOTE』(原作=大場つぐみ/作画=小畑健)を連想する人は多いはずだ。03年から06年にかけて『週刊少年ジャンプ』(集英社)に描かれた本作は、全12巻(文庫版は全7巻)の発行部数が3000万部を超え、実写映画やテレビアニメ版も作られた。死神リュークの落とした黒いノート──名前を書いた人間を殺せる"デスノート"を拾った高校生・夜神月(やがみライト)は、犯罪者のいない新世界を創造するため、謎の存在キラとして殺人を繰り返す。インターポールは世界的名探偵のLに調査を依頼し、二人は熾烈な頭脳戦を続けていく。

 超自然的なアイテムを導入し、その規則を明記することで、本作はゲームの枠組みを確立した。基本的には倒叙ミステリだが、捜査側にはルールを追尾する必要があり、月は状況の複雑化によって身を守る。6巻から7巻の迂遠な計画はその最たるものだ。13巻として上梓された副読本『DEATH NOTE HOW TO READ』の対談において、大場は「ルールや辻褄はしっかり確認しますけど、全然計算していないです」「初めから"全部"のアイディアがあったわけではありませんから」と述べたが、本作が高度な計算の産物であることは疑いない。ミステリ漫画を苦手とした雑誌が、第15講で挙げた『人形草紙あやつり左近』の小畑を起用し、搦め手から攻めた成功作である。



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