本格ミステリ漫画ゼミ

2016.04.25

本格ミステリ漫画ゼミ 【第19講】 福井健太 (1/2)

多くの類型を擁する本格ミステリは
ギャグやコメディの肥沃な土壌でもある

「本格ミステリ由来のギャグ漫画」



猫田一金五郎の冒険.jpg
 周知された類型はギャグやパロディに使いやすく、無数のベタを擁する本格ミステリが素材にされるのは自然なことだった。前講まではストレートな作品群を見てきたが、本講ではギャグを主体とする作例を取り上げたい。恣意的に型を外すからこそ、その手法には描き手のセンスが強く反映されるはずだ。

 ミステリパロディ漫画の異才として、最初に"とり・みき"を紹介しておこう。1958年熊本県生まれ。79年に第12回週刊少年チャンピオン新人まんが賞佳作「ぼくの宇宙人」でデビュー。メタ的な漫画表現で人気を博し、94年に『DAI-HONYA』で第25回星雲賞コミック部門、95年に『遠くへいきたい』で第41回文藝春秋漫画賞、98年に『SF大将』で第25回星雲賞コミック部門を受賞。2003年刊の『猫田一金五郎の冒険』(講談社)は、1992年から2001年に描かれたミステリパロディを纏めた一冊だ。

 カバー下や口絵も併せて、本書には名探偵・猫田一金五郎が登場する16篇が収められている。金田一耕助と明智小五郎を混ぜたような猫田一は、旧家の怪死事件に挑み、小人探偵団を率いて怪人二〇〇一面相と対決する。ただし内容はミステリではなく、騙し絵やシンメトリー、猫田一の帽子(に見えるもの)絡みの繰り返しギャグなどを活かしたナンセンス譚。京極夏彦との合作「美容院坂の罪作りの馬」では、京極の作画と両者の掛け合いも楽しめる。

 1995年から97年にかけて『月刊少年キャプテン』(徳間書店)に発表された『土曜ワイド殺人事件』は"とり・みき×ゆうきまさみ"の合作。98年に描き下ろしを加えて単行化され、2004年に角川書店で復刊された。勤労少女・田渕A子が殺人事件に遭遇し、群馬県警の田子二毛作と土手村湧介が捜査をする3篇(「土曜ワイド殺人事件」「バナナワニ島殺人事件」「喜劇温泉列車殺人事件」)を収めた本書は、温泉や崖上などの2時間ドラマのお約束をちりばめたコメディだ。絵の混在が違和感を与えないのは、作風の相性の良さゆえだろう。01年から04年まで『AICコミックLOVE』(AIC)『ドラゴンHG』『月刊ドラゴンエイジ』(富士見書房)に掲載された続篇は、04年に『新・土曜ワイド殺人事件 京都藁人形殺人事件』(角川書店)として上梓された。

ああ探偵事務所.jpg  あさりよしとおは1962年北海道生まれ。81年に「木星ピケットライン」(浅利義遠名義)でデビュー。科学考証に則ったSFに定評があり、代表作に『宇宙家族カールビンソン』『まんがサイエンス』『なつのロケット』がある。2014年には『宇宙へ行きたくて液体燃料ロケットをDIYしてみた 実録なつのロケット団』で第45回星雲賞ノンフィクション部門と科学ジャーナリスト賞を受賞した。1999年から2000年まで『ウルトラジャンプ』(集英社)に連載された『少女探偵 金田はじめの事件簿』は、新作を加えて06年に白泉社から刊行されている。「かの有名な探偵の孫にして」「推理研究会の部長」である女子高生・金田一(かねだはじめ)と助手のアサミ(兄が警察の偉い人らしい)が怪事件を探る話だが、次々に変態が登場し、ブラックなナンセンスギャグが繰り出される。初期の食人ネタは吾妻ひでおのギャグを彷彿させるものだ。推理の要素は薄いが、これも独自のセンスを探偵ものに落とし込んだ作例と言えるだろう。

 ゼロ年代のユーモアミステリ漫画の代表としては、02年から08年まで『ヤングアニマル』(白泉社)に連載された関崎俊三(かんざき・しゅんみ)の『ああ探偵事務所』(全15巻)を挙げたい。ホームズ好きが高じて「ああ探偵事務所」を営む貧乏探偵・妻木と助手の井上涼子を中心として、多彩なトラブルの顛末を綴ったコメディだが、警察嫌いの妻木は依頼人を守るために違法行為も辞さない。独特のテンションを備えたギャグは印象的だが、背景の巧みなプロットも評価されるべきだろう。「電話帳の一番始めに載ってる探偵社」の着想から、泡坂妻夫の生んだ名探偵・亜愛一郎を連想する人も多いはずだ。関崎俊三は長野県出身。筑波大学大学院修士課程修了。第16回ヤングアニマル月例新人賞入選作「豚が飛ぶとき」(唯野俊三名義)で1996年にデビュー。他の作品に『恋愛怪談サヨコさん』などがある。

 2008年から翌年まで『月刊少年ライバル』に連載された『名探偵パシリくん!』(原作=雛祭わいん/漫画=うみたまご)は全3巻。現代推理研究部の部長・関地凱に目を付けられ、強制的に入部させられた高校一年生・出雲走(いずも・はしり)が、現役グラビアアイドル・矢芭川結衣の下着の柄をヒントに謎を解く──というコメディだ。推理に新味はないものの、シンプルなトリックと"確信犯的にくだらない"設定の組み合わせが珍妙な味を醸していることは確かだろう。



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