本格ミステリ漫画ゼミ

2016.03.25

本格ミステリ漫画ゼミ 【第18講】 福井健太 (1/2)

低年齢層を対象とする作品群が
多くのミステリファンを育成した

「児童向けのミステリ漫画たち」



少年探偵彼方.jpg
 探偵ものが量産された昭和中期と同じように、1990年代以降にも多くの児童向けミステリ漫画が描かれている。少年・少女向けとの区分は難しいが、掲載誌や内容を鑑みつつ、代表的なものを取り上げていこう。

 92年開始の『金田一少年の事件簿』の成功を受け、94年に『名探偵コナン』が生まれた経緯は以前の講で述べたが、同年には〈ぼくらの推理ノート〉シリーズも開幕している。順を追って紹介すると、94年に『月刊少年ギャグ王』(エニックス)で始まった『少年探偵彼方 ぼくらの推理ノート』(原作=夏緑/作画=井上いろは/全2巻)は、小学5年生の天才少年・遠野彼方が活躍する一話完結もの。96年から98年まで同誌に連載された『続少年探偵彼方 ぼくらの推理ノート』(原作=夏緑/作画=祥寺はるか/全5巻)では、中学2年生の彼方が探偵業に復帰し、プロ犯罪者リドルと対決する。98年から99年まで『月刊少年ギャグ王』『少年Gag-Oh』(エニックス)に掲載された『ぼくらの推理ノート 聖クラリス探偵団』(原作=夏緑/作画=祥寺はるか/全2巻)は、彼方の従弟にあたる中学2年生・遠野大気が名門校"聖クラリス学園"に探偵部を作り、仲間とともに謎を解く話だった。

 解決篇の前に推理クイズ(三択形式)を出題し、少年探偵の冒険譚とゲーム性を両立させたことは、このシリーズの大きな特徴と言えるだろう。『聖クラリス探偵団』1巻には「三択推理とは雑学クイズ的なテストではなく帰納的な論理法のゲームです」という解説も付されていた。夏緑は大阪府出身。京都大学大学院博士課程を修了し、国家公務員一種資格を持つライトノベル作家だ。『獣医ドリトル』(作画=ちくやまきよし)や『らせんの迷宮~遺伝子捜査~』(作画=菊田洋之)の原作も手掛けている。

 94年から96年にかけて『小学五年生』(小学館)に連載された鈴木雅洋『まかせてダーリン』も、すこぶる印象的なミステリ漫画だった。新米刑事・真田麟太郎に一目惚れした中学1年生の甲斐千秋は、事件現場を訪ねるほどの押し掛け女房。麟太郎は誤った推理で犯人を指摘し、被疑者と上司に怒られるが、千秋はその被疑者が真犯人だと見抜く──というパターンを繰り返すラブコメディである。単行本と雑誌版は結末が異なるが、後者の幕切れに虚を突かれた小学生は多いに違いない。

 95年から97年まで『少年王』(光文社)に描かれた『赤川少年探偵団』(原作=浅利佳一郎/シナリオ=山中正治/作画=斎藤純一郎/全3巻)では、4人の高校生──推理に長けた赤川信彦、警部の娘・天野映美、巨漢の大江健、広い人脈を持つ下田一樹が様々な犯罪に立ち向かう。事件のバリエーションを増やし、ダミーの推理を多用する工夫はあるものの、諸々の演出や素っ気ないラストは読者を選びそうだ。

秘密警察ホームズ.jpg  90年代の児童向けミステリ漫画の代表としては、96年から99年まで『月刊コロコロコミック』(小学館)に連載された『秘密警察ホームズ』(原作=立神敦/作画=犬木栄治/全9巻)を挙げるべきだろう。小学6年生の警視・西鍵健一(ホームズ)、同学年の警部・北原真古(マープル)、その従弟である4年生の警部補・明石小五郎(コゴロー)から成る"影の警察"こと警視庁秘密捜査課は、それぞれの持ち味を発揮し、数々の難事件を解決していく。第一部はオーソドックスな連作だが、第二部(7巻以降)では美術品窃盗団ダークの少年アルとホームズの頭脳戦も楽しめる。捜査一課警部・原田三郎や警視監・犬森元治のサポート、スマートな結末なども併せて、バランスの取れた良作と評したい。犬木栄治は71年東京都生まれ。代表作に『B-伝説! バトルビーダマン』がある。

 あさみさとる『椎名くんのリーズニング・ファイル』(エニックス/全2巻)は、96年から翌年まで『少年ガンガン』に掲載された。探偵役の少年(園芸好きの高校生・椎名央(あきら))と幼馴染みの少女(理事長の娘・榊りえ)が事件に巻き込まれる設定は類型的だが、複数のトリック、フェアな伏線、生々しい愛憎劇などを数十ページに凝縮したプロットは、当時のミステリ漫画の中でも傑出していた。勧善懲悪に依存せず、犯人の想いを語らせる手法にも作家性が窺える。あさみさとるは91年に「亡霊の棲む森」(横井志保名義)でデビュー。『サスペリア』『サスペリアミステリーSP』(秋田書店)で内田康夫、太田忠司、倉知淳、二階堂黎人などの小説を漫画化し、多くのハーレクインコミックスを著した。麻実美里の名義でも活動している。



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