本格ミステリ漫画ゼミ

2015.10.25

本格ミステリ漫画ゼミ 【第13講】 福井健太 (1/2)

実力派の生んだ"小さな名探偵"は
普遍的なキャラクターに成長した

「名探偵コナンの浸透力」




名探偵コナン.jpg  1992年に始まった『金田一少年の事件簿』が大人気を博し、商業的な環境が整うことで、90年代半ばには多彩な本格ミステリコミックが誕生した。青山剛昌『名探偵コナン』(小学館)はその最大の成功例に違いない。

 青山剛昌は63年鳥取県生まれ。日本大学芸術学部卒。86年に「ちょっとまってて」で第19回小学館新人コミック大賞に入選してデビュー。93年に『YAIBA』で第38回小学館漫画賞・児童部門を受賞。94年に『週刊少年サンデー』で立ち上げた『名探偵コナン』は、2001年に第46回小学館漫画賞・少年部門に輝いた。その総発行部数は1億5000万部を超える(87巻現在)。いずれも少年サンデーコミックスの最多記録だ。

 経済効果は出版界に留まらず、96年開始のテレビアニメは約800話が作られた。97年以降は毎年4月に劇場版アニメが公開され、2015年までに19作で約560億円の興行収入を上げている(『ルパン三世VS名探偵コナン THE MOVIE』を除く)。07年には鳥取県北栄町に"青山剛昌ふるさと館"が建てられた。鳥取空港が"鳥取砂丘コナン空港"の愛称を付け、等身大フィギュアやギャラリーを常設したのは15年のことである。

 初期設定を記しておこう。高校生探偵・工藤新一は、幼馴染みの毛利蘭とともに遊園地を訪れ、ジェットコースターで起きた殺人事件を解決する。その直後、新一は"黒ずくめの男"の取引を目撃し、謎の薬品を飲まされ、子供の姿に変貌した。隣人の科学者・阿笠博士に事情を告げた新一は、知人たちを守るために"江戸川コナン"と名乗り、蘭の父親・毛利小五郎の探偵事務所で暮らし始める。コナンは推理力を隠し、阿笠博士の発明品を使い、迷探偵の小五郎をサポートしていく。

 長大化に伴ってキャラクターが増え、世界が広がることで、現在の『名探偵コナン』には複数のスタイルが組み込まれている。コナンと蘭と小五郎を中心とするオーソドックスな話、コナンと同級生たち──小嶋元太、円谷光彦、吉田歩美が"少年探偵団"として活躍するエピソード、宿敵"黒の組織"をめぐるサスペンス、大泥棒・怪盗キッドとの頭脳戦など、そのバリエーションは少なくない。そこに子供の姿で阿笠の家に住む"灰原哀"こと宮野志保、大阪府警本部長を父に持つ"西の高校生探偵"服部平次とその旧友・遠山和葉、蘭の親友・鈴木園子、蘭の母親にして敏腕弁護士の妃英理、新一の両親などが加わり、様々なドラマが紡がれていく。FBIやCIAが関わるケースも多く、60巻以降では工藤家に居候する"沖矢昴"ことFBI捜査官・赤井秀一、73巻以降ではその妹である女子高生探偵・世良真純も活躍している。全容を大まかに把握するには、単行本10冊分の内容を纏めた〈スーパーダイジェストブック〉シリーズ(小学館)が便利だろう。

 ちなみに『週刊少年サンデー』『週刊少年マガジン』の創刊49年目にあたる08年には、両誌の合同企画"サンデー×マガジン 50th Anniversary スーパープロジェクト"として、雑誌やゲームやグッズなどが制作された。旧作を収めた『名探偵コナン&金田一少年の事件簿』(全12冊/小学館)もその1つだ。第1号に掲載された「青山剛昌×天樹征丸×さとうふみや 豪華作家鼎談」において、青山は「『金田一』がウケているから『少年サンデー』でも、そういうまんがをやってくれないか?」と打診されたと述べている。「犯人が真っ黒なのも、ほぼマネですから」という告白も面白い。そんな経緯で生まれた『名探偵コナン』が後追いに終わらなかったのは、ヒット作『YAIBA』を手掛けた実力派が"少年探偵もの"に挑み、漫画の面白さを重視したからだ。本作の肝は(大量の文字で語られる)謎解きではなく、大小のプロットで描かれるキャラクター陣と、彼らの織り成す長大な物語にある。

 7巻で犯人を死なせたコナンは、16巻で「犯人を推理で追い詰めて、みすみす自殺させちまう探偵は…殺人者とかわんねーよ…」と独白するが、これは探偵の成長シーンとして興味深い。作中では約半年間に250以上の事件が起きているが、これを指摘するのはナンセンスだろう(青山は「サザエさんと同じ」と説明している)。単行本カバー袖の「青山剛昌の名探偵図鑑」が大量の読者にミステリを紹介したことも、改めて評価されるべき点と言えそうだ。



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