本格ミステリ漫画ゼミ

2015.09.24

本格ミステリ漫画ゼミ 【第12講】 福井健太 (1/2)

爆発的なヒット作が生まれることで
本格ミステリコミックの存在感が強まった

「金田一少年の功罪」




金田一少年の事件簿.jpg  前講までに挙げたタイトルをはじめとして、多彩な作品群が一定の支持を得ることで、ミステリコミックは緩やかにジャンルを形成してきた。1992年に『週刊少年マガジン』(講談社)で幕を開けた『金田一少年の事件簿』は、その歴史に投じられた"爆弾"にほかならない。

 書誌を記しておくと、92年から97年まで連載された〈ファイル〉シリーズは全27巻。95年に第19回講談社漫画賞・少年部門を受賞した。98年から2001年の〈Case〉シリーズは全10巻。04年から11年に不定期掲載された〈第Ⅱ期〉シリーズは全13巻。12年と13年に描かれた〈20周年記念〉シリーズは全5巻。他に6冊の短篇集がある(いずれも文庫化済み)。13年には『金田一少年の事件簿R(リターンズ)』が始まっている。著者名は「原作=金成陽三郎、漫画=さとうふみや」から「原作=金成陽三郎、漫画=さとうふみや、原案=天樹征丸」「原作=天樹征丸、漫画=さとうふみや」と変化した。金成陽三郎は1965年生まれの漫画原作者。さとうふみやは埼玉県出身の女性漫画家である。

 天樹征丸については詳述しておこう。62年東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。『週刊少年マガジン』の編集者を経て、99年に原作者として独立した。青樹佑夜、有森丈時、安童夕馬、伊賀大晃、龍門諒などの名義でもヒット作──朝基まさし『サイコメトラーEIJI』『クニミツの政』、綾峰欄人『GetBackers -奪還屋-』、オキモト・シュウ『神の雫』、月山可也『エリアの騎士』などを手掛けている。本名"樹林伸"名義では小説も著しており、石垣ゆうき『MMR マガジンミステリー調査班』の主人公"キバヤシ隊長"のモデルとしても有名だ。

 金田一耕助の孫にあたる高校生・金田一一(はじめ)が、幼馴染みの七瀬美雪とともに連続殺人に巻き込まれ、警視庁の剣持勇警部、明智健悟警視らと協力して真相を見抜く──というのが基本パターンだが、本作が累計9000万部を超えた最大の理由は、ガジェット型の本格ミステリに徹したプロットに違いない。不気味な閉鎖空間に胡乱な人々が集い、不可能犯罪が繰り返され、奇抜な通り名を持つ怪人(=殺人犯)の正体とトリックが暴かれる古風な物語は、ミステリファンや少年漫画ファンの潜在的なニーズに応えるものだった。一に「謎はすべて解けた」「犯人はこの中にいる」と宣言させ、推理を促したこともアピールになったはずだ。古いミステリの手法に遡ることで、純度の高い"謎解きの愉しさ"を抽出した画期的な企画だったのである。

 謎解きの構成だけではなく、作り手の"漫画に対する意識"にも留意しておきたい。定番のスタイルを支持されながらも、容疑者になった一が逃走する「金田一少年の殺人」「金田一少年の決死行」を発表したのは、マンネリズムに対する配慮ゆえだろう。「魔術列車殺人事件」で初登場した"地獄の傀儡師"こと高遠遙一は、準レギュラーの悪投として十本以上のエピソードに出演している。ここには"推理クイズ"に留まらないエンタテインメントへの視線が窺えるのだ。

 あえて踏み込んで言えば、本作は当初から順調だったわけではない。横溝正史の小説に金田一耕助が結婚したという記述はなく、一のプロフィールを疑問視する声は多かった。06年刊のガイドブック『金田一少年の全事件簿』において、一は「それに関しては、深くは問わないでおこう」と流している。既存のトリックを借りたエピソードも散見され、島田荘司「『占星術殺人事件』のトリック流用に関して」(『21世紀本格宣言』所収)でも抗議を受けた。しかし諸々の反省を活かし、オリジナリティを高め、小説版9冊、アニメシリーズ4本、ドラマシリーズ4本、ゲームソフト7本が制作されるビッグタイトルに育てた業績は認められるべきだろう。

 アニメやドラマなどのメディア展開を含めて、本作の知名度が増すことは、本格ミステリコミックの存在感を高めることでもあった。トリックの流用に関しても、業界の意識差が(ようやく)顕在化した現象と言えなくもない。謎解きはフィクションの強力なモチーフだが、それを軸にした漫画が増えるためには、商業的な土壌が耕される必要があった。本作はその役割を果たしたのである。



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