本格ミステリ漫画ゼミ

2015.08.25

本格ミステリ漫画ゼミ 【第11講】 福井健太 (1/2)

80年代の少年誌における稀少な収穫と、
90年代初頭の少女誌に現れた名作シリーズ。

「本格ミステリ漫画の“夜明け前” 」




名探偵Mr.カタギリ.jpg  多くの佳作を生んだ少女漫画誌とは異なり、1980年代の少年漫画誌にミステリコミックは少なかった。87年から翌年まで『週刊少年マガジン』(講談社)に掲載された『名探偵Mr.カタギリ』(原案=鐘田頌太郎/作画=宇野比呂士)はその一つだ。貧乏な私立探偵・片桐正人が依頼人のために働く──と書くと正義漢めくが、片桐は詐欺や強盗も厭わないトラブルバスターであり、その仕事は犯人探しからコンゲームまで多岐にわたる。作中の罠を"読者騙し"に使うセンスも当時としては秀逸だった。片桐が自前の罠に独白で驚くアンフェアぶりは御愛敬だろう。

 宇野比呂士は62年大分県生まれ。『キャプテンキッド』『天空の覇者Z』などの冒険譚で人気を博した。鐘田頌太郎は別名義で『人形草紙あやつり左近』(原作=写楽麿/作画=小畑健/集英社)、『焼け跡探偵帳ポワ朗』(原作=金田正太郎/作画=円堂たいが/小学館)、『はいからさん探偵帳』(原作=宮崎克/作画=佐柄きょうこ/小学館)、『動物探偵まどかの推理日誌』(原作=宮崎克/作画=左藤圭右/講談社)などのミステリコミックに携わっている。実録漫画『ブラック・ジャック創作秘話』(原作=宮崎克/漫画=吉本浩二)の原作者としても有名だ。

NERVOUS BREAKDOWN.jpg  現代からミステリコミックの歴史を振り返ると、80年代の少年漫画誌は"夜明け前"に違いない。しかし世の風潮とは無関係に、自身の嗜好をアピールし、ミステリファンに衝撃を与えた作品もあった。88年から97年まで『月刊コミックNORA』(学習研究社)に連載された『NERVOUS BREAKDOWN』である。たがみよしひさは58年長野県生まれ。青春群像劇『軽井沢シンドローム』で注目を浴び、時代劇、ホラー、SFなどを次々に発表した。その最長作『NERVOUS BREAKDOWN』は、北千住の"田沼平九郎探偵事務所"の探偵たち──天才型の安堂一意、肉体派の三輪青午(しょうご)、所長の娘・田沼京子、大富豪の娘・稲葉美矢が活躍する物語だ。

 トリックを駆使した謎解き、叙情的なハードボイルド、スリリングな諜報戦などを混ぜることで、本作には多彩なミステリの魅力が詰まっていた。各エピソードとおまけ四コマ漫画「すぺしゃるれぽーと」にミステリ小説(の題名)をもじったサブタイトルを付け、随所にマニアックな小ネタを埋める趣向もミステリファンを喜ばせた。89年から97年までにノーラコミックス版の全13巻が上梓された後、文庫版の9巻に新作が追加されている。

 89年から90年にかけて『スーパージャンプ』(集英社)で連載された〈オールカラー謎解きコミック〉にも触れておこう。内容はカラーページの推理クイズだが、解答を分載する構成は本格ミステリのゲーム性を強調したものだった。単行本は90年に『ダイイングメッセージ』(出題=長谷部史親/画・構成=幡地英明)、91年に『漫画家殺人事件』(出題=長谷部史親・倉田洸二郎・小野寺紳/画・構成=幡地英明)が刊行された。幡地英明は『あした天兵』(原作=やまさき十三)や『我が人生にゴルフあり』(原作=高橋三千綱)などの著書を持つベテランである。

 ちなみに少女漫画誌では、89年に『マーガレット』(集英社)で宮脇明子『名探偵保健室のオバさん』が始まっていた。ガサツだが高い推理力を持つ養護教諭の遠山櫻子、彼女に保健委員を命じられた高校生・神宮寺尊(みこと)がコンビを組み、学園の内外で起きた事件を解決する──という本作は98年までに全8巻(文庫版は全4巻)が出版された。宮脇明子は58年広島県生まれ。代表作に『ヤヌスの鏡』がある。



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