本格ミステリ漫画ゼミ

2015.07.27

本格ミステリ漫画ゼミ 【第10講】 福井健太 (1/2)

多彩な才能がそれぞれのセンスを発揮し
ミステリ漫画のバリエーションが広がった

「80年代の新しいミステリ漫画たち」




パズルゲーム☆はいすくーる.jpg  バリエーションを増すことで媒体や読者層を開拓し、それが新たな描き手を生むという好循環を通じて、ミステリ漫画は1970年代から80年代に劇的な進化を遂げた。探偵の冒険譚だけではなく、多彩な"謎と犯罪の物語"を描ける環境が整ったわけだ。逆説めいた表現をすれば、謎解きを軸にした本格ミステリ漫画という"異端"もそこで生まれたのである。

 83年に『花とゆめ』(白泉社)で始まった野間美由紀『パズルゲーム☆はいすくーる』は、少女漫画誌に本格ミステリを導入した記念碑的な存在だ。学生が自治権を持つ葉蔓高校を舞台として、リーダー格の押上大地、その恋人・三輪香月、情報担当の片岡美女(みめい)、器用な下級生・加瀬卓馬から成るミステリ研究会が活躍する同作は、2001年まで続くロングヒットとなった。殺人を殆ど扱わず、雑多な"謎解きそのもの"が漫画のメインプロットになり得ることを示した功績は極めて大きい。

 ちなみに『ミステリーボニータ』(秋田書店)では02年から08年まで『新パズルゲーム☆はいすくーる』、08年から『パズルゲーム☆はいすくーるX』が連載されている。『Silky』(白泉社)には08年から11年まで『パズルゲーム☆トレジャー』、11年から12年まで『パズルゲーム☆Pro』が掲載された。13年からはWebマガジン『Love Silky』『パズルゲーム☆はいすくーるラグジュアリー』が連載中。押上と三輪をプロの探偵にするなど、キャラクターの境遇を変え、30年以上にわたって続いているシリーズなのだ。野間のミステリ漫画には、専門知識をトリックに活かした『インテリア』『アトモスフィア』や〈ジュエリー・コネクション〉シリーズ、その続篇『ジュエリーBOXデイズ』(いずれも白泉社)などもある。

 独自のセンスを発揮した鬼才として、三原順にも触れておきたい。三原は52年北海道生まれ。73年に「ぼくらのお見合い」でデビュー。75年から81年まで『花とゆめ』に連載された『はみだしっ子』など、深い人間観察に基づく作品群で絶賛を浴びた。83年に『LaLa』(白泉社)に発表された〈セルフ・マーダー〉シリーズ──「あなたのための子守唄」「朝になるまで」「PM2:30 21F」「夕暮れの旅」は、自殺をテーマにした"奇妙な味"の連作集だ。現在は『三原順傑作選'80s』に収められており、殺人に擬装して自殺すべく努力する老婆の逸話、自殺コンサルタントをめぐるコメディなどが楽しめる。

 ドラマ化された『闇のパープル・アイ』『海の闇、月の影』『天(そら)は赤い河のほとり』で知られる篠原千絵も、80年代前半にはミステリ短篇を描いていた。本格ミステリ「3人目が消えた」「午前0時の逃亡者」、サスペンス「凍った夏の日」「目撃者にさようなら」、SFミステリ「クリスタル・ドール」「冬の花は鎮魂歌」などが『篠原千絵 The Best Selection』(小学館)で入手可能。後にヒットを連発する著者らしい佳作揃いだ。

すくらんぶる同盟.jpg  80年代のミステリ少女漫画を語るうえで、松本洋子の名前は絶対に外せない。74年に「ドアのむこうに」でデビューした松本は、90年代末までに多くのホラーを著したが、80年代にはミステリも精力的に手掛けていた。83年に『殺人よこんにちは』(原作=赤川次郎)、85年から86年に『ぬすまれた放課後』(原作=赤川次郎『死者の学園祭』)のコミカライズも担当している。オリジナルの代表作としては、85年に『なかよし』(講談社)に掲載された『ストロベリー探偵団』と、88年から92年まで同誌に連載された『すくらんぶる同盟』を挙げておきたい。探偵に憧れる孤児院の少女サニーを主役として、殺人事件の捜査とラブコメを絡めた前者は、クレイグ・ライス『スイート・ホーム殺人事件』を彷彿させるユーモアミステリ。私立探偵の父を持つ中学生・折原瀬名、幼馴染みの加賀正孝などが所属するミステリー同好会の奮闘を描く後者は、ミステリとホラーを織り交ぜた連作コメディの快作である。

 80年代中期のミステリ少女漫画では、森次矢尋の〈高校生探偵・北詰拓〉シリーズも忘れ難い。普段は鈍いにも拘わらず、犯罪捜査では冴える高校生・北詰拓が、刑事である兄・仁の反対を押し切り、次々に殺人犯を突き止める──という同シリーズは、85年から2000年まで『別冊花とゆめ』(白泉社)に掲載され、88年刊の『黒いスポットライト』から99年刊の『鍵となる者』まで14冊が上梓された。未完に終わった点は惜しまれるが、主人公の謎を設定し、直球の本格ミステリに挑んだ姿勢は評価されるべきだろう。



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