本格ミステリ漫画ゼミ

2015.05.25

本格ミステリ漫画ゼミ 【第8講】 福井健太 (1/2)

貸本誌から手塚や石森を経て80年代まで
時代を彩ったオリジナルのミステリ漫画たち

「オリジナル・ミステリコミックの勃興」




ロック冒険記・差し替え.jpg  前講まではミステリ小説のコミカライズ史を見てきたが、ここで時代を巻き戻し、オリジナルのミステリコミックに話を移したい。第1講でも述べたように、1956年創刊の『影』を契機として、50年代後半から60年代には"推理もの"貸本漫画誌が量産された。『鍵』『黒猫』『刑事』『ゴリラマガジン』『街』『摩天楼』『迷路』などが乱立し、楳図一雄(後の楳図かずお)〈少年探偵・岬一郎〉、江波譲二〈トップ屋ジョー〉、影丸譲也〈殺人課〉、さいとう・たかを〈台風五郎〉がヒットした時代──佐藤まさあきは桜井昌一の影響でハードボイルドに耽溺し、銃器に拘った作品群を手掛けながら『ボス』『ハードボイルドマガジン』を立ち上げた。つげ義春は若木書房の〈探偵漫画〉シリーズに『生きていた幽霊』『四つの犯罪』などを執筆した。もっとも当時の"推理もの"は怪奇スリラーやアクションが中心であり、本コラムでは前史と捉えるのが妥当だろう。

 別の角度から眺めてみよう。手塚治虫が49年に発表した『少年探偵ロック・ホーム』は、縞ネクタイと半ズボン姿の少年探偵ロックが(プラトン博士やその娘ロミーとともに)犯罪者に挑むストーリーだ。SF色が強いものの、推理と逆転劇を備えたプロットは王道を感じさせる。史上初とは言えないにせよ、本作をミステリ漫画史の道標とすることに問題はないだろう。キャラクターを複数作に出演させる"スターシステム"により、ロックは『ロック冒険記』で活躍した後、アンチヒーロー・間久部緑郎として『バンパイヤ』『アラバスター』などで存在感を示すことになる。手塚が生んだ少年探偵としては、54年から60年にかけて『ケン1探偵長』に登場した敷島健一も挙げられる。全国に26の支社を持つ"少年秘密探偵結社"の探偵長・健一と九官鳥のドングリが難事件に挑むSFミステリだ。

 もちろん"手塚ミステリ"はそれだけではない。『こけし探偵局』『スリル博士』などの初期作や『ショート・アラベスク』『サスピション』──あるいは『鉄腕アトム』『ブラック・ジャック』『三つ目がとおる』『七色いんこ』『ミッドナイト』にもミステリ趣向のエピソードは多く、その殆どが〈手塚治虫文庫全集〉(講談社)や手塚プロダクション配信の電子書籍で楽しめる。2000年刊の『二階堂黎人が選ぶ!手塚治虫ミステリー傑作集』(筑摩書房)には22篇、14年刊の『手塚治虫 ミステリーファイル』(小学館クリエイティブ)には13篇が収められたが、いずれも膨大な著作のごく一部を厳選したものだ。

ビリーパック.jpg  1950年代のミステリ漫画を代表する存在として、河島光広『ビリーパック』にも触れておこう。アメリカ人ウィリアム・パックと日本人・時子の息子ビリーは、差別を受けながらも実直に育っていた。憲兵に両親を殺されたビリーは叔父の家に引き取られ、アメリカで探偵学を修めた後、帰国して様々な悪の組織と闘う──という同作は54年から62年にかけて『少年画報』(少年画報社)に連載された。ハンチング帽とトレンチコートに身を包み、拳銃を片手に活躍するビリーの物語は、少年たちの熱狂的な支持を受けた。河島は31年愛知県生まれ。手塚も絶賛する才能の持ち主だったが、61年に結核で夭折。そのため『ビリーパック』の終盤はアシスタントの矢島利一が描いている。作者の継承というモチーフからも、本作が長崎尚志+浦沢直樹『ビリーバット』(小学館)の発想源である可能性は高そうだ。78年刊の復刻版以降、単行本は出ていないが、2001年刊の『少年画報大全』(少年画報社)、02年刊の『本格推理マガジン 少年探偵王』(光文社)、07年刊の『赤胴鈴之助・まぼろし探偵・ビリーパック「少年画報」誕生60周年記念復刻』(少年画報社)に一部が採られている。

 全盛期の『少年画報』には『ビリーパック』と並ぶヒット作が2つあった。武内つなよし『赤胴鈴之助』と桑田次郎(後の桑田二郎)『まぼろし探偵』である。『まぼろし探偵』(第3話までは『少年探偵王』)は57年から61年にかけて連載され、64年から65年に続篇が描かれた。警視庁警部の息子である少年新聞記者・富士進が帽子とマスクとマフラーで変装し、正体不明の"まぼろし探偵"となって二丁拳銃で悪漢を倒す──という明朗なヒーローもので、59年から60年にはラジオドラマ、テレビドラマ、三本の映画が制作されている。

 56年から66年まで『少年』(光文社)に掲載された横山光輝『鉄人28号』も"少年探偵もの"の傑作と言えるだろう。大日本帝国陸軍の遺した巨大ロボット・鉄人28号を手に入れた少年探偵・金田正太郎が、リモコンで鉄人を操って犯罪者やロボットを倒す──という設定はあまりにも有名だ。実写やアニメのイメージが強く、ロボットSFと思われがちだが、謎解きを重視したミステリの要素も強い。2005年から07年にかけて全24巻の〈原作完全版〉が上梓されている。



ミステリ、SF、ファンタジー|東京創元社
バックナンバー