本格ミステリ漫画ゼミ

2015.04.23

本格ミステリ漫画ゼミ 【第7講】 福井健太 (1/2)

ブラウン神父とアルセーヌ・ルパンの名を冠した、
翻訳ミステリの良質なコミカライズ
〈ミステリー・クラシックス〉シリーズ。

「百花繚乱の〈ミステリー・クラシックス〉」




lupin1.jpg  少年探偵団、金田一耕助、シャーロック・ホームズなどをはじめとして、ミステリコミックではシリーズキャラクターが大きな役割を担ってきた。漫画化されたミステリの多くは"お馴染みの名探偵"──頭脳の力で謎を解くヒーローの活躍譚に違いない。しかしアイデアやプロットを厳選するには、著者やキャラクターの制約を脱し、より柔軟に原作を選ぶべきでもある。2003年から09年にかけて『マガジンGREAT』『マガジン・イーノ』(講談社)に掲載された〈ミステリークラシックス〉(画=森元さとる)は、両者を融合させたクオリティの高いシリーズだ。単行本は05年から09年までに全8巻が上梓された。まずは収録作のリストを挙げよう。

1『アルセーヌ・ルパン編Ⅰ』
・赤い絹の肩掛け(原作=モーリス・ルブラン)
・バカラの勝負(原作=モーリス・ルブラン)
・テレーズとジェルメーヌ(原作=モーリス・ルブラン)
・七人のきこり(原作=ヘスキス・プリチャード)

2『ブラウン神父編Ⅰ』
・翼ある剣(原作=G・K・チェスタトン)
・秘密の庭(原作=G・K・チェスタトン)
・偽痣(原作=J・D・ベリスフォード)
・真珠のロープ(原作=H・ド・ヴィア・スタクプール)

3『ブラウン神父編Ⅱ』
・神の鉄槌(原作=G・K・チェスタトン)
・モーターボート(原作=ジャック・フットレル)
・みずうみ(原作=W・F・ハーヴェイ)
・ムーン・クレサントの奇跡(原作=G・K・チェスタトン)

4『アルセーヌ・ルパン編Ⅱ』
・太陽の戯れ(原作=モーリス・ルブラン)
・ライオンの微笑(原作=トマス・W・ハンシュー)
・十二枚の株券(原作=モーリス・ルブラン)
・ノトランプ(原作=ガストン・ルルー)

5『ブラウン神父編Ⅲ』
・天の矢(原作=G・K・チェスタトン)
・顎ひげの二つある男(原作=G・K・チェスタトン)
・リージェント・パークの殺人(原作=バロネス・オルツィ)
・ダートムア・テラスの悲劇(原作=バロネス・オルツィ)

6『アルセーヌ・ルパン編Ⅲ』
・白鳥の首のエディス(原作=モーリス・ルブラン)
・雪の上の足あと(原作=モーリス・ルブラン)
・ポンティング氏のアリバイ(原作=オースチン・フリーマン)
・オスカー・ブロズキー事件(原作=オースチン・フリーマン)

7『ブラウン神父編Ⅳ』
・大法律家の鏡(原作=G・K・チェスタトン)
・世の中で一番重い罪(原作=G・K・チェスタトン)
・目立たないのっぽ(原作=G・K・チェスタトン)
・第二の銃弾(原作=A・K・グリーン)
・ミス・ヒンチ(原作=H・S・ハリスン)

8『ブラウン神父編Ⅴ』
・ダーナウェイ家の呪い(原作=G・K・チェスタトン)
・《バーンズデール荘園》の悲劇(原作=バロネス・オルツィ)
・緑の人(原作=G・K・チェスタトン)
・ミス・エリオット事件(原作=バロネス・オルツィ)
・村の吸血鬼(原作=G・K・チェスタトン)

 様々なミステリ漫画がヒットし、掲載誌もその1つを柱にしていた──という当時の状況がなければ、かくも濃い企画は成立しなかったはずだ(後の講で触れる)。本篇の前後に"ミステリー案内人"ウッドモアー男爵(「森もっと」の意だろう)を登場させ、日下三蔵の解説を付した構成は、原作への強い敬意を感じさせる。ちなみに男爵は「赤い絹の肩掛け」の冒頭で「一八九一年英国で/探偵ホームズシリーズ(短編)の掲載以来/二〇世紀初頭の欧米に巻き起こったミステリー・ブーム」「以来多士済々の推理作家が多くの名作を残しました」「これらを皆さまにご紹介してゆくのが私の使命なのです」とシリーズの趣旨を語っている。

 各巻の題名からも解るように、ブラウン神父とアルセーヌ・ルパンがシリーズの顔役であり、前者は『ブラウン神父の童心』『ブラウン神父の秘密』『ブラウン神父の不信』『ブラウン神父の醜聞』『ブラウン神父の知恵』は含まれない)から採られた11篇、後者は『リュパンの告白』『バーネット探偵社』『八点鐘』を出典とした7篇で活躍する。その脇を固めるのが「リージェント・パークの殺人」「ダートムア・テラスの悲劇」「《バーンズデール荘園》の悲劇」「ミス・エリオット事件」『隅の老人の事件簿』所収)で描かれる"隅の老人"と「ポンティング氏のアリバイ」『ソーンダイク博士の事件簿Ⅱ』所収)「オスカー・ブロズキー事件」『世界短篇傑作集2』所収)のジョン・イヴリン・ソーンダイクという案配だ。



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