本格ミステリ漫画ゼミ

2015.02.25

本格ミステリ漫画ゼミ 【第5講】 福井健太 (1/2)

翻訳ミステリのコミカライズを中心とする叢書は、
主婦の友社が78年から79年にかけて発行した
〈TOMOコミックス 名作ミステリー〉があった。

「〈TOMOコミックス 名作ミステリー〉の概観」




lupin.jpg  漫画化されたミステリ小説は国内作品に限らない。第1講で軽く触れたように、1950年代には石森章太郎がコナン・ドイルやエドガー・アラン・ポオの短篇、60年代にはわたなべまさこがコーネル・ウールリッチ(=ウィリアム・アイリッシュ)やカトリーヌ・アルレーの長篇をコミカライズした。曙出版の〈世界文学漫画全集〉は69年に『モルグ街の殺人』原作=E・アラン・ポー/画=団しんじ)、70年に『怪盗ルパン』原作=モーリス・ルブラン/画=好美のぼる)を刊行し、72年には望月三起也が〈名探偵ホームズ〉シリーズ(実業之日本社)として『4人のサイン』『バスカビル家の犬』『まだらのひも』原作=コナン・ドイル)を手掛けている。翻訳ミステリの古典やロマンティック・サスペンスが漫画の原作に使われることは当時からあったのだ。

 翻訳ミステリのコミカライズを中心とする叢書は、国内のミステリを扱う〈コミックノベルス〉よりも先に作られていた。主婦の友社が78年から79年にかけて発行した〈TOMOコミックス 名作ミステリー〉がそれだ。まずは著作リストを挙げよう。

1『地獄の道化師』(原作=江戸川乱歩/画=関谷ひさし)
2『蜘蛛』(原作=ハンス・エーヴェルス/画=手塚プロ 井上大助)
3『カリガリ博士』(原作=カール・マイヤー/画=浅井まさのぶ)
4『地底旅行』(原作=ジュール・ヴェルヌ/翻案=加納一朗/画=手塚プロ)
5『黒猫』(原作=エドガー・アラン・ポー/画=かどい文雄)
6『自殺クラブ』(原作=R・L・スチーブンソン/画=石森プロ)
7『黄金仮面』(原作=江戸川乱歩/画=北竜一朗)
8『名探偵シンキングマシン 完全脱獄』(原作=ジャック・フットレル/画=桑田次郎)
9『ふたごの復讐』(原作=ジョンストン・マッカレー/画=叶バンチョウ)
10『悪魔のアイドル』(原作=フィリップ・バーン・ホーン/画=鳴神俊)
11『牡丹燈記』(原作=瞿佑/画=日野日出志)
12『怪異を積む船』(原作=P・デービス/画=いけうち誠一)
13『少年科学探偵 消えたプラチナ』(原作=小酒井不木/画=古城武司)
14『運命の階段』(原作=L・J・ビーストン/画=堀江卓)
15『赤い酋長の身代金』(原作=O・ヘンリー/構成=永島慎二/画=関口しゅん)
16『オモチャ屋殺人事件』(原作=E・クリスピン/画=小島利明)
17『マラコット深海』(原作=A・C・ドイル/画=桑田次郎)
18『メグレ警部 黄色い犬』(原作=G・シムノン/画=山本まさはる)
19『クイーンの事件簿 恐怖の家』(原作=エラリイ・クイーン/画=望月三起也)
20『吸血鬼カーミラ』(原作=J・S・レ・ファニュ/画=かどい文雄)
21『レスター・リースの事件簿 手は目より早い』(原作=E・S・ガードナー/画=水島健一朗)
22『白夢海流』(原作=W・H・ホジスン/画=石川球太)
23『黒衣の花嫁』(原作=コーネル・ウールリッチ/画=花村えい子)
24『オペラの怪人』(原作=ガストン・ルルー/画=手塚プロ 井上大助)
25『銀河大戦』(原作=E・ハミルトン/画=手塚プロ 七瀬カイ)
26『黄色い部屋』(原作=ガストン・ルルー/画=石森プロ 山田ゴロ)
27『地下鉄サム』(原作=ジョンストン・マッカレー/画=辻なおき)
28『幻の女』(原作=ウィリアム・アイリッシュ/画=わたなべまさこ)
29『美少女ドロテ』(原作=モーリス・ルブラン/画=森田拳次)
30『アッシャー家の崩壊』(原作=エドガー・アラン・ポー/画=矢代まさこ)

datsugoku.jpg  江戸川乱歩や小酒井不木の名も見られるが、このシリーズが海外のエンタテインメントを軸にしていることは明らかだろう。「日本推理作家協会理事 加納一朗」が各巻に紹介文と「解説 原作者と作品について」を寄せており、ミステリファンを意識していたことも窺える。それぞれの原作者を紹介すると長くなるが、周辺ジャンルのビッグネームを拾っておくと、ハンス・エーヴェルスは1871年生まれのドイツ幻想作家。『プラークの大学生』『アルラウネ』などの長篇と多くの短篇を著した。「蜘蛛」『怪奇小説傑作選5』『世界幻想文学大全 怪奇小説精華』などのアンソロジーに採られている。カール・マイヤーは"スリラーの原点"と称されるドイツ表現主義映画『カリガリ博士』の脚本で有名。瞿佑は14世紀から15世紀(明代)の文人。「牡丹灯記」『世界怪談名作集 下』に収録された。W・H・ホジスンは1877年生まれのイギリスの小説家。海洋冒険譚やSF風の怪奇小説で知られており、近年の訳書に『幽霊狩人カーナッキの事件簿』がある。

 叢書の概略を述べたところで、ミステリ色の強いタイトルを見ていこう。『完全脱獄』は"思考機械"ことオーガスタス・S・F・X・ヴァン・ドゥーゼン(漫画版ではバン・ドーゼン)を主役とする「完全脱獄」「余分な指」を収めた一冊。前者はヴァン・ドゥーゼンが刑務所を脱獄する「十三号独房の問題」『世界短編傑作集1』所収)、後者は自分の指を撃った女の真意を見抜く「余分の指」『思考機械の事件簿I』所収)の漫画版だ。本書と『マラコット深海』は2005年に『名探偵シンキング・マシン 完全脱獄+マラコット深海』(マンガショップ)として復刊されている。



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