本格ミステリ漫画ゼミ

2015.01.26

本格ミステリ漫画ゼミ 【第4講】 福井健太 (1/2)

20世紀末のホラーブームが去った後、ホラー漫画誌が
ミステリ漫画誌に転向し、ミステリのコミカライズが急増した。

「ミステリ漫画誌の推移」




byakuren.jpg   80年代半ばの〈コミックノベルス〉が成功を収めていれば、ミステリのコミカライズは増えたに違いないが、現実はそうはならなかった。80年代後半から90年代前半にかけて、またしても空白期が訪れたのである。ホーム社は93年に〈ホームミステリーコミックス〉を発行したが、これは『神話の果て』(原作=船戸与一/画=鬼窪浩久)、『火神(アグニ)を盗め』(原作=山田正紀/画=左京景)、『幻の翼』(原作=逢坂剛/画=石綿周一)、『深夜ふたたび』(原作=志水辰夫/画=鬼窪浩久)、『ベルリン飛行指令』(原作=佐々木譲/画=望月三起也)という冒険小説寄りのラインナップだった。花村えい子が88年から91年にかけて『ミステリーJour』(白泉社)に描いた連城三紀彦の短篇群(「白蓮の寺」「能師の妻」「花緋文字」「宵待草夜情」「戻り川心中」)のような例はあるが、新本格ムーヴメントの渦中にも拘わらず、本格ミステリのコミック化は極めて少なかったのだ。

 理由はいくつか考えられるが、ホラー漫画が人気を得たことも遠因の一つだろう。『ハロウィン』(朝日ソノラマ)、『サスペリア』(秋田書店)、『ホラーM』(ぶんか社)をはじめとする専門誌は"広義のミステリ"好きの受け皿だった。しかし長期的に考えると、それらはミステリ漫画に新たなステージをもたらす存在でもあった。世紀末を過ぎてホラーブームが収まった頃、ミステリ漫画誌に転じるケースが相次いだのである。

noritsuki.jpg  具体的に見ていこう。『Lady's comic aya』の増刊『Hiミステリーgold』を母体として、96年に創刊された月刊誌『Hiミステリー』(宙出版+主婦と生活社/97年以降は宙出版)では、高橋克彦、夏樹静子、小池真理子、皆川博子などの小説が漫画化されていた。2005年に休刊したものの、ミステリを積極的にコミカライズした雑誌の先駆けと言えるだろう。

 1987年創刊の月刊誌『サスペリア』は、垣野内成美『吸血姫美夕』や高橋美由紀『悪魔の黙示録』などを生んだホラー漫画誌だが、2001年に『サスペリアミステリー』に改名した後、国産ミステリのコミカライズを大量に掲載している。06年にミステリ漫画専門の隔月誌にシフトし、10年に月刊誌に戻ったものの、12年に休刊。横溝正史の金田一耕助を筆頭として、泡坂妻夫の亜愛一郎や倉知淳の猫丸先輩など、同誌に登場したシリーズ探偵はすこぶる多い。探偵ごとに纏められた〈サスペリアミステリーコミックス〉の"本格色の強いもの"には『二階堂蘭子の事件簿 薔薇の家の殺人』(原作=二階堂黎人/画=あさみさとる)、『メルカトル鮎の事件簿 化粧した男の冒険』(原作=麻耶雄嵩/画=風祭壮太)、『森江春策の事件簿 赤死病の館の殺人』(原作=芦辺拓/画=宗美智子)、『法月綸太郎の事件簿 都市伝説パズル』(原作=法月綸太郎/画=風祭壮太)、『タック&タカチの事件簿 16秒間の密室』(原作=西澤保彦/画=大橋薫)などがある。

 それとよく似た経緯を辿ったのが『ミステリーDX』(角川書店)だ。『月刊Asuka』の増刊『ミステリーDX』は1992年にホラー漫画誌として月刊化され、2002年にミステリ漫画誌になり、03年に歴史を終えた。この雑誌からは〈金田一耕助の事件ファイル〉(原作=横溝正史/画=JET)の『獄門島』『本陣殺人事件』『睡れる花嫁』『八つ墓村』『悪魔の手毬唄』『犬神家の一族』『悪魔が来りて笛を吹く』『悪魔の寵児』『悪霊島』〈臨床犯罪学者・火村英生のフィールドノート〉(原作=有栖川有栖/画=麻々原絵里依)の『ロシア紅茶の謎』『ブラジル蝶の謎』『朱色の研究』などが生まれている。『覆面作家は二人いる』(原作=北村薫/画=美濃みずほ)が連載されたのも同誌だった。

 ちなみに02年には隔月誌『ミステリービィストリート』(幻冬舎)も創刊されたが、これは翌年に休刊となった。「ノアの最後の航海」「キッド・ピストルズの慢心」を収めた『キッド・ピストルズ vol.1 パンク=マザーグースの事件簿』(原作=山口雅也/画=霜月かいり)のような成果もあり、短命ぶりが惜しまれるが、この頃がミステリ漫画誌の過渡期だったことは確かだろう。



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