本格ミステリ漫画ゼミ

2014.12.25

本格ミステリ漫画ゼミ 【第3講】 福井健太 (1/2)

taraobannai.jpg  横溝正史の諸作が漫画化されたことは、ミステリ小説のコミカライズの普及と定着をもたらした。しかし金田一耕助に匹敵するキャラクターの不在ゆえか、タイトルが急増したわけでもない。その数少ない作例の一つが『多羅尾伴内』である。1946年から60年にかけて11本の映画が作られた〈多羅尾伴内〉シリーズ(原作・脚本=比佐芳武)は、変装に長けた私立探偵・藤村大造(=多羅尾伴内)を片岡千恵蔵が演じたヒット作。67年にはテレビドラマ版「七つの顔の男」も制作された(主演は高城丈二)。石森章太郎(後の石ノ森章太郎)が77年から78年に『週刊少年マガジン』に連載した『多羅尾伴内』(原作=小池一夫)は、その世界観を下敷きにしたストーリーだ。加齢と衰えを自覚した多羅尾は、後継者と見込んだ青年・紙袋順平に技術を伝授し、紙袋は二代目として活躍を続けていく。高名なシリーズを大胆にアレンジした、当時のミステリ漫画を代表しうる傑作にほかならない。

soukyokusen.jpg  ミステリ小説のコミカライズ史において、重要なポジションを占める叢書の一つ──講談社の〈コミックノベルス〉が刊行されたのは84年から85年のことだ。版元の壁を越えて人気小説を漫画化した同シリーズは、全30巻(27タイトル)で構成されている。まずはリストを挙げておこう。『八つ墓村』は第2講で触れた作品の再刊。通し番号と刊行順は同じとは限らず、たとえば『宇宙戦艦富嶽殺人事件』は29冊目の配本。『謎の航空写真』は最後に上梓された。

1『不可蝕領域』(原作=半村良/画=田辺節雄)
2『殺しの双曲線』(原作=西村京太郎/画=山本まさはる)
3『黒の事件簿』(原作=森村誠一/画=旭丘光志)
4『アルキメデスは手を汚さない』(原作=小峰元/画=望月あきら)
5『八つ墓村 前編』(原作=横溝正史/画=影丸譲也)
6『八つ墓村 後編』(原作=横溝正史/画=影丸譲也)
7『にぎやかな悪霊たち』(原作=都筑道夫/画=関口シュン)
8『陰獣・人でなしの恋』(原作=江戸川乱歩/画=古賀新一)
9『狼男だよ vol.1』(原作=平井和正/画=ケン月影)
10『狼男だよ vol.2』(原作=平井和正/画=ケン月影)
11『狼男だよ vol.3』(原作=平井和正/画=ケン月影)
12『崑崙遊撃隊』(原作=山田正紀/画=田辺節雄)
13『大麻の罠』(原作=大藪春彦/画=渡辺祥)
14『蝶たちは今…』(原作=日下圭介/画=水島健一朗)
15『犬の首』(原作=草野唯雄/画=峰岸とおる)
16『一日だけの殺し屋』(原作=赤川次郎/画=望月あきら)
17『昏き日輪』(原作=西村寿行/画=田辺節雄)
18『密閉山脈・日本アルプス殺人事件』(原作=森村誠一/画=旭丘光志)
19『宇宙戦艦富嶽殺人事件』(原作=辻真先/画=広岡球志)
20『刺青殺人事件』(原作=高木彬光/画=中城健)
21『ビッグ・ラン』(原作=田中光二/画=佐々木久)
22『死体置場は空の下』(原作=結城昌治/画=山本まさはる)
23『殺人の棋譜』(原作=斉藤栄/画=藤堂りょう)
24『コンピューター殺人事件』(原作=藤村正太/画=江波じょうじ)
25『皇帝のいない八月』(原作=小林久三/画=林久生)
26『青い宇宙の冒険』(原作=小松左京/画=愛川哲也)
27『富豪刑事』(原作=筒井康隆/画=関口シュン)
28『多国籍企業殺人事件』(原作=和久峻三/画=城野晃)
29『謎の航空写真』(原作=福本和也/画=安良城考)
30『おれたちはブルースしか歌わない』(原作=西村京太郎/画=峰岸とおる)

 ラインナップにはSFやハードボイルドも含まれるが、ここでは本格ミステリ色の強い作品を紹介したい。まずは『殺しの双曲線』からだ。西村京太郎が71年に発表した同作は「この本を読まれる方へ」と題した宣言文で幕を開ける。著者はそこで「この推理小説のメイントリックは、双生児であることを利用したものです」と明言し、2つの物語──6人の男女が集まった雪の山荘の連続殺人、双生児による連続強盗(実行犯を特定できない)を交互に綴っていく。ストーリーを18の"段階"に分けた原作のスタイルを踏襲することで、巧妙なプロットはコミック版にも活かされている。作画担当の山本まさはるは41年大阪府生まれ。58年に「遺恨一太刀」でデビューし、日の丸文庫やひばり書房で活動した。代表作に〈ガン太郎日記〉〈探偵屋NO.1〉などのシリーズがある。




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