本格ミステリ漫画ゼミ

2014.11.25

本格ミステリ漫画ゼミ 【第2講】 福井健太 (1/2)

yatsuhaka.jpg  1950年代の貸本漫画や〈少年探偵団〉シリーズのコミカライズを通じて、ミステリ漫画は一つのジャンルを形成したが、その多くはヒーロー譚やスリラーだった。謎解きを主体とする本格ミステリ漫画が注目を浴びるのは、一連の流れが沈静化した60年代後半のことだ。影丸譲也(後の影丸穣也)が68年から69年にかけて 『週刊少年マガジン』に連載した『八つ墓村』(原作=横溝正史)が大人気を博したのである。身元不明の青年・辰弥を主人公に据え、忌まわしい過去を持つ村の連続殺人と財宝探しというキャッチーな設定を活かすことで、同作には冒険譚の魅力も備わっていた。漫画化に適した原作を"発掘"し、長所を引き出した成功例と言えるだろう。

 角川書店の編集局長だった角川春樹はそのヒットに着目し、横溝の『八つ墓村』を71年に文庫化するが、これは角川文庫版・横溝作品の第一号だった。探偵小説が勢いを失った時代に〈金田一耕助〉シリーズが文庫化されたことは、後世に大きな影響を及ぼした。やがて映画界に進出した角川書店は、76年の"横溝フェア"に合わせて『犬神家の一族』を公開し、名探偵・金田一耕助の名を世に知らしめた。『悪魔の手毬唄』『獄門島』『女王蜂』『悪魔が来りて笛を吹く』『病院坂の首縊りの家』などの映画やテレビドラマも作られたが、この横溝ブームを体験したミステリ作家や読者は多いはずだ。影丸版『八つ墓村』がなければ、本格ミステリの歴史は違っていただろう。ちなみに影丸が79年に発表した『悪魔が来りて笛を吹く』は映画版を下敷きにしており、映像をそのまま再現した場面も多い。06年には「霧の別荘の惨劇」『サスペリアミステリー』に掲載している。

temariuta.jpg  横溝作品をコミカライズした漫画家は十指に余るが、つのだじろうの諸作はとりわけ特徴的だ。『空手バカ一代』『うしろの百太郎』『恐怖新聞』で知られるつのだは、76年に『八つ墓村』『犬神家の一族』『悪魔の手毬唄』(すべて富士見書房)を発表する際、シチュエーションを大幅に改変している。『犬神家の一族』に足を突き出した"あの死体"は登場せず、さらに『悪魔の手毬唄』では作詞者不詳のヒット曲に沿って事件が起きる。この著者らしいオカルト色も含まれており、基本的に別物と見るほうが妥当だろう。

 漫画化された横溝作品は〈金田一耕助〉シリーズに限らない。〈人形佐七捕物帳〉シリーズの漫画版は、横山光輝「稚児地蔵」『プレイボーイCOMICSクレイジー』68年No.1)をはじめとして、02年から06年に『サスペリアミステリー』で暁綾子、小川和美、上坂ナオ、佐藤千江子、たまいまきこ、鳥羽笙子、夏見咲帆、ひたか良が競作したものや、田中つかさが06年から08年に『コミック乱ツインズ』に連載したものなどがある。高階良子は72年に『真珠色の仮面』(原作=『仮面劇場』)、73年から74年に『血まみれ観音』(原作=『夜光虫』)を『なかよし』に連載した。横山まさみち『どくろ検校』(原作=『髑髏検校』『月刊別冊少年マガジン』70年1月号)、真崎守「炎の軌跡」(原作=「鬼火」『劇画ゲンダイ』73年6月3日号)もノンシリーズものだ。




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