2021年4月から、創元推理文庫で刊行開始された〈日本ハードボイルド全集〉全7巻。
ついに今月、最終巻となる第7巻『傑作集』を読者の皆様にお届けします。
たいへんお待たせいたしました。
日本におけるハードボイルドの歴史――特にその草創期において重要な役割を果たした6人の作家をひとり1冊にまとめ、最終巻となる第7巻は1作家1編を選んだ傑作集とする――本全集は、そんなコンセプトからなる文庫内叢書です。収録される作家および作品選定を務めるのは北上次郎、日下三蔵、杉江松恋の書評家三氏。お三方のうちひとりが各巻の責任編集となり、残るふたりがそれをサポートするかたちでの、鉄壁の布陣での刊行です。
9月19日に発売された第7回配本の『傑作集』は、既刊6冊には収められなかった著者の作品を一作家一編で、編者三名が合議により厳選したアンソロジー。1949年に発表された大坪砂男の探偵作家クラブ賞受賞作「私刑(リンチ)」を巻頭に、1980年発表の小鷹信光「春は殺人者」(私立探偵工藤俊作もの。今回が書籍初収録となります)までの16編を、発表順に収録しています。

【収録作品 ※( )内は初出年】
大坪砂男「私刑(リンチ)」(1949)
山下諭一「おれだけのサヨナラ」(1963)
多岐川恭「あたりや」(1965)
石原慎太郎「待伏せ」(1967)
稲見一良「凍土のなかから」(1968)
三好 徹「天使の罠」(1969)
藤原審爾「新宿その血の渇き」(1969)
三浦 浩「アイシス讃歌」(1970)*書籍初収録
高城 高「骨の聖母」(1971)*書籍初収録、付=著者解題
笹沢左保「無縁仏に明日をみた」(1972)
小泉喜美子「暗いクラブで逢おう」(1974)
阿佐田哲也「東一局五十二本場」(1976)
半村 良「裏口の客」(1977)
片岡義男「時には星の下で眠る」(1978)
谷 恒生「彼岸花狩り」(1979)
小鷹信光「春は殺人者」(1980)*書籍初収録
山下諭一「おれだけのサヨナラ」(1963)
多岐川恭「あたりや」(1965)
石原慎太郎「待伏せ」(1967)
稲見一良「凍土のなかから」(1968)
三好 徹「天使の罠」(1969)
藤原審爾「新宿その血の渇き」(1969)
三浦 浩「アイシス讃歌」(1970)*書籍初収録
高城 高「骨の聖母」(1971)*書籍初収録、付=著者解題
笹沢左保「無縁仏に明日をみた」(1972)
小泉喜美子「暗いクラブで逢おう」(1974)
阿佐田哲也「東一局五十二本場」(1976)
半村 良「裏口の客」(1977)
片岡義男「時には星の下で眠る」(1978)
谷 恒生「彼岸花狩り」(1979)
小鷹信光「春は殺人者」(1980)*書籍初収録
この多士済々な顔ぶれからも、〈ハードボイルド〉というジャンルを21世紀に再定義するにあたり、編者が広汎な範囲から作家・作品を選定したうえで、現在の作品につながるエッセンスを含んだ珠玉の短編を採ったことがおわかりいただけるかと思います。わが国で花開いた〈ハードボイルド小説〉の豊かな実例をご賞味ください。
巻末には編者三名の書き下ろしによる、合計50ページ以上になる解説「日本ハードボイルド史」を収録しました。第二次世界大戦後から2023年の現在までを三区分して、日下三蔵氏が「〔黎明期〕」、北上次郎氏が「〔成長期〕」、そして杉江松恋氏が「〔発展期〕」と、時期ごとに分担した解説を読んでいただければ、本邦におけるハードボイルドの受容と発展の流れのおおよそを理解していただけるはずです。
そしてこのうち「日本ハードボイルド史〔成長期・一九八〇~一九九〇年代〕」は、2023年1月に逝去された北上次郎氏の、おそらくは最後の文庫解説になるであろう文章です。本全集の完結を見届けていただけなかったのがかえすがえすも残念ですが、読者の皆様にはぜひ、本書をお手に取って北上節の名調子をご堪能いただければと願っております。
* * *
〈日本ハードボイルド全集〉全7巻◎創元推理文庫
北上次郎・日下三蔵・杉江松恋=編
1 生島治郎『死者だけが血を流す/淋しがりやのキング』
収録作品=『死者だけが血を流す』「チャイナタウン・ブルース」「淋しがりやのキング」「甘い汁」「血が足りない」「夜も昼も」「浪漫渡世」
巻末エッセイ=大沢在昌/解説=北上次郎
2 大藪春彦『野獣死すべし/無法街の死』
収録作品=「野獣死すべし」『無法街の死』「狙われた女」「国道一号線」「廃銃」「乳房に拳銃」「白い夏」「殺してやる」「暗い星の下で」
巻末エッセイ=馳星周/解説=杉江松恋
3 河野典生『他人の城/憎悪のかたち』
収録作品=『他人の城』「憎悪のかたち」「溺死クラブ」「殺しに行く」「ガラスの街」「腐ったオリーブ」
巻末エッセイ=太田忠司/解説=池上冬樹
4 仁木悦子『冷えきった街/緋の記憶』
収録作品=『冷えきった街』「色彩の夏」「しめっぽい季節」「美しの五月」「緋の記憶」「数列と人魚」
巻末エッセイ=若竹七海/解説=新保博久
5 結城昌治『幻の殺意/夜が暗いように』
収録作品=『幻の殺意』「霧が流れた」「風が過ぎた」「夜が暗いように」「死んだ依頼人」「遠慮した身代金」「風の嗚咽」「きたない仕事」「すべてを賭けて」「バラの耳飾り」
巻末エッセイ=志水辰夫/解説=霜月蒼
6 都筑道夫『酔いどれ探偵/二日酔い広場』
収録作品=『酔いどれ探偵』全編/『二日酔い広場』全編
巻末エッセイ=香納諒一/解説=日下三蔵
7 アンソロジー『傑作集』
収録作家・作品/解説=
大坪砂男「私刑(リンチ)」山下諭一「おれだけのサヨナラ」
多岐川恭「あたりや」
石原慎太郎「待伏せ」
稲見一良「凍土のなかから」
三好 徹「天使の罠」
藤原審爾「新宿その血の渇き」
三浦 浩「アイシス讃歌」*書籍初収録
高城 高「骨の聖母」*書籍初収録、付=著者解題
笹沢左保「無縁仏に明日をみた」
小泉喜美子「暗いクラブで逢おう」
阿佐田哲也「東一局五十二本場」
半村 良「裏口の客」
片岡義男「時には星の下で眠る」
谷 恒生「彼岸花狩り」
小鷹信光「春は殺人者」*書籍初収録
*
日下三蔵「日本ハードボイルド史〔黎明期〕」
北上次郎「日本ハードボイルド史〔成長期〕」
杉江松恋「日本ハードボイルド史〔発展期〕」
日下三蔵「《日本ハードボイルド全集》編集を終えて」
なお、『傑作集』に収録した16名のうち、山下諭一先生、三好徹先生の著作権継承者とは連絡を取ることができず、このお二方の短編に関しては文化庁の裁定制度を利用して収録しました。著作権継承者ご本人、あるいはその所在をご存じのかたは、東京創元社のお問い合わせフォームまでご連絡いただけるとさいわいです。