作品の世界を「本」という形にして表現する職業、装幀家。
装画などを、普段どのように決めているのでしょうか。
印象に残った装幀を数点取り上げ、装幀家の方々にそこに秘めた想いや秘密を伺うリレー連載です。

■アルビレオ
西村真紀子(神戸出身)と草苅睦子(山形出身)。2008年、鈴木成一デザイン室を経て設立。手掛けた作品に、辻堂ゆめ『トリカゴ』(東京創元社)や本誌〈紙魚の手帖〉などがある。
http://www.albireo.co.jp/

西村 『紙魚の手帖』のデザインを担当させて頂いているご縁で第一回に登場できて光栄です。装幀における写真とイラストレーションについて、雑感を交えつつ話したいと思います。
草苅 装幀をイラストレーションにするか写真にするか、はたまた文字のみにするかの選択は、原稿を読んでいくうちに自分の中で自然と決まっていることが多いです。西村さんも?
西村 同じです。編集者ともまずどちらにするか、という相談になりますが、意見が合うことの方が多くて、最初から同じ方向を向いていると思えて嬉しい。
草苅 写真とイラストが読者に与える印象の違いを、はっきり言語化することは難しいけれど……。
西村 写真とイラストレーションの境界もどんどん曖昧(あいまい)になってきているしね。一概にどちらと言えない場合も。
草苅 『雌犬』のドライなのに濃密な世界と主人公の絶望も内包しているような犬は、POOLさんのイラストレーションでしか表現できなかったと思います。

雌犬
『雌犬』ピラール・キンタナ著 村岡直子訳
(国書刊行会/2022年)
装画:POOL 四六判

西村 叙情を排した装画が文体と合っていると思いました。
草苅 少し前から韓国文学の出版が増えていて、アルビレオでも色々なジャンルを手掛けていますが、『ユ・ウォン』のイラストレーションは〝淡いエモさ〞が際立っていて印象に残っています。

ユ・ウォン
『ユ・ウォン』ペク・オニュ著 吉原育子訳
(祥伝社/2022年)
装画:あおのこ 四六判

西村 火災事故でただ一人生き残った女子高生が主人公。あおのこさんの描く女の子が主人公のイメージにぴったりで。編集者も訳者も初見で「ユ・ウォンだ!」と。再現できるか心配なほど淡い色だったけれど、濃くしてしまったら儚(はかな)さが壊れてしまう、と我慢。結果このままで良かった。
草苅 「エモい」を装幀のキーワードとして求められることも沢山ありますが、「エモ」の種類も無限だなぁと。
西村 本によっては海外の写真家やアーティストの作品を使用することもありますが『むずかしい女性が変えてきた』の場合は構図やシチュエーションを造り込んでいてイラストレーションのような写真だね。

むずかしい女性が変えてきた――あたらしいフェミニズム史
『むずかしい女性が変えてきた あたらしいフェミニズム史』
ヘレン・ルイス著 田中恵理香訳
(みすず書房/2022年)
写真:Brooke DiDonato 四六判

草苅 アメリカのビジュアルアーティストのものです。棘(とげ)がありつつ上品なユーモアを感じる作品だよね。品行方正なフェミニズム史ではなく、革新的な内容だったので写真もインパクトがあるものを選びました。ただ、自分の中のみすず書房らしさからは逸脱しないように気をつけて。
西村 上品さは大切にしたいです。装幀にはおおまかな正解があるように感じていますが、何よりまず「読者としての自分」に嫌われないように。
草苅 そうそう。作品と読者の間を邪魔しないように、ね。



この記事は〈紙魚の手帖〉vol.05(2022年6月号)に掲載された記事を転載したものです。

紙魚の手帖Vol.05
ほか
東京創元社
2022-06-13