D・M・ディヴァイン/中村有希訳『すり替えられた誘拐』Death Is My Bridegroom, 1969)が5月31日に刊行されました。

2007年の『悪魔はすぐそこに』刊行以来、創元推理文庫で足かけ十余年にわたり翻訳してきたディヴァイン作品も、ついに最後の一冊となりました。これで、著者が残した長編13作すべてが日本語で読めることになります。今回の作品は訳題どおり、ディヴァインが〈誘拐〉ものに挑んだ一冊です。

【内容紹介】
問題はすべて親の金で解決、交際相手は大学の講師――そんな素行不良の学生バーバラを誘拐する計画があるという怪しげな噂が、大学当局に飛びこんでくる。そして数日後、学生たちが主催する集会の最中に、彼女は本当に拉致された。ところが、この事件は思いもよらぬ展開を迎え、ついには殺人へと発展する! 謎解き職人作家ディヴァインが誘拐テーマに挑んだ、最後の未訳長編。

ディヴァイン作品を何作か読んでいると、舞台、登場人物、展開などに共通するものがあることに気づかされます。本作を読むと、例えば大学が舞台なこと、主要登場人物がその教職員および学生であること、素人探偵が自ら捜査に乗り出すきっかけが、近親が容疑者になったためであること……といった点に、そういえば、あれもそうだったな、と思い至るタイトルがあるのではないでしょうか。

ところが、そんな「いかにもディヴァイン」な要素がふんだんに含まれている一方で、これは「ディヴァインらしからぬ」作品だという印象を読後にいだくのが本書『すり替えられた誘拐』なのです。あえて言うなら、とびきりの異色作。もちろん、ミステリとして手抜かりのないできなのは言うまでもありません。

そんな本書の解説者は作家の阿津川辰海先生。『運命の証人』刊行時にはご自身の読書日記連載で(その時点での)全邦訳作品レビュー(2021年6月更新の「第16回 特別編4 「普段使い」のミステリが好き ~ディヴァイン邦訳作品全レビュー~」)をされたほどのディヴァイン愛好家で、今回の依頼をふたつ返事でお引き受けいただけました。全作品を読みこまれた読み巧者にして実作者ならではの大胆な推論が炸裂する、愛にあふれた解説を、どうぞ本編とあわせてお楽しみください。



運命の証人 (創元推理文庫 M テ)
D・M・ディヴァイン
東京創元社
2021-05-31