『幾千年の声を聞く』(中央公論新社 一七〇〇円+税)は、二〇一六年に十六歳の若さで小説すばる新人賞を受賞し、受賞作『星に願いを、そして手を。』で鮮烈なデビューを飾った青羽悠(あおば・ゆう)の初のファンタジイだ。

 物語は一本の[木]を中心に語られるのだが、この木が尋常ではない。ある日、天より光がこの地に落ち、巨大な窪(くぼ)みを作った。そしてその窪みの中央に一本の巨木――後世にはその樹上に街が作られるほどの巨大な木が出現する。人は天から生まれ、天へと還(かえ)る。[木]は天と人を繫ぐ存在であり、人は[木]の元で生き、[木]によって天へと運ばれる。人々は木を聖なるものとして崇め、科学技術の発展とともにその存在は様々な解釈を纏(まと)う。流行病に苦しむ村で、ひとりの少女が辿り着く信仰と救済を描いた「宿命」に始まり、衰退期へと入った未来社会を描く「希望」まで。一本の聖なる大樹とともに繁栄し、そして滅びへと向かう人間の文明が五つの短篇による連作で綴(つづ)られる。それぞれのエピソードが独立した短篇であり、思索の多くが読者に委ねられているため、物語としては些(いささ)か消化不良気味ではある。高次への憧憬や、滅びへの諦観(ていかん)を端正で瑞々しく描く筆致は、光瀬龍(みつせ・りゅう)『百億の昼と千億の夜』を想起させる。

 ナオミ・ノヴィク『闇の覚醒(死のエデュケーションLesson 2)』(井上里訳 静山社 二三〇〇円+税)は、時空の間に浮かぶ巨大な歯車状の全寮制魔法学校でのサバイバルを描いた《死のエデュケーション》の第二巻。

 エルたちは最終学年にあがり、生死を賭けた卒業試験まで残り一年。訓練にあけくれるエルたちの間に仲間意識が芽生えはじめ、前代未聞の卒業計画が持ち上がる。外の世界ではニューヨークや上海といった魔法自治領間の対立が激しさを増し、その影響は魔法学校にも及ぶ。死の魔法を操るエルは、意図せず、そのパワーゲームの中心に身を置くこととなる。現実世界のパワーバランスが魔法世界に波及する展開は《テメレア戦記》同様だが、学校の外にあるのが歴史ではなく同時代の現実であるだけに、対立の構図が生々しい。

 起きる事件もあいかわらず容赦なく、意表を突く展開の連続。教師のいないこの学校は、学校の意思によって運営されているはずなのだが、いったい学校は何を狙っているのか、という根源的な問題にぶち当たりながら、物語は怒濤(どとう)の卒業試験からクリフハンガーな結末で次巻へと続く。最終章のスペクタクルな激闘展開は、肩に力が入りまくるので要注意。

 ところで、本シリーズ開幕時の本欄で《テメレア戦記》の続きが読みたいと書いたが、なんと静山社から文庫での再刊が始まり、昨年末までに既刊六冊分が全て刊行された。いよいよ未訳分の開始を待つのみとなった。


■三村美衣(みむら・みい)
書評家。1962年生まれ。文庫解説や書評を多数執筆。共著書に『ライトノベル☆めった斬り!』が、共編著に『大人だって読みたい! 少女小説ガイド』がある。