大島清昭(おおしま・きよあき)『地羊鬼(ちようき)の孤独』(光文社 一八〇〇円+税)は、第十七回ミステリーズ!新人賞受賞作を含む連作集『影踏亭(かげふみてい)の怪談』、初の長編『赤虫村(あかむしむら)の怪談』(ともに東京創元社)で、新たなホラーミステリの書き手として注目を集める、幽霊・妖怪研究家による三作目。

 タイトルにある〝地羊鬼〞とは、人間の内臓を木製や土製のものに変えてしまう中国の妖怪で、これを模倣したと思(おぼ)しき猟奇殺人事件が発生する。小学校の校庭の中央に置かれた白木の棺には〝地羊鬼〞〝弐(に) 〞と赤い文字が記されており、なかには心臓を木製の模型と入れ替えられた女性の全裸死体が収められていた。新米刑事の八木沢(やぎさわ)は、オカルトや宗教絡みの事件を手掛けることの多い女性警部補の林原(はやしばら)とコンビを組まされ、捜査を開始。林原と親しいオカルト・妖怪研究家の船井(ふない)にも協力を仰ぐが、第二、第三の事件が……。

 怪談話や恐怖体験がささやかれる犯行現場、接点のない被害者たち、十年前に起こった連続児童誘拐殺害事件、地羊鬼事件につながる三件の密室変死事件など盛りだくさんな内容で、広げた風呂敷をたたみ切れるのかと一瞬不安を覚えたが、杞憂(きゆう)であった。ホラーと本格ミステリ双方の読みどころをしっかり備えており、装置として割り切った怪異の使い方のセンスや、常識や倫理が欠落した真犯人の異常性などにも目を引かれた。

 最後はちょっと変化球的な作品のご紹介を。

 道尾秀介(みちお・しゅうすけ)『DETECTIVE X CASE FILE #1 御仏(みほとけ)の殺人』(SCRAP出版 三九〇〇円+税)は、読むだけでなく自身で手掛かりを探して進めていく本格犯罪捜査ゲーム(ISBNコードもついた、書店でお求めいただける商品なので、書籍扱いということでご理解を)。

 フリーライターの立花未知留(たちばな・みちる)から〝あなた〞に、捜査資料と一通の手紙が届く。かつて週刊誌に未解決事件としてルポを掲載したこともある、二〇一〇年一月に起きた密教寺院の住職殺害事件。行き詰まってしまったこの捜査を、資料とともに〝あなた〞に託したいというのだ。手紙の指示に従って、添えられた名刺を確認してみると……。

 まず、作り込まれた豊富な捜査資料に目を奪われる。現場写真、指紋、新聞記事、寺院マップ、検視・実況見分・供述等の各調書など、ついつい時間を忘れて見入ってしまう。捜査をきびきび進められない方でも愉しめるための配慮も抜かりなく、こうしたゲームに接したことのなかった筆者でも適度に脳みそに汗をかきながら、最後まで完走することができ、想像以上に愉しむことができた。ぜひFILE #2の発売も実現していただきたい。

 近年は、画像を使ったサプライズが印象的な『いけない』『いけないⅡ』(ともに文藝春秋)、音と物語を融合させる〈きこえる〉シリーズの雑誌掲載など、体験型の作品で小説の面白さをより拡げようと試みている道尾秀介のこれからに、ますます期待が募る。


■宇田川拓也(うだがわ・たくや)
書店員。1975年千葉県生まれ。ときわ書房本店勤務。文芸書、文庫、ノベルス担当。本の雑誌「ミステリー春夏冬中」ほか、書評や文庫解説を執筆。

紙魚の手帖Vol.09
ほか
東京創元社
2023-02-13