長編も二作。書き下ろし三ヶ月連続刊行の掉尾(ちょうび)を飾る山口優(やまぐち・ゆう)『星霊(せいれい)の艦隊3』(ハヤカワ文庫JA 一一二〇円+税)は、人類がテクノロジーによって事実上の不死を実現した遠未来。五次元ブラックホールを利用した仮想空間を用いて莫大(ばくだい)な演算能力を有した人工知能の一部が暴走し、人類と敵対。AIを単なる道具とみなすか、それとも人類と同等の存在と認めるかの対立が起き、共存を目指す〈アメノヤマト帝律圏〉は、AI国家〈アルヴヘイム党律圏〉と仮初(かりそめ)の連合を組み、強大な力を持つ人類至上主義の〈人類連合圏〉と対峙(たいじ)する。知性をネットワークとして捉え、人間を「凝集(ぎょうしゅう)型知性」、AIを「多様性知性」であると定義し、その協同と葛藤(かっとう)をミリタリー色の強い壮大なスペースオペラとして描き出す。いわゆる〈二次元〉風のキャラクターの激しい情動が、ハードなアイディアてんこ盛りの物語を華やかに彩っている。三巻でひとまず一区切りはついたものの、まだまだ続くだろう物語に期待。

 アーカディ・マーティーン『平和という名の廃墟(上・下)』(内田昌之訳 ハヤカワ文庫SF 各一六〇〇円+税)は、『帝国という名の記憶』の続編で、二作連続でヒューゴー賞を受賞したいかにも現代的な宇宙SF。前回辺境の新任大使として帝国の皇位継承争いに巻き込まれた主人公のマヒートは、今度は宇宙で交戦状態に陥った謎のエイリアンとの交渉のため、帝国で行動を共にしたシーグラスに乞われて宇宙戦争の真只中(まっただなか)に赴(おもむ)く。前作同様の権謀術数(けんぼうじゅっすう)の入り乱れるスパイ小説的要素に加え、古典的なファースト・コンタクトを真正面から描き、そこに帝国での皇位継承者の少年の冒険と成長が挿入される構成で、個性豊かな登場人物の魅力も抜群、篦棒(べらぼう)に面白い作品だ。何気に猫SFなので好きな人は要チェック。


■渡邊利道(わたなべ・としみち)
作家・評論家。1969年生まれ。文庫解説や書評を多数執筆。2011年「独身者たちの宴 上田早夕里『華竜の宮』論」が第7回日本SF評論賞優秀賞を、12年「エヌ氏」で第3回創元SF短編賞飛浩隆賞を受賞。

紙魚の手帖Vol.08
ほか
東京創元社
2022-12-12