【掲載方式について】
- 刊行年月の順に掲載します(シリーズものなどをまとめて扱う場合は一冊目の刊行年月でまとめます)。のちに新版、新訳にした作品も、掲載順と見出しタイトルは初刊時にあわせ、改題した場合は( )で追記します。
例:『子供の消えた惑星』(グレイベアド 子供のいない惑星)
また訳者が変わったものも追記します。 - 掲載する書影および書誌データは原則として初刊時のもののみとし、上下巻は上巻のみ、シリーズもの・短編集をまとめたものは最初の一冊のみとします。
- シリーズものはシリーズタイトルの原題(シリーズタイトルがない場合は、第一作の原題)を付しました。
- 初刊時にSF分類だった作品で、現在までにFに移したものは外しています。書籍化する際に、別途ページをもうけて説明します。
例:『クルンバーの謎』、『吸血鬼ドラキュラ』、《ルーンの杖秘録》など - 初刊時にF分類だったもので現在SFに入っている作品(ヴェルヌ『海底二万里』ほか全点、『メトロポリス』)は、Fでの初刊年月で掲載しています。

ジェリー・パーネル&ローランド・グリーン《地球から来た傭兵たち》Janissaries
大久保康雄、古沢嘉通訳
解説:新藤克己、ほか 装画:鶴田一郎

ラリー・ニーヴン《ギル・ハミルトン》Gil Hamilton
冬川亘訳 解説:新藤克己
カバー:鶴田一郎

ハル・クレメント『窒素固定世界』The Nitrogen Fix, 1980
小隅黎訳 解説:訳者
カバー:安田忠幸
窒素固定とは空気中の窒素を反応性の高い窒素化合物に変換する過程のこと。リンやカリウムと並び生物に不可欠な窒素は、自然では雷などの莫大なエネルギーによらなければ他の物質と反応しないので、古来人類はその工程を研究してきた。本作は、バイオテクノロジーによって発生した酸素を触媒とする窒素固定植物が大繁殖して大気から酸素が失われ、硝酸が溶け出した海ではあらゆる生物が死滅。文明が崩壊しわずかに残された技術によってごく少数の人々が生き延びた二千年後の地球が描かれる。もっとも物語では最初世界がどこであるかは描かれず、視点人物の夫婦は自分たちは違う星からの入植者の子孫で、酸素を必要としない生物をこの星の原生動物(ボーンズ)と考えており、彼らと、古代の人間の科学によって酸素が失われたとする伝承を持つ保守派や、ボーンズをむしろ地球から酸素を奪った宇宙からきた侵略者と考える過激派たちが三巴で互いの利害信念のために衝突しながら、次第に真相が解明されていく。変容した世界の緻密な描写や、実は高度な知性を持つ異星人ボーンズの生態の魅力、窒素循環の触媒が金だと示唆され近代科学の曙を支えた錬金術幻想が回帰するラストも素晴らしい。(渡邊利道)

H・ビーム・パイパー『リトル・ファジー』Little Fuzzy, 1962
酒匂真理子訳 解説:水鏡子
カバー:米田仁士

1984年10月
深町眞理子訳 解説:訳者
カバー:鶴田一郎

1985年1月~
ロジャー・ゼラズニイ《ポル・デットスン》Wizard World
池央耿訳 解説:訳者
カバー:米田仁士

1985年3月
ロバート・シェクリー『残酷な方程式』Can You Feel Anything When I Do This?, 1971
酒匂真理子訳 解説:K・S
カバー:佐藤弘之

クリフォード・D・シマック『超越の儀式』Special Deliverance, 1982
榎林哲訳 解説:安田均
装画:Michael Whelan

R・A・ハインライン『レッド・プラネット』Red Planet, 1949
山田順子訳 解説:高橋良平
カバー:若菜等
強引な火星植民計画を推し進めようとする権力側に対し、反旗を翻す火星開拓者の若者たちの活躍を描く、ハインライン初期のジュヴナイル作品。後の『月は無慈悲な夜の女王』にも通じる、ハインラインお得意のテーマである「革命」を、少年の成長と絡めて描いているところがおもしろい。中盤、主人公たちが火星を縦断しようとする部分は、まさにジュヴナイル小説の典型的な筋立ての一つである「少年少女だけの旅」をSF的な舞台に置き換えて実現していて、実に上手い。また、(今となってはご愛敬というか、科学的にはちょっとしんどい設定ではあるが)火星の原住生物を巡るSF的趣向もきちんと含まれていて、単なる少年視点の冒険ものではない作りになっているところも良い。単純なハッピーエンドとは言えない、ちょっとドキッとするクライマックスと、その先の展開に想像の余地を残すエンディングも素晴らしい。初期のジュヴナイル作品ということで、ハインラインらしいアクの強い政治的主張もきつくなく、リーダビリティの高さが存分に発揮されていて、SF入門書の一つとして、今でも充分にその意義を保っている快作。(堺三保)

1985年9月~
ジェイムズ・P・ホーガン《造物主(ライフメーカー)の掟》Code of the Lifemaker
小隅黎訳 解説:訳者
カバー:加藤直之

R・A・ハインライン『宇宙(そら)に旅立つ時』Time for the Stars, 1956
酒匂真理子訳 解説:訳者
カバー:佐藤弘之

1986年2月
ロジャー・ゼラズニイ&フレッド・セイバーヘーゲン『コイルズ』Coils, 1982
岡部宏之訳 解説:訳者
カバー:佐藤弘之
一九八〇年代後半のサイバーパンク運動によって、SF小説の潮流が変わった。超能力ものが激減したのだ。科学で説明できないからかも、あるいは劇的効果では大友克洋に敵わないとみんな悟ったせいかもしれない。ともかく、精神感応や念動力といった超能力を漫画やアニメやジャンル外文学に委ねて、SF作家たちは超人による社会変革よりも、変容する社会で苦しむ普通人を主題にし始めた。

R・A・ハインライン『スターファイター』(大宇宙の少年)Have Space Suit - Will Travel, 1958
矢野徹、吉川秀実訳 解説:訳者
カバー:佐藤弘之

アイザック・アシモフ『変化の風』The Winds of Change and Other Stories, 1983
冬川亘訳 解説:新戸雅章
カバー:米田仁士
アシモフは初期作から晩年の作まで多くの作品が邦訳されているだけに、作品集はどうしても玉石混淆になりがちだ。83年刊行の本書もやはりいささか石混じりではあるが、玉をいくつか挙げていこう。まずは表題作「変化の風」。周囲からあまり好かれてない物理学準教授が、周囲の尊敬を集める学部長と偉大な業績を挙げた気鋭の研究者に対し、自分が学長選でふたりに勝つために行ったタイムトラベル実験の顛末について語る。主人公のわずかな優越感のために差し出された代価が恐ろしい。「発火点」は、暴徒の心理学を研究する衆愚政治学者が生み出したスピーチ技法が、無能な政治家をカリスマ的指導者に変える。小品ではあるが〝些細なことで群衆がコントロールできること〟の怖さを感じさせる。空中浮揚の能力を得てしまった主人公が能力を信じさせるために悪戦苦闘する「信念」、コンピュータ衛星で起きた些細な不具合を調べるうちに迫りくる危機に気づく「見つかった!」なども悪くない。確かに、英語でしかわからないダジャレで落とす、アシモフのいつもの悪癖が出た「からさわぎ」「あるフォイの死」といった残念な作品もあるが、すべてひっくるめて、アシモフらしさを満喫できる本といえる。(林哲矢)

1986年9月
デイヴィッド・ビショフ『ナイトワールド』Nightworld, 1979
小隅黎、坂井星之訳 解説:小川隆
カバー:安田忠幸

1986年9月
ラリー・ニーヴン&スティーヴン・バーンズ『アナンシ号の降下』The Descent of Anansi, 1982
榎林哲訳
カバー:安田忠幸

マリオン・ジマー・ブラッドリー《ダーコーヴァ年代記》Darkover
大森望、ほか訳 解説:米村秀雄、ほか
カバー:加藤洋之&後藤啓介

1986年12月~
アン・マキャフリー《恐竜惑星》Dinosaur Planet
酒匂真理子、赤尾秀子訳 解説:福本直美、岡崎沙恵美
装画:米田仁士 装幀:矢島高光

1987年3月~
デイヴィッド・J・レイク《ジューマの神々》Breakout
厚木淳訳 解説:訳者
装画:星恵美子 装幀:矢島高光

1987年8月
フレデリック・ポールほか編『ギャラクシー』上下 Galaxy: Thirty Years of Innovative Science Fiction, 1980
矢野徹、ほか訳 解説:鳥居定夫
装画:加藤直之 装幀:矢島高光

1987年11月
R・A・ハインライン『ラモックス ザ・スタービースト』The Star Beast, 1954
大森望訳 解説:訳者
装画:あまのよしたか 装幀:矢島高光
八本足の巨体、なんでも食べて幼い子どものように喋る正体不明の宇宙生物ラモックスを巡って巻き起こる大騒動――そんな筋を聞いて、ああジュブナイルSFね自分はちょっと、と思ったあなた。直ちにその認識を改めていただきたい。

1987年12月
ジョン・ヴァーリイ『バービーはなぜ殺される』The Barbie Murders and Other Stories (Picnic on Nearside), 1980
浅倉久志、ほか訳 解説:山岸真
装画:麻宮騎亜 装幀:矢島高光

1988年5月
チャールズ・シェフィールド『ニムロデ狩り』The Nimrod Hunt, 1986
山高昭訳 解説:大野万紀
装画:加藤直之 装幀:矢島高光
チャールズ・シェフィールドといえばハードSFを書く科学者作家として有名だが、一九八六年発表の本書は少し毛色が違い、宇宙冒険SFを装いつつ、その実は陰謀と権謀術策、男女の愛憎が織りなす複雑な人間ドラマを軸に、知性の変容をテーマとした盛りだくさんな本格SFである。

1988年7月
チャールズ・シェフィールド『マイ・ブラザーズ・キーパー』My Brother's Keeper, 1982
久志本克己訳 解説:山岸真
装画:安田尚樹 装幀:矢島高光
ハード宇宙SFが得意の著者はミステリも好きらしく、処女長編『プロテウスの啓示』(一九七八)がすでに事件捜査物だった。本作は英国・インド・中東が舞台の近未来SFサスペンスで、ヒッチコック風の巻き込まれ型スリラーである。

1988年7月
クリストファー・パイク『タキオン網突破!』The Tachyon Web, 1986
小野田和子訳 解説:残間浩章
装画:幡池裕行 装幀:矢島高光
ティーンエイジャーの春休みの冒険が異星人文明の命運にかかわる英雄的行為に発展する、ヤングアダルトSFの佳作。
1988年9月~
ロジャー・ゼラズニイ《ディルヴィシュ》Dilvish
黒丸尚訳 解説:高橋良平、中村融
装画:天野喜孝 装幀:矢島高光
一九六〇年代アメリカン・ニューウェーヴの旗手にして、SFを経由した神話の再生者。スタイリッシュな文体には皆が憧れたもの……。ロジャー・ゼラズニイは、そうした過去形のイメージで語られ、本シリーズに代表されるヒロイック・ファンタジー群が、とりわけ日本においては過小評価されてきた感は否めない。
だが、特に本シリーズは、ゼラズニイの創作歴における一つの屋台骨なのだ。地獄から生還した《解き放つ者》こと半妖精の騎士ディルヴィシュと豪胆な黒馬ブラックの遍歴は、一九六五年の「ディルファーへの道」より、独立した短編連作という形式をとって、主にFantastic誌に発表されてきた。「ショアダンの鐘」(一九六六)は、〝剣と魔法(ソード&ソーサリー)〟を主題としたL・スプレイグ・ディ゠キャンプ編の先駆的なアンソロジー第四弾Warlocks and Warriors(一九七〇)の掉尾を飾っている。
とにかく密度が濃い。イマドキの作家であれば、各短編を強引に長編エピック・ファンタジー連作へと引き伸ばすだろうが、そこはリルケに学んだポエジーが彩る「伝導の書に捧げる薔薇」(一九六三)の作者ならではの切り込み。主人公のDilvishという名前はElvish(妖精の言葉)やDervish(スーフィの修行僧)を想起させるが、夢幻的かつ抑制的な筆致のなかで、設定のための設定は大胆にカットされ、アクションとダイアローグの清新さにこそ焦点が絞られている。昏さを背負うダークヒーロー像という観点からも、かのマイクル・ムアコックの《エルリック・サーガ》への向こうを張ったかのようである。
『地獄に堕ちた者ディルヴィシュ』(一九八一)を読めば、短編としての成果を一望できるが、シリーズの転回点は「血の庭」(一九七九)だろう。本作では麻薬めいた花や呪文の効能で人間の形姿をとったブラックとディルヴィシュが共闘し、生贄にされようとしていた女司祭サーニャを救おうとする場面が描かれる。剣戟の迫力、息のあった掛け合いは、フリッツ・ライバー《ファファード&グレイ・マウザー》への応答のようである。「血の庭」の初出誌「ソーサラーズ・アプレンティス」三号は、RPG『トンネルズ&トロールズ』のサポート記事を掲載していたプロジンで、編集者でゲームデザイナーのケン・セント・アンドレはゼラズニイと文通し、イラストレイターのロブ・カーヴァーは《ディルヴィシュ》の年季が入ったファンだった。彼らは新興メディアであったRPGと、質の高い小説の相互作用に期待をかけていたのだ。続く『変幻の地のディルヴィシュ』(一九八一)は長編で、W・H・ホジスン『異次元を覗く家』やH・P・ラヴクラフトらの《クトゥルー神話》に対する大胆なオマージュ。これによって《ディルヴィシュ》は、ウィアード・ファンタジーの文脈そのものを、まるごと更新してみせたのである。(岡和田晃)

1988年10月
イアン・ワトスン&マイクル・ビショップ『デクストロⅡ接触』Under Heaven’s Bridge, 1980
増田まもる訳 解説:訳者
装画:加藤直之 装幀:矢島高光

テア・フォン・ハルボウ『メトロポリス』Metropolis, 1926
前川道介訳 解説:訳者
一九二七年公開、ドイツの巨匠フリッツ・ラング監督による古典的名作SF映画の、当時の妻ハルボウによる原作本。刊行は唐突に見えるが、実は前年末にアメリカ時代のラング作品が上映され、再評価の機運が高まっていた。

ラリー・ニーヴン&ジェリー・パーネル『降伏の儀式』上下 Footfall, 1985
酒井昭伸訳 解説:酒井昭伸、竹原沙織、小浜徹也
装画:末弥純 装幀:矢島高光
ニーヴンとパーネルの共作は『神の目の小さな塵』など多数あるが、読み応え満点の作品が多い。アメリカで一九八五年に出てベストセラーとなった本書もその一つ。

1989年1月~
E・R・バローズ《アパッチ》The War Chief
厚木淳訳 解説:訳者
装画:加藤直之 装幀:矢島高光

1989年3月
R・A・ハインライン『ルナ・ゲートの彼方』Tunnel in the Sky, 1955
森下弓子訳 解説:大森望
カバー:佐藤弘之

ディヴィッド・A・カイル《ドラゴン・レンズマン》Authorized Lensmen Trilogy
小隅黎訳 解説:山岡謙、ほか
装画:幡池裕行 装幀:矢島高光
E・E・スミスのあまりにも有名なスペース・オペラ《レンズマン》シリーズの脇役である、異星人レンズマンたちを主人公にして、筋金入りの古参SFファンでもあるカイルが書き上げたスピンオフ作品。ちなみに、カイルがどれくらい古参かというと、一九三九年、主催者を批判する小冊子を作って配布したために、第一回ワールドコンに出入り禁止になったという曰くがついているのだといえば、わかっていただけるだろうか。そんなカイルのこと、原典であるレンズマン世界を知り尽くしたうえで、細かいくすぐりも満載に話を展開、原典の主人公たちも登場して活躍するというサービスぶりで、原作ファンも納得の外伝と言っていいだろう(ただし、原典ではこの物語時点では存在しないはずの第二の女性レンズマンを登場させたことで、一部ファンはお怒りだとか)。もっとも、逆に言えば「良くできた二次創作」の枠からはみ出していないところが弱点ということも言える。もう一人、パレイン人レンズマンのナドレックを主人公に据えた第三作Z-lensmanが未訳なのが惜しまれる。(堺三保)

1989年4月
フィリップ・K・ディック『去年を待ちながら』Now Wait for Last Year, 1966
寺地五一、高木直二訳 解説:寺地五一、大森望
装画:松林冨久治

ジェイムズ・P・ホーガン『終局のエニグマ』上下 Endgame Enigma, 1987
小隅黎訳 解説:永瀬唯
装画:加藤直之 装幀:矢島高光
ロシア革命百年を記念してソビエト連邦が建設した宇宙島〈ワレンティナ・テレシコワ〉。それは一万二千人以上の人々が暮らす巨大な円環体であり、同国が掲げる宇宙の平和利用の象徴だった。だが米国の諜報筋は擬装計画の背後に地上を攻撃するレーザー兵器の存在をつかむ。国防総省作戦課のルイスと空軍の通信科学者ポーラの二人は真偽を探るべく、招待客を装いコロニーに潜入するが逮捕されてしまう。地上から何十万マイルも離れた敵国のコロニーに監禁された二人だが、その裏には想像を絶する巨大な陰謀が隠されていた。

フィリップ・K・ディック『ザップ・ガン』The Zap Gun, 1967
大森望訳 解説:訳者
装画:松林冨久治
世界が東西の二陣営に分かれて兵器開発を競う未来世界(当時)で兵器ファッション・デザイナーを務めるラーズは超次元空間に意識を飛ばして、そのトランス状態中に新兵器のスケッチを書き取る特殊能力がある。東側陣営にも同様の能力の持ち主リロがいる。激しく東西が戦う世界のように見えていても密約があって実際にはそうやって開発された兵器で人々が殺し合っているわけではなかった。その代わり、それらの新兵器は日常品開発に活用されている。それを担うのがコンコモディーと呼ばれる六人である。その世界に異星人がやってきて人工衛星を配置するようになる。兵器ファッション・デザイナーは東西で協力して異星人に対抗する兵器を造るという任務を課せられることになった。

1989年7月
ロジャー・ゼラズニイ『アイ・オブ・キャット』Eye of Cat, 1982
増田まもる訳 解説:訳者
装画装幀:吉永和哉 協力:佐藤仁
『光の王』などの神話とSFを融合させた作品で知られるロジャー・ゼラズニイが本書でとりあげたのはアメリカ先住民ナヴァホの神話である。ナヴァホの呪術師は歌の力で厄を払い病を癒すという。本書の主人公ビリーはナヴァホ最後の呪術師であり、異星生物ハンターとして宇宙をかけめぐって数多くの異星生物を博物館に送り込んできたが、そのなかの変身獣「キャット」はひょっとすると知的生物だったのではないかとひそかに思っていた。そしてあるきわめて困難な依頼を受けたとき、彼は「キャット」に協力を依頼した。予想どおり「キャット」は知性生物であったが、協力の見返りにビリーの命を要求した。こうしてふたりは命を懸けて戦うことになる。ビリーが戦いの場に選んだのはナヴァホの聖地にしてナヴァホ神話の舞台でもあるアメリカ南西部のナヴァホの土地〈ディネター〉だったが、作中にちりばめられたナヴァホ神話のエピソードとビリーが歌う祈りとしての詩がナヴァホの聖地で響きあって、本書はさながら新たなるナヴァホ神話となり、壮大な自己回復の物語へと変貌を遂げるのであった。本書はまぎれもなく埋もれた傑作であるといえるだろう。(増田まもる)

1989年9月~
L・ニーヴン&J・パーネル&S・バーンズ《アヴァロンの闇》Heorot
浅井修、中原尚哉訳 解説:大森望、堺三保
装画:末弥純 装幀:矢島高光

フィリップ・K・ディック『死の迷路』A Maze of Death, 1970
山形浩生訳 解説:訳者
装画:松林冨久治

1989年12月
バリントン・J・ベイリー『時間衝突』Collision with Chronos (Collision Course), 1973
大森望訳 解説:大野万紀
カバー:松林冨久治
【新版】2016年刊

1990年3月
フィリップ・K・ディック『タイタンのゲーム・プレーヤー』The Game-Players of Titan, 1963
大森望訳 解説:訳者、牧眞司
カバー:松林冨久治

1990年6月~
フィリップ・K・ディック《ヴァリス四部作》VALIS
大瀧啓裕訳 解説:訳者
装画:藤野一友「抽象的な籠」、ほか 装幀:松林冨久治

1990年8月
R・A・ハインライン『宇宙の呼び声』The Rolling Stones (Space Family Stone), 1952
森下弓子訳 解説:訳者
装画:佐藤弘之 装幀:矢島高光
月生まれの天才一家ストーン家の自家用宇宙船での惑星間旅行を描いたジュヴナイル。月独立の立役者である祖母、元市長で作家の父と医師の母に、一女三男のストーン一家。平凡とは無縁の彼らだが、中でも十五歳の双子は無許可の核実験で逮捕されたことがあるほどの天才悪ガキコンビだ。二人は特許で手に入れた資金を元手に、宇宙船と中古自転車を購入し、鉱山惑星に持ち込んで転売利益を得ようと画策するのだが……。原題のThe Rolling Stonesは、「転がる石になれ」というストーン家の家訓で、宇宙船の名前でもある。明快な経済観念や正義感と、ファミリー・シットコムのような会話劇もさることながら、宇宙船が自転車の縦列を牽引しながら飛ぶという日常と非日常が融合した光景が子供の心をわし掴みにする。ハインラインのジュブナイルの中でも最も愛すべき作品だ。なおストーン家はハインラインの月作品には欠かせないキャラで、『月は無慈悲な夜の女王』では十代のヘイゼルが活躍し、さらに『獣の数字』、『ウロボロス・サークル』にも登場。『落日の彼方に向けて』ではヘイゼルに加えて双子のその後も語られている。また本作に登場する無限増殖する宇宙猫は、『スタートレック』のトリブルの元となっており、ハインラインはアイデアの対価にサイン入り台本のみを受け取った。(三村美衣)

1990年11月
フィリップ・K・ディック『ジョーンズの世界』The World Jones Made, 1956
白石朗訳 解説:鳥居定夫
カバー:松林冨久治

1991年1月~
ロイス・マクマスター・ビジョルド《ヴォルコシガン・サーガ》Vorkosigan Universe
小木曽絢子訳 解説:訳者、ほか
装画:浅田隆 装幀:矢島高光

1991年2月
マイク・レズニック『サンティアゴ はるかなる未来の叙事詩』上下 Santiago: A Myth of the Far Future, 1986
内田昌之訳 解説:山岸真
装画:朝真星 写真:北口佳央 装幀:ワンダーワークス(吉永和哉)

1991年4月~
チャールズ・シェフィールド《マッカンドルー航宙記》McAndrew Chronicles
酒井昭伸訳 解説:橋元淳一郎、訳者
装画:加藤直之 装幀:矢島高光

1991年5月
バリントン・J・ベイリー『永劫回帰』The Pillars of Eternity, 1982
坂井星之訳 解説:中村紀夫
カバー:松林冨久治

1991年6月
フィリップ・K・ディック『虚空の眼』Eye in the Sky, 1957
大瀧啓裕訳 解説:訳者
装画:藤野一友「レダのアレルギー」 装幀:松林冨久治
陽子ビーム偏向装置の実験中に起こった事故によって、見学に来ていた人とガイドの八人が観察台から強烈な磁場が存在する床に落下。奇跡的に軽傷だった見学者たちが目覚めると、そこは意識を失った八人の精神世界が順に発現してゆく世界であった。
ディックは一九二八年生まれ、五五年にセグレとチェンバレンはカリフォルニア大学バークレー校の加速器ベヴァトロンを使った実験で反陽子を発見し、五九年にノーベル物理学賞を受賞している。本書の冒頭に事故が起こった日を五九年十月二日としている。ディック、三十歳の時である。見学者の一人、ハミルトンは電子工学専門家で妻のマーシャと共に事故に遭った。ハミルトンは、勤めていたミサイル調査研究所から妻の素行(穏やかな社会活動)を理由に休職に追い込まれていたのだ。これは、四九年から五〇年代前半に吹き荒れた共和党マッカーシーによる「赤狩り」が背景にある。今、読むと見えにくいが、同時代のグロテスクさがかなりストレートに反映されたディック初期長篇だといえる。巻末には訳者による詳細な解説付き、本書は八六年サンリオSF文庫から刊行された。(大倉貴之)

1991年8月~
マイクル・P・キュービー゠マクダウエル《トライゴン・ディスユニティ》Trigon Disunity
古沢嘉通訳 解説:永瀬唯、大野万紀
装画:加藤直之 装幀:矢島高光

メリッサ・スコット『遙かなる賭け』The Game Beyond, 1984
梶元靖子訳 解説:C・J・チェリイ
装画:杉本要 装幀:矢島高光